留学生日記29~フランス語の履歴書~ | パリと音楽と大学と

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パリにて声楽、シャンソンを指導。パリの音楽学校在学中より、フランス各地・ヨーロッパで様々なコンサートを経験。フランス国家公認声楽講師資格。アラフィフの物語を振り返るつもりです。

ある日、音楽雑誌で、とある「募集」が目に留まり、それに応募してみようかと思った。どうにかこうにか読んでみると、オーディションには、準備書類が必要だ。録音、これはなんとかなる、しかしてその隣に「履歴書」とある。


履歴書?


ふらんすごでだよね。


どうしようかね。


日本から持ってきた本をめくってみたものの、履歴書のほとんどは、大学への推薦の際に使うものや、仕事のためのものだ。音楽家の履歴書など皆無である。どうやって書いたらいいのかな?どうしようどうしよう? と悩んだ挙句、センパイ、違う科目の同輩に、各自の履歴書をもらって参考にすることにした。ウーン、でも、センパイほど書くことはないし、友人は科目が違いすぎた。


日本の大学名すら、どう表現してよいかわからなかった。今でもわからない。「芸術」をそのまま訳すとartだけれど、これだけでは、音楽という意味には絶対ならないのだ。というわけで、音楽に、美術を意味するbeaux-artsまでくっつけた名前にした。(行稼ぎにもなるので、悪くはない。)日本で行ったコンサートを一生懸命思い出して箇条書き。


けれども、まとまらない。これ以上は、履歴書を分けてくれた人たちにも聞きにくい思いがした。フランス人、大して知り合いはいない。そうだ、交換授業の相手に聞いてみよう・・・


少し明るくなり始めていた季節、待ち合わせに行くと、彼の友人であるという人の家へ行くことになった。友人と、またその友人もいて、合計3人のフランス人(実は純粋にはそうではなかったのだが)に囲まれる。ひとりは、知り合いのダンサーの履歴書をもってきてくれていた。これだ、これ。これが、一番近い感じだ。


短い約束の時間はどんどんと過ぎてしまった。まだ滞在一年にも満たないので、私には聞き取れないことが多い。みなして必死になり、どこを削って、どこを強調しようか、延々と考え込んでくれる。3人とも真剣だ。


フランス人が勝手だなんて、誰が言ったんだ? と思った。

赤の他人のために、こんなに粘ってくれるとは・・・本当に、ありがたく思ったのだ。


残念ながらその日は時間切れ。ナントカその後、自分でまとめて、フランスで購入した


”タイプライター”


で、打った。ケチったので、修正ができないタイプ。一度失敗したら、すべてやり直し・・・


ともかく、私のフランス語の初の履歴書ができあがリ、無事にオーディションに来いとのお知らせがやってきた。