タイタニック号沈没を映す映画は
悲しいから涙を誘うのか
窄り上げたような美しい涙を
狂乱して海に飛び込む人
甲板に虫けらのようにしがみつく人
命を懸けて
救命ボートに避難者を積める船員の怒鳴り声
浸水する客室のベッドの上で
固く身を寄せ合う正装の老夫婦
震えをこらえ
ちぎれそうなほどの群集に袖を掴まれ聖書を謳う神父
楽器と誇りを振り上げ
人々の恐怖をなだめた芸術家
どのシーンを選んでも
その歴史は地球の地殻を滑落して宇宙の記憶─アカシックレコード─に刻まれる
太古の産声から鳴り続ける針の震え
約束を忘れかけた恐怖の大王が
大声で呼ばれ
慌てて戻ってくるかはさておき
天の浮舟が出港したことだけはたしかだ
小舟か大船か
誰一人乗せずに宙に還るか
さしずめ
一番呑気な者達が乗船するのだろう
放射能の水たまりを泳いでいる
カエル
一万年の変わらぬ景色をサバンナの大地で反芻してきた
木の葉を食むキリンの黒い瞳のように
恐れることを知らなかった
ありのままを生きた者だけが
終局
神のお気に召すままに