朝起きて、歯を磨いていた。
鏡の中の動きがどこかおかしい。
1テンポ遅れているのだ。

「右、左、右、左」
  「右、左、右、左、」
なんだこれ?
「どうした?カガミ君。」
あ、通じないか
「どうした?ミスターミラー。」
あれ?
よく見ると、いつもよりも姿勢が良い。
目も二重になってる。
ヒゲも薄い。まっすぐ向いても鼻の穴が見えない。
これ、おれ?
「ははーん。」
これは、俺の理想だな。
この前言われたもんな、歯医者さんに。
「もうちょっとゆっくり磨きなさい」って、
「歯茎が真っ赤です」って。
そんなことをまじめに気にしてたんだな。
かわいいな、おれ。
あと、かっこいいな。鏡の中のおれ。
あーなりたいなー。
整形しよっかなー。
全然もてないからなー。

とりあえず、見積りを出してもらった。
「たっけー。」
出せねーよ。こんなに。
でも、整形したいなー。
このままじゃ、一生彼女とかできないもん。
よし!がんばってお金ためよう!!

3年間、ものすごくがんばりました。
必死さが伝わったのか、契約もたくさん取れました。
一生懸命なところが良いのか、
コンパでも、前よりもてるようになってきました。
そして、なにより
目標の金額がたまりました。

「よっしゃー!」
「目標より、ちょっと多めに貯めちゃったなー。
さあ、どこを治そうかな。この変な顔ともおさらばさ。」
鏡を見ました。
「ん?別に変じゃないな、この顔。」
目も一重だし、鼻の穴も見える。
ヒゲは前より濃くなって、少し青い。
けど、
背筋は伸びてるし、
顔もどこかキリッとしてる。
何しろ、自信に満ち溢れてる。
こういうのを「シュッ」としてるって、言うんだな。

