GCM郡山に行ってきました その9 〜第4部編(下の1)〜 | 正直、スマンカッタ!

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フリーランスライターSATOの仕事&プラペの記録。

 第四部では「食」に関する話題も絶えなかったが、一つのキーとなる発言をしたのは、放射線測定器ワークショップでお世話になった一宮さんだった。ご自身もかわっている飯館村の除染の話に触れつつ、
「食べるのが好き。(福島の)おいしいモノを食べたい」
 と素直な気持ちを話してくれた。

 おいしいという視点。とても重要だと思う。
 福島には、声を大にして「うまい」と言える食がそろっている。桃やリンゴ、サクランボといった果物はもちろん、野菜も、米も、肉も、魚も一級品がそろう。ただし、全国シェアNO1ではなく、3位とか4位当たりがゴロゴロしているのが福島クオリティ。福島と言えばコレ、という食がないのはPR戦略上痛いかもしれないが、オールマイティにトップクラスというのは、一つのウリになるのではなかろうか。ちょうどロンドン五輪で体操の内村航平選手が、どれか一つの種目だけのスペシャリストではなく、どの種目でもトップに入る力を持つゼネラリストであるように。

「今は安全と安心のアピールばかりで、おいしいの一言がありません。安全安心では消費者は心動かされないのではないか。『おいしい』が人を誘惑するのではないでしょうか。スローガンに『がんばっぺ』はもう終わり。次を考えなくてはいけない」
 ある参加者は、そう提言した。まさにその通りだろう。
 違う流れでの発言だったが、一宮さんが
「生産者が基準値の引き下げ合戦に萎縮している現状がある。『これくらいまで出ませんでした』ではなく、『うまいぜ』といいたい。顔が見える売り方がひとつの方法だと思う」と話していたのも印象的だった。

 しかし、いくらうまい食がたくさんあっても、放射線問題云々の以前に福島には大きな弱点を抱えている。会場から聞こえてきたのは、「福島はブランドを作るのが下手」という声。そう、福島は宣伝が苦手なのである。アイディア自体は面白くとも、官民あるいは民間同士の連携が取れていないがゆえに単発で終わったり、“いいものは自然と売れる”志向で宣伝する気がなかったりで、いくつもの良品が日の目を見ないでいる。
 ときには隣県に名物を奪われることもある。前回も触れたが、「芋煮」が山形名物となり、牛肉と醤油の味付けが本流的な位置づけになっているのは納得できん! 元祖、本家、本流は、は福島(ついでに宮城)の豚肉&味噌の芋煮である。山形は何かとブランド化が上手く、こっそりと名物を持って行ってしまうんだよな(ぶつくさ)。ま、長くなるので芋煮の話は泣く泣く割愛しよう。

 そうこうするうちに、福島のお菓子を全面的に売り出せばいい、という意見が聞こえてきた。
「ままどおる、ゆべし、薄皮饅頭。福島には、おいしいお菓子がたくさんあるよ」
 ここで俺の血管がぶちっと切れた。今回は発言を控えようと思っていたが、どうしても、どぉおぉぉしても耐えきれず、ボソッと一言、呟いてしまった。

「全部、郡山のお菓子じゃねぇーか!」

 この三点セットはすべて郡山のメーカーが作ったものだ。福島県民が日常的に口にする愛すべきお菓子ではある。しかし、敢えて言わせてもらおう。「郡山だからといって、何をしても許されるのか!」(by 前田日明)。食材が多様なように、福島のお菓子も多様である。我が会津でいえば、会津葵やら、長門屋の駄菓子やら、柳津のあわ饅頭やら。
 そもそも、福島県の中心地たる郡山は文化的にも、商業的にも、他の地域に比べれば優遇されている土地柄なのに、食までも持ってかれてしまっては、たまったもんじゃない(ぶつぶつ、ぶつぶつ)。何も、郡山ばかりがお菓子の産地ではないのだ! 我々にもリングに上がる資格がある!

