(四十五) ねずみ とりびあ
今年の干支は「ねずみ」、文球院は何度目かの年男。
それにしても、子供の頃、岐阜の我が家の天井裏を我が物顔で走り回っていたのに、もう三十年ぐらい
あれだけ身近だったネズミにお目にかかったことがありません。
横浜で、当時ファミレスがサラダバーを始めたばかりでもの珍しく、一家でわざわざ港南区のフォルクスまで出かけた時のことです。 お変わり自由で当時は珍しかったサウザンアイランドのドレッシングを好きなだけかけて食べるのが楽しみで、わくわくして見知らぬ人たちと順番待ちをしているとき、大きなドブネズミが全員の足元を走り回ったのです。大騒ぎをしたのですが、あれが生のねずみと遭遇した最後で、日本も表向きは清潔?な国になったものです。
昨年の干支は「猪」 以前古事記に登場する話を書きましたが、さすがさすが「ねずみ」も負けてはいません。 立派に「神の使い」として登場します。 若い人たちには無理があるでしょうが、我々と同年代の人達は「大国主命(おおくにぬしのみこと)」の名前だけは知っている事でしょう。 須佐之男命(すさのおのみこと)の子孫で、天照大神(あまてらすおおみかみ)に国譲りをしたことで有名で、出雲大社(いずもたいしゃ)の祭神で縁結びの元締?です。
この大国主命。八十神(やそがみ)と呼ばれる大勢の兄弟の末っ子で、因幡(いなば)にいる美しい八神上売(やがみひめ)に求婚するため、先を行く兄弟の荷物を全部袋に入れて持たされ、今でいうイジメにあっていたのです。
「♪大きな袋を肩にかけ 大黒様が来かかると ここに因幡の白うさぎ 皮を剥かれて赤はだか……♪」と歌い出すと、文球院は今でもこの童謡を最後まで歌えるのです。
ワニザメを騙してその背中に乗って隠岐の島から渡ってきた白うさぎが、怒ったワニザメに皮を剥がれ、そこへ先に通りかかった八十神たちが嘘の治療方法を教えたから、傷が悪化して苦しんでいるところに、兄貴たちを追って遅れてやってきた大黒様が「きれいな水で身体を洗い、がまの穂先でくるまりなさい」と教え 「♪大黒様はだれだろう おおくにぬしのみこととて 国を開きて 世の人を 助けなされた 神様よ♪」
「ねずみ」ではなく「うさぎ」ではないかと怒られそうですが、この後立派に登場します。
大勢の兄弟たちが求婚しても、「うん」と言わなかった八神上売を射止めたのは、思いもよらぬ末っ子の大国主命。 やがて時を経て須佐之男命(すさのおみこと)の娘の須勢理毘売命(すせりびめ)が大国主命に一目惚れ。 「ただの醜男(ぶおとこ)ではないか、」と気に入らない須佐之男命は、蛇の部屋に寝かせたが、姫がスカーフのような物を授けたため無事に脱出。 翌日はムカデと蜂がいる部屋に寝かされたがこれまた無事通過。次は野原に行くように言われて、周りに火を放たれ、もうここまでと思った時に、ねずみがやって来て「内はほらほら 外はすぶすぶ (穴の内側は広い、穴入り口はすぼまって狭い)」
それを理解した大国主命がその場を踏んでみると、地面の中に空いていた穴に落ちて隠れることが出来て、猛火をやり過ごせたのです。 大国主命にとって「ねずみ」は正に命の恩人。 神の使いだと言われる所以です。 京都左京区、哲学の道近くにある「大豊神社」(創建は平安初期の仁和3年 887年)にあるのは狛犬ではなく狛ねずみ。 もう目からうろこのねずみの守り神です。 全国約八万社ある神社の中でも珍しく、大國社に鎮座するねずみ様を、元気なら子年の今年に一度お参りしたいものです。
