時は1984年。

アメリカ、バージニア州ダレスにちょっと変わった会社が立ち上げられた。

その事業内容は人工衛星の打ち上げ。

日本では衛星の打ち上げとなると、JAXAが思い付くが、アメリカでは公的なNASAだけでなく、民間企業も参入している。


その会社はオービタル・サイエンシズ(以降:OSC)


通常、人工衛星を打ち上げるには巨大やロケットと大規模な発射基地が必要になる。

また地上の基地からの発射では打ち上げ時の天候も考慮に入れる必要があった。

OSCはこの諸問題を解決するために一風変わった方法を開発した。


それが小型の打ち上げ用ロケットを航空機に搭載し離陸、航空機の巡航高度FL360(約12000m)で発射するというもの。。

地上から打ち上げるモノト比較して小さな出力ですみ、ロケットの燃料も少なく済むため小型軽量にできる。

こうして開発されたのが空中発射型ロケット、ペガサスです。


当初OSCはNASAが保有していたNB-52(B-52爆撃機をベースに開発された偵察型RB-52がベースの実験支援機)に搭載して運用していたが、将来的に退役が目されていたため、自社での発射母機の保有を検討。

1990年に退役した元エアカナダのL1011-100型(外見上は-1型と変わらない)を調達し1992

年から2年ほどの改修期間を経て1994年から運用を開始した。

それが今回の主役、空中ロケット母機、

N140SC L1011-100 STARGAZER(スターゲイザー)です。
(モハーヴェ空港にて撮影)
一見すると普通の旅客機ですが、、
胴体の下にハードポイントが設けられてます。
ここに発射するペガサスロケットを懸架して離陸し上空で発射するわけです。
地上に大規模な発射台は必要なく、ロケットも小型で、更に天候に左右されない。
ここまで聴くと良いことずくめなのですが、、

発射母機の維持経費が固定費として毎年発生し、ロケットの発射回数が減少するとそれに応じて1回あたりのコストも増えてしまう。
目標としていた600万ドルでの打ち上げは難しく、総じて1200万ドルと目標の倍のコストとなっている。
また、同じOSCの製品どうしで需要を食い合うようなってしまい、スターゲイザーの稼働率はあまり高いものではなくなっていた。

その後OSCは2度の合併を経る。
最終的に世界最大の軍事企業、ノースロップ・グラマンに買収される形で同社の子会社として再編された。
これまで赤を用いてきた塗装も一新され、
青い塗装へと衣替えすることになった。
OSCが結果的にノースロップ・グラマンの傘下へ入ったのは、同社のロケットシステムがミサイル防衛分野にも寄与している為だとされる。
結果として延命されたスターゲイザーだったが、NASAが自前での支援機を無くしたために、今ではNASAからの委託も受けている。
しかし安泰とは言いがたい事情もある。
というのも、2020年時点で稼働状態のL1011型機はスターゲイザー N140SCだけになっていた。
整備に必要な部品は2018年時点ではメーカーであるロッキードからも供給は受けられていたが、いつまで飛べるかは未知数。
(S字ダクトを介した機体としては最大であり、水平型安定版が胴体に取り付けられた数少ない例なため、このシルエットはトライスターの特徴でもある)
(ペガサスロケットはこんな感じで懸架される)
せめて退役を迎える前に飛んでる姿を見ておきたい航空機です。。


予告
最後の1機となるまで減少したトライスター。
しかしかつては同機を主力として万全の整備体制で21世紀に入るまで運用し続けたキャリアがあった。
次回「古い機材も末長く、、デルタの挑戦」

余談
2018年時点で、スターゲイザーの機長を勤めていた方、、実は元ロッキードのテストパイロットで、世界で初めてトライスターを飛ばした張本人だったそうです。