ゴンザロは最初は、時間をかけてじっくりと噂を流すつもりであった。だが、予定外の事が起った。エレナ捕獲ために、追跡隊が派遣された事である。イザベラやモルフィネスとは違い、ゴンザロは王女エレナがタゴゴロームにやって来ている事など、露知らなかった。追跡隊が出された時点で初めて知ったのである。ゴンザロは王女エレナにさしたる感情は持っていない。『雲の上にいるナンダカナアな人』ぐらいの気持ちである。であるから、エレナに追っ手が掛かった事など、藥性子宮環經痛『おやおや』くらいに考えていた。だが、それに続いて起った出来事がゴンザロを慌てさせた。追跡隊250人を追うようにして千人もの兵士が付いていったのである。バンケルク達は手柄を狙って兵士達が勝手に動いていると思ったのだが、実は脱走兵であった。ゴンザロの扇動に乗ってバンケルク等司令部に見切りを付けた兵士達が追跡隊の派遣されたのを見て、これ幸いと後に続く振りをして陣地から逃げて行ったのだった。

それを見たゴンザロはのんびり噂を流していたら、兵士達に浸透する前に、司令部にバレて対策をされるかも知れないと焦ってしまった。そこから後は駆け回るようにして、ナリフリ構わず喧伝して回ったのであった。その結果、目立ち過ぎてポーク達にふん捕まってしまったというわけである。ポークがゴンザロを引き立ててバンケルクの所まで連れて行くと、バンケルク憎々しげに言った。「貴様はハンベエの一味だな。ふざけた真似をしおって、見せしめのためにこっぴどい処刑方法を考えてやる。」「ふっ、今の内に意気がっているがいいさ。テメエはもうおしまいだ。ザマアミヤガレ。」バンケルクの恫喝にゴンザロは怯むどころか、嘲り笑うように言い返した。次の瞬間、バンケルクは抜き打ちに剣を抜いて、ゴンザロの胸に突き立ててしまっていた。通常であれば、将軍たるバンケルクがゴンザロのような下っ端を自ら剣を抜いて斬り捨てるような事はあり得ない。しかも、処分も決定してもいないのだ。これには、連隊長ポークも少し驚いた様子だ。雑兵に過ぎないゴンザロに『テメエ』呼ばわりされた事が、バンケルクの理性のタガを引き千切ってしまったようだ。バンケルクは怒りに駆られて自分を制御できなかった。胸を刺されたゴンザロは尻餅をつき、ゴボゴボと血の泡を吹きながら、次のように呟いて事切れた。「パッとしねえ人生だったが、ゲフッ・・・最後はそれなりに、カッコ良く死ねるぜ。」この中年男の前半生はどんなものだったのだろう。今となっては、その口から語られる事は無い。バンケルクの下に各連隊長達が続々と駆け付けて来た。第1連隊長ポークは既に来ているとして、第2連隊長クラトコ、第3連隊長シャトー、第4連隊長ブリアン、皆々初登場である。諸将は、血の海に倒れているゴンザロのナキガラを見て驚いた様子だったが、『会議室へ』とバンケルクに促されて、一先ずそちらに向かった。バンケルクも骸の片付けを兵士に命じてから、自分自身も又会議室に向かった。会議室――そんな物もあったのだ。普段は使われていないらしい。会議室は6メートル平方の広さで、部屋の中心に10人掛けの円卓がデンと置かれていた。諸将は――椅子おいて間を空けて座り、最後にバンケルクが座った。「突然、諸君に集まってもらったのは、他でもない。第5連隊長代理を称しているハンベエの狼藉、最早見過ごせない。タゴロローム守備軍の全軍を以て第5連隊ごと叩き潰す事に決めた。早急に兵員の配備をしてもらいたい。」座るなり、バンケルクは言った。既に興奮状態である。アルハインド勢との戦いの後、今は亡きコーデリアスの連隊帰還報告に付いて行ったハンベエと対峙した時は、憎々しい程の落ち着きを見せていたバンケルクも虎の子の軍資金を奪われて、相当頭に血が上っているようだ。