出雲大社の大国主命がいつの間に大黒様になったのか? 大黒天はもともと「マハーカーラ」と呼ばれるヒンドウー教のシバ神の異名で、日本には密教の伝来と一緒に伝わり、中国では「財福」を強調して祀られたのが伝わったのだそうです。 大国主命の大国と大黒天の大黒が共に「だいこく」と発音するところから、室町時代以降、いつのまにかこの二つが習合したのでしょうか。 「大黒天」の像は米俵に座って打ち出の小槌(うつでのこずち)を持っているのが多いですが、その俵に「ねずみ」が載っている像もあるので、やはり大国主命との関連性が判ります。
あの「平清盛」を著した「源平盛衰記」(鎌倉時代)の第一巻に「鼠は大黒天の使者なり。この人の栄華の先表なり」とあり、清盛の栄華を予告存在として登場しており、この時代にはもう「ねずみ」を大黒天の使者とする民間信仰が、始まっていたのでしょう。
十二支の始まりがなぜ「ねずみ」だったのか。 後世の人達は面白おかしく、牛が足が遅いので夜中から神様から言われた集合場所へ出発し、鼠は牛の背中から最後に飛び降りたので一番に着いたのだとか、神様から言われた集合日時を猫には嘘をついたので、猫は十二支に入れてもらえず、それを憎んで鼠を追っかけ回すとか、子供の頃から聞かされていたが、結構納得していたものです。
私達が子供の頃から馴染んでいたのは、家に住み着く「クマネズミ」、耳が大きくて尻尾が長く家の天井を走りまくっていました。 それよりも小型な「ハツカネズミ」 。あとは「ドブネズミ」、台所や下水に住み低温に強く大型で獰猛。 ハムスターやモルモット、チンチラも愛玩飼育されていますし、あのイノシシが小さくなったような「カピバラ」も鼠の一種です。 ネズミは時には電線などをかじって、大事故などを起こしますが、鼠から言わせると「かじる」のは当たり前の本能。 だって鼠の前歯は硬い物を加じってすり減らさないと、あっという間に伸び続けて口を塞いでしまい餓死してしまうからです。 人間だって同じ条件ならかじり倒すでしょうから、ねずみにも思わず目からうろこ……で少し同情。
英語では「マウス」と「ラット」の二種類があって、小型で愛くるしいのが「マウス」。 大型でやや汚らしいのが「ラット」 でも彼らは我々人間のがんや医療の研究に大いに貢献しているのです。 「マウス」は遺伝学や、免疫学研究に使用され、「ラット」は生物学や行動学のモデルであったり、薬物の実験や外科的な実験に使用されています。 なぜ実験用動物として重宝しているのかは、ネズミの遺伝子の数が人間とほぼ同じ数で、ゲノムが似ているのです。あらためて人間は感謝しなければなりません。
アフリカ中東部に生息する「アフリカオニネズミ」 目は見えないがそれだけに嗅覚が鋭いため、「ヒーローラッツ」と言われるほどの大活躍。 わずか9か月ぐらいの訓練で地雷除去に活用され、人が危険を伴う調査を、あっという間にTNT火薬の臭いを嗅ぎ分け、ここ掘れワンワンではなく「チューチュー」。
体重が軽いので地雷の上に乗っても爆発せず、人間がやるとテニスコートぐらいの広さで4日かかるところを、僅か30分。 少ないエサで飼うことが出来、持ち運びも楽チン。これまでに10万個以上の除去に貢献しているとは、正に目からうろこ。
更に、まだまだ世界で多くの死者を出す「結核」 人間の唾液の匂いから「結核菌」を嗅ぎ分けることも出来るのです。 しかも100個のサンプルにかかる時間はわずか20分!!.
今まさに世界中が闘っている「コロナウイルス」 日本では、検査を意図的に遅らせているのではないかと騒がれているときに、人の唾液からあっという間に「菌」を嗅ぎ分ける「アフリカオニネズミ」に文球院は密かに期待しているのですが………
(2020・3・8)
