由依side
最近、お天気キャスターがコートを着るようになった。
もう寒い季節になってしまったのか。
腕時計を見ると、午後6時。
私は今、友達の部活が終わるのを待っている。
終わる時間が近づくと部員がせっかちに豹変する私の部活と、ギリギリまでやらせる鬼教師がいる彼女の部活では、終わる時間が10分程違う。
外で待っている時間は、とてつもなく長く感じる。
寒くなってきたのもあり、指先が痛くなってくる。
私は腕時計の秒針を見つめて時間が経つのを待っていた。
「由依!」
後ろから、彼女の声が聞こえた。
「はぁ…お待たせ」
息を切らしながら私の隣に立った。
いつもより8分も早い。
私のために急いでくれたのかと思うと、自然と広角が上がる。
「…今日、終わるの早くない?」
「だって、今日ご飯食べに行くんでしょ?」
そう、今日は2人でご飯を食べに行く。
数日前、突然焼肉が食べたいと言われ、その場で予約させられた。
理佐は思い立ったらすぐに行動するタイプだ。
「焼肉焼肉〜♪」
「ふふっ、焼肉好きなんだね」
「それもそうだけど、由依とご飯行けるのが嬉しくてさ!」
「へぇ…笑」
「部活こっそり抜け出してきたんだよ?」
「そこまでしなくたって…理佐が行きたければいつでも行くよ?」
というか、私が行きたい。
部活もクラスも違う私たちを繋ぐのは、幼馴染という事実だけ。
こうして一緒に帰れるのも、帰り道が同じだから。
一緒にいられる時間を増やすためには、ご飯に行くぐらいしか方法がない。
どうせ、こんな私が休みの日に遊びに誘えるわけないんだから。
「いいの?じゃあ毎日行きたい!」
「理佐この前金欠だって言ってなかったっけ?」
「あ、そうだった笑」
「今日は大丈夫なんだよね?」
「ちゃんとお母さんにもらったよ!笑」
「そっか笑」
私の願いは、笑い話の中に消えた。
お店に着くと、理佐が前のめりで注文を済ませた。
注文を待つ間は、理佐の世間話を聞いた。
「今日後輩が部活の点呼に遅れちゃってさ」
「うんうん」
「そしたら先生がめちゃくちゃ機嫌悪くなっちゃって大変だった…」
「それは災難だったね…」
「でも、後輩が遅れたの1分も経ってなかったんだよ?」
「え?それで機嫌悪くなったの?」
「うん、それぐらい許してあげてほしいよね〜」
「相変わらず理佐の部活厳しいね…笑」
こんな、何処にでもあるような話を聞くのすら、幸せに感じる。
それほど、理佐の沼にハマっている。
料理が届くと、理佐が嬉しそうにお肉を並べた。
焼いたお肉を口に入れると、目を大きく見開いた。
「美味しい〜!」
「ね、焼肉久しぶりに食べたなぁ…」
「こんなに美味しいものを食べないなんて、由依損してるよ」
「今食べてるんだからいいじゃん笑」
「まあ…確かに…笑」
理佐が口いっぱいに頬張る姿は、人類で1番愛おしく見える。
可愛いなと思いながら、焼肉を味わった。
焼肉を目一杯食べ、スイーツのアイスも食べて帰る時間になった。
「いやぁ、美味しかったね!」
「うん、また行きたいな」
「行きたいなじゃなくて、行くんでしょ?」
「…うん」
「ふふっ、楽しみだ〜!」
2人でお店を出ると、外は真っ暗だった。
「うわ、寒いね」
「由依、手貸して」
「…?」
私は左手を理佐に見せた。
「…はい」
「え…?」
「寒いんでしょ?」
理佐は私の手を握ってくれた。
理佐の手は、ものすごく暖かい。
「…ありがとう」
「どういたしまして、帰ろう?」
「うん」
理佐に手を握られながら、帰り道を歩いていった。
2人きりで、周りに誰もいない空間。
この空間は、私を欲張りにさせた。
「…!」
「こ、こっちの方が繋ぎやすい、でしょ?」
繋がれた手を、恋人繋ぎにした。
「そうだね…」
少し戸惑っているような、照れているような、そんな表情が見えた。
そのまま歩くと、別れ道に着いた。
「じゃあ、また明日」
「…うん」
理佐に背を向けて歩き出した。
「…由依!」
その数秒後、理佐が私の名前を呼んだ。
振り返ると、理佐が私の近くに寄ってきた。
「理佐…?」
「…好きです」
「え…」
「…恋人繋ぎにされて、離したくないって思った」
「…」
「私と、付き合ってください」
突然の告白だった。
そうだ、理佐は思い立ったらすぐに行動するタイプだっけ。
理佐は、私を彼女にしたいって思ってくれたんだ。
「…はい」
「本当…?」
「うん、私も理佐のこと大好き」
「やった…笑」
私も、行動しよう。
「理佐!」
「ん……うわっ!」
私は理佐に抱きついた。
いつもの私だったらこんなこと絶対にできない。
でも、思い立っちゃったんだ。
「…いきなり、嫌だった?」
「ううん…むしろ嬉しい」
「なら良かった…笑」
「由依…もう少し、一緒にいよう?」
寒い季節を感じないぐらい、私たちの心は暖かくなっていた。