「ねぇ、別れよ。」

突然、彼女に言われた。
原因は僕の二股らしい。

してたよ。軽くね。
でも、あれは、
万が一、振られたときの予防だったんだよ。

いや、そういう保険とかの意味ではなくてさ。
風邪の予防接種みたいなさ。
そんなに好きでもない人
まぁ、嫌いでもないんだけどね。
その人に振られておけば、
大好きな人に振られたときも
ショックを受けて立ち直れなくなったり、
しないんじゃないかなーと思って、
かるーい気持ちで付き合ってただけなんだよ。

そんなことは言えるはずもなく、
ふられたまま、家に着いた。

でもさ、予防接種してたから、
そんなにショックじゃないもんね。
新しい恋をみーつけよ!
ぜーんぶ、洗い流しちゃおっ!
さぁ、風呂風呂。



なんで、あんな事したんだろう。
失恋ショックが和らぐわけないじゃん。
あんなに好きだったんだよ。
なんで、我慢して二股なんてかけてんだよ。
意味わかんない。
洗い流せねーよ。
ものすごいカッコ悪いけど、
そんなことどうだってかまわない。
あやまろう。
「大好きです」って。



「ったくよう!なんで、あいつに怒られなくちゃいけないんだよ。」

まあ、私のミスですよ。
えーえー。
でもさ、そこまでのことじゃないと思うんだよなー。
他にすることないのかよ、あいつ。

あーあ。
やだやだ。


「はあっ!なにバス行っちゃってんの?」

見えなかったのかあの運転手、俺が走ってくんの。
ふざけんなよ。
20分もこねーじゃねーか。

靴選んでたからだよな、これ。
靴って直前まで迷っちゃうんだよな、毎度毎度。

いや、だから、靴選んでたからじゃねーって。
あの運転手が待ってないのがおかしいんだよ。
都バスのくせに、生意気だよ。

ジャイアンかよ、おれは。


あーいらいらすることが多いなー最近。

もったいないよなーエネルギーが。牛乳でも飲もうかな。



「モニター求む!!」


世紀の新薬:あなたのイライラ引き受けます。

この薬は、あなたのあらゆる感情を抑え込み、
日々のストレスを感じなくさせることができます。
薬を飲むだけで、あなたにお届け
「ハッピーライフ!!」


日曜日の求人広告にこんなものを見つけた。
一応、金ももらえるんだ。
一石二鳥だね。

何の疑いも抱かず、私はこのモニターに申し込んだ。

3日後
世紀の新薬が1か月分と1日1回書き込むアンケート用紙が送り届けられた。

早速、次の日の朝から飲み始めた。

あいかわらず、クレームの多い会社だった。

「あなたの会社のティッシュで鼻をかむと、すぐ破れちゃうんですけど。」

「あなたの会社のゴムでおせんべいの袋を結んでたんですけど、
すぐしけっちゃうんですけど。」

「あなたの声、人を不愉快にさせるわね。」

「あなた、ガッチャン?
アラレちゃんじゃないと言っていること理解できないわよ。」


まったく、腹が立たなかった。すごいな、この薬。

ほんとに効くじゃん。

毎日飲んだ。仕事が楽だ。毎日が楽だ。

「俺って、相当、無駄なエネルギー使ってたんだな。」


でも、少し不安なことがあった。

「あんまり楽しくないんだよな。」


いつも楽しみにしているテレビを見ても、
友達と酒飲んでも、

大好きな彼女とデートしても。


「まっ、いっか。」ある程度は楽しいし。




3週間後の土曜日。

「ねぇ、私といて楽しいの?」

「え、たのしいよ。」


「なに!その気のない返事。
楽しくないんでしょ。
先々週ぐらいから、全然笑わなくなったよね。
なんか隠してるでしょ。
いいよ、別れよ。
もう、丸わかりだから。ね。」


