たくさんの粒子が一個に見える?(ボース粒子) | 不動明眞

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AKIMASA FUDO AKIRA

 

●そっくりどころか、まったく同じ粒子

 

たとえば、同じ工場で、同じように作られたふたつの

野球ボールはまったく同じものだと言えますね。

しかし、ボールの表面についた傷や、皮の縫い目

の微妙なズレ、芯に入っているコルクの微妙な量の違い・・・

など、目線を細かくしていけば、ふたつのボールは

まったく同じではありません。

明らかに違う別々の存在です。

 

しかし、野球ボールではなく、さらに精密な粒子の

ような、ものすごく小さなものならどうでしょうか?

 

1920年に、インドの物理学者、ボースが

「まったく同じ粒子が存在する」という説を唱えました。

当時はまったく相手にされない理論でしたが、

アインシュタインは別でした。

 

アインシュタインは、粒子の集団をある一定の温度まで

冷やせば、ボースが主張するようなことが起こりうる

と予想しました。

たくさんの粒子が、全部で1個の粒子のように振る舞うという

ものです。

 

そして、1995年、アメリカの研究グループがアインシュタイン

の予言した、現象を実験で示すことに成功したのです。

この快挙で、研究に携わった3名が、のちにノーベル

物理学賞を受賞しています。

 

●粒子が集まってひとつになる

 

一定の低温状態になると、すべての粒子がまるで、

1個の粒子のようになる現象をボーズ・アインシュタイン凝縮と、

呼びます。この現象は量子コンピューターの原理である、

量子ビットに応用できないかと期待されています。

ひとつの粒子が同時並行で、沢山の粒子が存在している

状態が両立する世界。つまりパラレルワールドの世界を

垣間見ることができるのです。

 

粒子を容器に閉じ込めて冷やしていくと、

温度が高いうちは粒子間の距離が大きく、活発に

動き回りますが、温度の低下とともに、

粒子の動きも鈍くなります。次第に波のような性質

になり重ね合わせが起きてきます。

そしてある一定の温度まで下がると、

1個の巨大な粒子のようになるのです。

一定の温度とは、絶対零度(マイナス273度)

に近いのでものすごく低い温度まで冷やす必要が

あります。

ヘリウムはマイナス271度以下まで冷やすと

液体になりますが、そのとき特異な現象が表われます

液体ヘリウムをコップにいれておいても

まるでアメーバーのように動き出し、

コップの壁をよじ登って外にあふれてしまう

のです。

もちろん生き物になったわけではありません。

粘性がゼロ、つまり、コップの壁面との摩擦がゼロ

になってしまったからです。

そう、これがさきほど述べた、ボース・アインシュタイン

の凝縮の一例なのです。

このような不思議な現象が起こるのは、

パウリの排他律が働かなくなるからです。

 

低温になったことで、粒子のエネルギーが最低の

状態になってしまい、そして、無数の

粒子の波が重なり合ってひとつの粒子のように

なってしまったのです。

 

液体ヘリウムの奇妙な動きはひとつの粒子がエネルギーの

最低状態になったときの動きの現れです。

ミクロの世界では確認できる希有な例なのです

 

また、リニアモーターカーで利用される超伝導も

極低温の状態になると、電気抵抗がゼロの

超伝導体になり、電気が半永久的に流れ続けるという

特異な現象を見せます。

これも、ボース・アインシュタイン凝縮の一つです。

 

このような、パウリの排他律が成立しなくなった、

粒子をボース粒子と呼びます。

通常、電子はフェルミ粒子なのですが、

電気抵抗がゼロになった超伝導体では、

電子が二つ一組のペアを作ってボース粒子のように

なります。