少し考えた後、
彼は、法外な価格設定をしている
美容整形外科に感謝しました。




すべてが一台のコンピューターに支配されています。


起きる時間。

働く時間。

食べるもの。

恋愛相手。

友人。

産まれてくる子供まで。

すべて無駄のない世界。
それは、このコンピューターが作り上げました。


この世に生を受けた人はこのコンピューターの言うとおりに動いていれば、

何の問題もなく人生をまっとうできます。

健康で、

事故にも遭わないように指示してくれます。

自分に合った人と出会い、結婚します。

その間に生まれた子もコンピューターの計算どおりに

病気になどならずに健やかに育っていきます。


それに、生を受ける人がどんな人かも計算してしまっているのです。
こんな世界になってから、258年経ちます。

各家庭、7代目が生まれすくすくと成長しています。
これが普通でした。

ただ一人を除いては。



生まれたときから少し変わっていました。

ほかの子にはありえない最悪のタイミングでウンコやオシッコをしました。

おしめを変えた直後とか、遊園地で並んでる最中とか。

母親はほかの母親に比べて大変苦労しましたし、

その子の後に乗り物に乗る人たちはひどいにおいに悩まされました。

ですが、

その子の周りにはいつも笑顔があふれていました。

コンピューターの言うとおりに生活していたら、

起こりえないハプニングがいつもありました。

好きな子のスカートをめくったり、

授業中に寝言を言ったり、

けんかをして明らかに負けているのに絶対に謝らなかったり、

彼の周りではコンピューターが計算していなかったことが

次から次へと起こってしまいます。


総理大臣になるはずの男が彼を尊敬してしまったり、

アイドルになるはずの女の子が彼を好きになってしまったり、

友達が一生できないはずの男が彼と友達になってしまったり、

いろんな歯車が狂ってしまい

コンピューターはかなり困っていましたが、

そこは258年もこの仕事をやってきたコンピューターです。

なんとか、代役などを立てて世界の安定に努めました。

しかし、事件は起こりました。



今までも彼はコンピューターの計算できないことを数多く起こしてきました。

しかし、それは学生時代の話で、

規模が小さくコンピューターもフォローしていたので、

影響力も小さく、

周りの誰もおかしく思いませんでした。

しかし、今回、彼の存在を世界中が知ることとなってしまいました。


彼が世界的な映画スターと結婚することになったのです。

それまでの258年間は映画スターといったら、
政治家やスポーツ選手、
同じ映画スターといった華やかな人と結婚するのが普通でした。


普通というか、コンピューターがそういう風にしていたのです。

皆もそうあるべきだと思っていました。

ところが、彼はただのサラリーマンです。

去年から家賃8万円の部屋に引っ越した程度のサラリーマンです。


そんな彼が映画スターと結婚してしまいました。


記者会見で彼は彼女のことをこう話しました。

「小学校の席で隣になって、テストのときに私が消しゴムを忘れているのを見て、

先生にわからないようにそっと消しゴムを席の真中に置いてくれました。

そのときから10何年間ずっと好きでした。

だから結婚したいと思いました。」



このニュースの後、彼は2日後に亡くなりました。

あのコンピューターに悪因子とされてしまったのです。

皆、納得しました。

「そういうことになっちゃうのか。」


しかし、人々はそれだけでは終わりませんでした。


好きな人に告白し、

サラリーマンを止めて俳優を目指し、

ただ仕事を休んだり、

したいことをし始めました。


それでも皆、2日後には命を落としました。


それがわかっていても2日間の自分を選びました。




1週間後コンピューターは壊されました。




「いらっしゃいませ。」

「あのー、掃除したいんですけど。」

「どのくらいの掃除をご希望ですか?」

「いや、ちらっとでいいんです。あと、お試しみたいな感じで自分で選びながら掃除できるやつってあるんですよね?」

「あ、はい。では、こちらに。」


友人から噂を聞いて、新宿のきれいなビルの18階にやってきた。

噂が正しければ、心の掃除ができるらしい。

簡単に言ってしまえば、思い出を整理してくれるらしい。

女の子のスカートをめくって、ぶたれた事。
ちょっと悪ぶってた恥ずかしい過去。
失恋。
など、嫌なことを忘れさせてくれるらしい。

あと、覚えててもしょうがないようなことを
セレクトして忘れることもできるそうだ。
そうすることで、
頭の中が整理されてその後の行動がスムーズに行えるようになるそうだ。どっかの若社長が雑誌で答えていたらしい。


今回、僕は「30分無料掃除キャンペーン」というやつを受けにきた。
消したい記憶を30分間だけセレクトして消してもらえるというものだ。
 
で、ブースに案内された。

目の前には視力検査のような器械があり、そこの二つの穴に目を入れて頭の中の映像を見ながら選択していく仕組みらしい。

「まぁ、30分だから最近のゴミみたいな記憶だけ消してみようかな。」

という、かなり軽い気持ちで始めてみた。

かなり便利な器械で頭の中をはや送りもまき戻しもできる。
しかも、すごく鮮明。

「おれって、すっげーテレビ見てるなー。」

「あーこのいたずらね。」

「この一言いらなかったよなー。」

とかいろんな事を思い出した。

まぁ、ほとんどがゴミみたいな記憶だった。

これは覚えておいたほうが良いと思ったことは
「夕日は埃がないとあらわれないんですよ。」
っていうたまたま見たテレビからの情報だった。
「これはすごいね。コンパでつかえるね。」


