しかし、兵士の目を見た瞬間、ハンベエは目を見張った。(イザベラっ)危うく、声が出てしまうところであった。どうみても、普通の若い男の兵士にしか見えない。だが、その目を見たハンベエはイザベラが変装しているものと、疑いようもなく直感した。兵士はハンベエを見つめ、意味ありげに目配せした。ハンベエはさ有らぬ体を装い、コーデリアスとともに、そのまま出口に向かった。「後でね。」ハンベエにだけ聞こえるイザベラの声がした。一方、バンケルクは執務室で、彫像のようにじっと立ち尽くしていた背後の若者に向かい、「モルフィネス、あのハンベエという男。何者だ?」 と尋ねた。どうやら、この美貌のだんまり男、モルフィネスというらしい。バンケルクの執務室からは、いつの間にか、護衛の士官は消え、バンケルクと背後に立っ優思明 Yaz避孕藥のみとなっていた。護衛の士官は、ハンベエに斬られたもう一方の士官の亡骸の始末に行ったらしい。「ハンベエがどういう人物かは、私よりも将軍の方が良くご存知では?」モルフィネスと呼ばれた士官が答えた。相変わらず、真っ直ぐに立ったままの姿勢が崩れない。端正な面立ちをしているが、氷の様に冷たい印象を与える。声は穏やかだが、感情のカケラさえ感じられない無機質なものに聞こえた。「わしが知っている?・・・どういう事だ。」バンケルクは怪訝な表情をした。「閣下はお忘れですか。あのハンベエは、王女様からの紹介状を持参して、タゴロローム守備軍にやって来たと聞いておりますが。」「むっ・・・そう言えばエレナ殿からの紹介状があったような気もするな。・・・思い出した。何でも、姫を刺客から守ったとか、当代稀に見る武勇の士であるから、士官にして欲しい旨が書いてあったな。」バンケルクが思い出したように言った。だが、それは取って付けたような、いかにも白々しい言いようだった。「なぜ、王女様の推薦が有りながら、士官にしなかったのですか?」「馬鹿な事を。姫にどう取り入ったか知らぬが、あのような氏素性も分からぬ男を。それに武勇の評判も当てになったものではない。」「ハンベエという男の武勇の話なら、私の耳にも入っていますよ。フナジマ広場でベルガン一派百人を一人で討ち果たしたのは、かなり有名な話になっています。」「そんなもの、ちょっとした決闘に面白おかしく尾鰭がついただけであろう。さっきのアルハインドの総司令官を討ち取った話といい、とんだ食わせ者だよ、あの男は。」「そうでもないでしょう。先程目の当たりにした動きは、常人のものではありませんでしたし、アルハインドの件についても、崖から、敵に岩を落とし、その後アルハインドの動きを監視していた私の配下から、崖から敵将に襲い掛かって首を取った人物がいた旨の報告がはいってます。閣下にもお伝えしたはずですが。」「それが、あのハンベエという男だと言うのか。」「話の辻褄が合うではありませんか」モルフィネスは、初めて薄く笑い、さらに続けて言った。「あの男、最初から、それなりの待遇をして、こちらに取り込んでおくべきでありましたな。」「まさか。あのような姫に取り入る害虫を。」「閣下は、嫌にあの男、ハンベエに対して、悪意のある感情をお持ちのようですな。」「当たり前だ。さっきの態度を見たであろう。あのような、上を上とも思わん、反抗的な輩を、何で士官になどできるものか。それより、あの男目障りだ。お前の配下には、あのような害虫を駆除する腕利きがいるだろう。消してしまえ。」「反抗的・・・ハンベエという男が、あのような態度に出るのも、閣下の最初の処遇が大いに影響していると、私には思えてならないのですがね。まあ、それはそれとして、あの男の口からサイレント・キッチンから監査に出向いているシャベレーの名が出ましたよね。一介の兵卒風情がシャベレーの名をあげた事を、将軍は疑問に思われませんか。」「・・・あれは出任せのハッタリではないのか?・・・」