 ――ってな感じでいつも毒を吐いているのだが、正直、郡山のお菓子が一枚上手なのは紛れもない事実だと思う。郡山の食品メーカー各社はそのアクセスの良さ、調達のしやすさなどを駆使して、200万県民のすべてを相手にしてきただけに、大規模な商売では圧倒的な強みを発揮する。だからこそ、福島県内のみならず、広く県外でも名を轟かせることができているのである。実際、薄皮饅頭の柏屋は東京・大塚にテナントを出店しているし、かんのやのゆべしも、都内スーパーでよく見かける。ままどおるの三万石などは福島物産展などがあれば必ずと言っていいほど中央に陣取る福島のお菓子の王様だ。そういえば、 酪王カフェオレの酪王も郡山である。セブンイレブンと取引するなど、日本全土をマーケットにできる力があるからこそ、県内の他乳業メーカーを大きく引き離しているのである。(べこ乳マニアの俺もその点に異論はない)。

 会津やいわきなら地域おこしレベルでいいだろう。が、郡山で何かをするならば、産業を俯瞰する視点から何かにトライできそうな気がする。郡山3点セットのみなさんには、地域限定の名産品という小さな枠ではなく、もっと上を目指してほしいと思う。

 うだうだ考えていると、ふと、後ろの郡山市民の声がしてきた。
「郡山以外も太陽堂の麦せんべいとか、いろいろある!」
 いや、麦せんべいは福島市だけど、その他の地域のお菓子は“いろいろ”か(泣 郡山ェェェ 

 そうこうしているうちに、話は再び重い方向に戻っていく。
 「今まで何人の架空の福島県人が殺されたのか、と怒りを感じる」
「浪江の人が二本松に来ているが多くの人はバラバラになった。郡山の人間は自分の家に住んでいるから大丈夫と言えるが、彼らはそれもできない。どうしたら彼らに力を与えられるか悩む」
 (久世さんのツイートから)
 後者の発言をされた方は、涙を流しながら訴えていた。

「ジャーナリストたちの誤情報が許せない。タカシとか、ひどいじゃないですか」
 参加者のそんな発言にキクマコさんが苦言を呈する。
「誰かを批判する時イニシャルはやめましょう。『上杉隆』といいましょう」
 
 上杉隆氏が何をしたかは、面倒くさいのであんまり指摘したくないが、
・「上杉隆が引用したウォールSt.ジャーナル記者の『(郡山に)人は住めない』発言は無かった」http://togetter.com/li/276770 
・「上杉隆が測った線量は106.87μSv/h!→本当は10687cpmでした。【上杉隆が警戒区域内に入った】」http://togetter.com/li/339960
 とか、検索すれば山ほどてくる。キクマコさんが強く糾弾しているということは、EM菌と同レベルに上杉隆氏は有害だということであろう。上杉氏は週刊誌出身か。だったら、捏造、するでしょうなぁ。

「郡山は住んでもいい地域になっている。外からそうではない、と言っているのが上杉氏たち」
「危険情報は刺さる。軽い気持ちで言ったこと、誰かの人生を変えてしまう」
「WBCの結果を知りたくないという人もいる。疲れてしまって。(浜通りから逃げた人)。そういう人に外からの情報で追い打ちをかけている」
 いずれも久世殿のツイートから引用した順一さんの発言である。
 まぁ、上杉氏の影響力、どこまであるのかなぁ。所詮、彼はネットにだけに咲く徒花で、世間の多くは上杉の名を知らない。万年トンデモ志向な特定層にしか響かないだろう。
 個人的には、もう、ほっといても構わないと思っていたが、そんな甘い考えをキクマコさんの厳しい一言が貫く。
 「デタラメで人に絶望を与えてどうするの」
 嘘偽りで絶望を与えるような人間を野放ししておく理由はないわ。反省。

 福島に絶望を与える人もいれば、希望を与える人もいる。早野教授ら講師陣の行動がまさにそれだが、個人的には尻Pに大きな拍手を送りたい。
「事故という非日常の事態に、ハイテクに、スマートに立ち向かう福島は、SF屋としてはカッコイイと感じる。また、NDじゃなく、ちょいと出ているくらいなものは食べる。そのリテラシーもカッコイイ。そういう状況に誇りを持って欲しい」
 とは尻Pの発言だ。放射線オタクの人でなしを自称する尻Pの言葉には、随分、励まされた。震災直後もそうだった。尻Pが福島を訪れたときのブログ(2011年5月)をちょいと引用してみる。

まず本人が自分を差別しないことだ。リスクが算定できないほどの汚染で「自分たちは穢れてしまった」「もう子供が産めない、結婚できない」などと考えるのはやめよう。無知な人が偏見を持つとしても、そうでない賢明な人は必ずいる。今回の原発事故がなくたって、伴侶には賢明な人を選ばなければならないのだから、格別苦労が増えるわけではない。結婚や出産はどのみち勇気の要ることだ。
http://d.hatena.ne.jp/nojiri_h/20110501/1304235543

 こういうメッセージは、とても心強い。本来、科学コミュニケーション的な立場の人が発するべきだろうが、どうもあの方面が思想的な問題で上手く機能していないのが残念な限りだ。

 今回で終わりの予定だったが、すんません、延長ということで…。続きます。