あれ?
なんだ、これ。

別れようって言ってる。

浮気してるって思われてるみたいだなー。

なんでだろ。別れたくないなー。

好きなんだけどなー、美香のこと。

嫌だってことがうまく表現できない。

あの薬のせい?あーどうしよう。

このままじゃ、美香に会えなくなっちゃうよ。


とたんに、目の前がぼやけてきた。

とめどなく涙があふれてきた。美香が心配そうに覗き込む。



「どうしたの?」

「別れたくない。」

この言葉をしぼり出した。
なんの抑揚もない口調で。



僕はまだ、美香と付き合っている。
薬はもう止めた。
そりゃ、つらい日もある。
でも、とても楽しい毎日を送っている。


なみだ君、ありがとう。



目の前にきれいな女がいる
ものすごいきれいというわけではない。
普通にきれいだ。
キャバクラ嬢らしい。
新宿で「NO.1」らしい。
なんでだろうか。

「刑事さん。わたし、どうしてよばれたの?」

つかぬ事を聞いてくる。
彼女のせいで、何十人という男が自殺したのだ。
理由は、
「彼女が好きだから」
「彼女が自分のものにならないと知ったから」
「彼女にすこしでも思ってもらいたかった」
同じ理由で、彼女の命を狙う輩もいた。

困ったものだ。
大の大人が。

だから、
このキャバクラ嬢が
なにか、詐欺まがいのことでもしていたのではないかと
事情聴取をしているわけだ。

だが、そんなことはなかった。

彼女なただ単純に
キャバクラ嬢という仕事をこなしていた。
他のキャバクラ嬢と同じように
自分のお客を取り逃がさないように
女のあらゆる武器を使って。


問い詰めても何も出てこないだろうと思い、
わたしはタバコを吸おうとした。

「カチッ!」

「カチッ!シュボッ!!」

火をつけてくれた。
1度失敗した後に。

この失敗がかわいいのだ。
タバコをくわえた口が、息を吸うのを忘れて
なかなか火がつかなかった。
そんな私を
少し頬を赤らめた笑顔で覗き込む。

(反則だよ、これ。)


仕事の時間だということで、帰した。

部屋を出て行くときの彼女の顔が忘れられない。

「行きてー!そのキャバクラ。」




私は今、新宿にいる。

キャバクラにいる。

彼女の笑顔がひとめ、、、

いや、あの女が油断して
ボロを出すのではないかと、見張っているのだ。

全く出てこなかった。

でているのは、溢れんばかりの笑顔だけだった。

仕事の疲れもいえるだろう。
上司に言われた嫌味も。
電車の中で女子高生に笑われたくやしさも
妻に掃除機でケツを叩かれた日曜日の出来事も
忘れられるだろう。
彼女を見れば。笑顔を見れば。



店の店長がやってきた。

「刑事さん、ちょっといいですか?」


店も困ってるらしい。
彼女の人気があり過ぎるのだ。
他の子の指名がない。
いくら人気があっても、一日に対応できる人数は決まっている。
さらに、
たまに、命も狙われるから
ボディーガードもつけているらしい。
それで、死なれたら
客の暴動が起こるかもしれない、と。

