この国には「結婚禁止令」がひかれている。
時の皇帝が発令した。
理由は一つ。
「結婚は兵の質を下げる。」
みな、忠実にこの令に従っていた。
苦しみながら。
ある郊外の町に
大工の家族があった。
息子は今年、ちょうど20歳になる。
兵になって2年余りが経とうとしていた。
大工の自慢の息子だった。
大工は人一倍愛国心の強い男だった。
体も丈夫だったが、
彼は生まれつき患っていた
心の臓の病が原因で
兵になれなかった。
そのため、
姉が生まれた後の息子を深く愛し、
かわいがり、鍛えた。
自分の息子が
立派な兵士になり、
国のために
働くことを夢見ていた。
息子もまた、
父を尊敬し育ったので、
夢は父と同じ物だった。
そして、2年前兵士になった。
希望は、最も国のためになるであろう
「最前線」だった。
隣国との関係が悪化し、
争いが始まるのではないかと
みなが懸念し始めた、その頃だった。
「とうさん、俺、戦争に行きたくない。」
父にとって、それは突然のことでしたが、
息子にとってのそれは、必然のことでした。
父のことを尊敬してます。
父に恥をかかせたくない。
父を大事に思っている。
でも、
「死ぬまで守ってやりたい人が出来たんだ。」
「何言ってんだ、おまえ。」
「女か?女だな。女なんだな。」
「でも、お前、あれだぞ。結婚できないんだぞ。結婚禁止なんだぞ。」
「結婚なんてどこでも出来る。」
「俺はただ、彼女といる時間を出来るだけ長く持ちたいんだ。」
「彼女に出来るだけ長く笑顔でいてもらいたいんだ。」
「この国なんかよりも、彼女を守りたいんだ。」
兵士になりながら、出兵を拒否する。
一生の恥になります。
父は息子のことを考え、
その夜、一軒の家に火を放ちました。
翌朝、息子に
何よりも大事だった人の死が伝えられました。
大事だったもの、
ずっと守ろうと思っていたものが
無くなったときの気持ちが想像できますか?
息子は戦場の最前線に向かいました。
目の前に敵がいます。
「あいつを殺したところで、何が守れるんだろう。」
「父さんの威厳か?」
「くに?」
「俺は何をやってんだろう?」
彼の横を次々と銃弾が飛んでいきました。
数日後、息子の遺書が届きました。
「父さん、結局俺は何にも守ることが出来なかった。」
「できたとしたら、目の前の敵の命だけだ。」
「ごめんよ。自慢の息子になれなくて。」
父はその日、ずっと黙ってました。
いつもよりも静かな夕食後、やっと口を開きました。
「母さん、、、」
「いいよ、何も言わなくて。わかってるから。」
「あの夜あんたが家を忍び出たことも、その後どこに行ったかも。」
「全部わかってるから。」
「しょうがないじゃないか。」
「あの時、あんたの大事なものは息子の命ではなく、
どうでもいい誇りだったんだから。」
「大丈夫。わたしはあんたを守るよ。国なんかよりずっと大事なんだから。」
こうして、夫婦は愛よりもずっと丈夫な罪という絆で結ばれました。