「あれ?いらない思い出なんてあるの?」

みんなでテレビ見たのすごい楽しかったし、
あのいたずらの後の顔かわいかったし、
あの一言の後のケンカは忘れちゃいけないと思うし。


昔の思い出なんて、もっと忘れちゃいけない気がする。

消しちゃう人もいるんだろうけど、消せないや。


結局、僕は頭の中を整理しないまま店を出た。
新宿の空はきれいなオレンジ色だった。
いっつも邪険にしている埃のおかげで。




「うわっ!200年も生きられちゃう!」

彼は人が生きている間に関わるであろう出来事に対してどのくらいの傷みを受けるのかとりあえず計算してみました。

すると、人は200年近く生きる力を産まれもって持っているようでした。

そこで彼は、サンプルがいろんな出来事に対してどのくらいの傷みを受けているのか調べてみることにしました。
 
1日目。サンプルは学生なので、学校に向かいました。

自転車をこいだり、

満員電車で押されたり、

授業中に注意されたり、

ウンコを踏みそうになってよけたと思ったらその先のもう一個を踏み、

バランスを崩してもう一回ウンコを踏んでしまったり

と、一日目にしていろんなことがあった一日でした。

それでも、彼の想像を越える傷みではありませんでした。

「間違いない。200年生きられる。何でみんな生きられないんだろう。」


2日目。

今日から彼はバイトをはじめました。

働いているので傷みは増えます。

先輩から注意されたりすると、かなり傷みを受けました。

彼の計算が狂い始めます。


4日目。

驚くべき痛みががサンプルの胸を襲いました。

音にすると「キューン!」です。

恋です。

はじめてバイトで一緒になった女の子に恋しました。

その子のことで夜も眠れず、傷が思うように回復しなくなりました。


その後、観察を続けましたが全く計算どおりにはいきませんでした。

彼の計算には人との接触が含まれてませんでした。

サンプルは人に怒られたり、

人に怒ったりすることでものすごい量の傷を受けていたのです。

これが寿命を短くさせる原因かと思い、

「人と接しなければ良いんだ」

と考えました。
すると、都合のいいサンプルで、風邪を引きました。

その日、サンプルは母親以外の人とまったく接しませんでした。
風邪を引いているので

「いつもより傷んじゃうだろうーなー」
と、考えていました。


すると逆に、回復していきました。

寝ていたからという量ではなく、回復しました。
その後も、この例は観測できました。

人に怒られたり、
人に怒ったりすることでいつもよりも大きい傷みを受けますが、

人に誉められたり、
人を愛したり、
愛されたりすることで人は自分の傷を回復させる力があるようです。

「それなら、やっぱり人と接しなくて良い環境を作れば、、、」

と考えたとき、彼は呆れました。

こんなことを考えた自分に。


彼はこの研究のために3ヶ月家に帰ってません。

家に帰りました。

「お帰りなさい。」


「200年生きてもしょうがないか。こいつがいなけりゃ。
雨だろうが、
晴れだろうが、
下痢だろうが、
どんなに傷ついても今の気持ちがずっと変わらないようにしよう。」



ふぐに毒があるのは良く知られていますが、
あの毒は「テトロドトキシン」といい、「神経毒」です。
そのため、私たちにとっては毒でありますが、
神経の無い、軟体動物や貝類は
ふぐを食べても害が無いのです。

だから、たけしは何を食べても大丈夫なんだね。
わたし、いつもより元気無いと思わなかった?
いつもより笑顔が少ないと思わなかった?
風邪かな?生理かな?とか思ってたんでしょ?
ほんとに無神経だよね。
今日はなんの日?

やっぱな。覚えてないんだ。
きょうで、まる2年。これってすごい事なんじゃないの?
最近、お金が無くてバイトいっぱい入れてた私が、
この時間に会えるのって珍しいと思わなかった?
わざとですー。わざと夕方に上がれるようにしたんですー。
なんで気づいてくれないの?なんで覚えてないの?
どうしてそんなに簡単に人を傷つけられるわけ?



ごめんね、こんなで。
じゃあ、2年も付き合ったんだから
俺がMr.マリックじゃない事を証明して、
あと、ユリ・ゲラーじゃない事も、
ついでに、デビット・カッパーフィールドじゃ無い事もね。
そう、俺は指先、器用じゃないよね。
だから、さっきまで、なかったところにこんな指輪なんてものを
出す事はできないよね。
種も仕掛けもあるんです。
今日2周年だって事も知ってたから、ここに指輪はあるんです。
まゆが今日元気が無いって事も知ってたんです。
でも、具合が悪いのかなって思ってたのは当たってます。
ただ、女の子に対しては指と同様、不器用なんです。
高倉健が好きです。そして、まゆちゃんが「大好好き」です。