「なんとかなりませんかねぇ。」


そんなことを言われてもな。
ただの刑事だしな。


おやじに相談してみた。
国会議員の。











今、この国は大恐慌である。

景気は戦後最悪。

消費税は、昨年末に55%に上がった。
「みんなでゴー!ゴー!」という、理由らしい。

軍需景気と資源を狙って、
戦争もはじめるらしい。
先日決まった。


それでも、大統領の支持率は常に70%を超えている。

この国の人口比率は男が76%になっていた。

僕は大統領の秘書兼夫をやらせてもらっている。





この国には「結婚禁止令」がひかれている。

時の皇帝が発令した。

理由は一つ。


「結婚は兵の質を下げる。」

みな、忠実にこの令に従っていた。

苦しみながら。



ある郊外の町に

大工の家族があった。

息子は今年、ちょうど20歳になる。

兵になって2年余りが経とうとしていた。

大工の自慢の息子だった。


大工は人一倍愛国心の強い男だった。

体も丈夫だったが、

彼は生まれつき患っていた

心の臓の病が原因で

兵になれなかった。


そのため、

姉が生まれた後の息子を深く愛し、

かわいがり、鍛えた。

自分の息子が

立派な兵士になり、

国のために

働くことを夢見ていた。


息子もまた、

父を尊敬し育ったので、

夢は父と同じ物だった。

そして、2年前兵士になった。

希望は、最も国のためになるであろう

「最前線」だった。


隣国との関係が悪化し、

争いが始まるのではないかと

みなが懸念し始めた、その頃だった。



「とうさん、俺、戦争に行きたくない。」

父にとって、それは突然のことでしたが、

息子にとってのそれは、必然のことでした。


父のことを尊敬してます。

父に恥をかかせたくない。

父を大事に思っている。


でも、


「死ぬまで守ってやりたい人が出来たんだ。」



「何言ってんだ、おまえ。」

「女か?女だな。女なんだな。」

「でも、お前、あれだぞ。結婚できないんだぞ。結婚禁止なんだぞ。」



「結婚なんてどこでも出来る。」

「俺はただ、彼女といる時間を出来るだけ長く持ちたいんだ。」

「彼女に出来るだけ長く笑顔でいてもらいたいんだ。」


「この国なんかよりも、彼女を守りたいんだ。」


兵士になりながら、出兵を拒否する。

一生の恥になります。

父は息子のことを考え、

その夜、一軒の家に火を放ちました。



翌朝、息子に

何よりも大事だった人の死が伝えられました。



大事だったもの、

ずっと守ろうと思っていたものが

無くなったときの気持ちが想像できますか?



息子は戦場の最前線に向かいました。

目の前に敵がいます。

「あいつを殺したところで、何が守れるんだろう。」

「父さんの威厳か?」

「くに?」

「俺は何をやってんだろう?」

彼の横を次々と銃弾が飛んでいきました。






数日後、息子の遺書が届きました。

「父さん、結局俺は何にも守ることが出来なかった。」

「できたとしたら、目の前の敵の命だけだ。」


「ごめんよ。自慢の息子になれなくて。」



父はその日、ずっと黙ってました。

いつもよりも静かな夕食後、やっと口を開きました。

「母さん、、、」



「いいよ、何も言わなくて。わかってるから。」

「あの夜あんたが家を忍び出たことも、その後どこに行ったかも。」

「全部わかってるから。」

「しょうがないじゃないか。」

「あの時、あんたの大事なものは息子の命ではなく、
どうでもいい誇りだったんだから。」

「大丈夫。わたしはあんたを守るよ。国なんかよりずっと大事なんだから。」



こうして、夫婦は愛よりもずっと丈夫な罪という絆で結ばれました。








3ヶ月ほど前から、ある結婚相談所がマスコミを中心に話題になっています。

その結婚相談所が開発したという「完全なる相性占い」のせいです。

その相性占いによって引き合わされた男女の相性はことのほか良く、

恋愛成就率が他の相談所とは比になりません。

そのため、
その結婚相談所は評判となり週末になると
独身の男女が隠れることなく行列を作りました。

そこで紹介された一組のカップルの話を中心にお届けします。


話は最初からある程度合いました。

楽しくデートを繰り返しました。


「すごいなーあの相性占い。ぴったんこだよー。」

会わされた当初は、彼女のことをなんとも思わなかったし、
機械のこともあんまり信用していなかった。

彼はそんな気持ちとは裏腹に彼女のことがだんだん好きになってきました。


ところがある日、ケンカしました。


彼女とはデートの約束をしていました。

でも彼はその日、

学生時代の友人が近くにきているということで彼女の了解を得て
友人に会いに行きました。

ところが、次の日に合った彼女は大変機嫌が悪くなっていました。

その後も、見たい映画が合わなかったり、

駅で待ち合わせたらホームの前と後ろで1時間近く待ちつづけていたり、

と二人の関係が行き違うような出来事が続きました。

嫌いなところがひとつ見つかると、どんどん嫌なところが増えました。

「なんだよ、相性当たってないじゃん。別れちゃおっかなー。」

と考えましたが、

「完全なる相性占い」のことを思い出し、

「もう一度信じてみよう」

と考え直しました。



そして、彼女の良い所だけを考えました。

「いい女だな、あいつ。俺にぴったりだ。もったいないぐらい。」




結婚相談所㈱フルラブ 社長の話


「え?あんな機械ウソですよ。」

「人と人というのはそう簡単に相性なんて合いませんよ。」

「どっか嫌いになるとどんどん嫌いになってしまいますからね。」

「でもね、良いところを探し始めると結構出てくるもんなんです。」

「そんなに嫌な奴なんていないんですよ。」

「サギ?」

「まぁ、とりようによってはね。」

「でも、良い事だと思いませんか?」

「異性に限らず、人は皆、基本的に良い奴だ。っていう考え方。」

「あなたもどうですか?適度にぴったりの女性を探しますよ。」