今回は実使用の視点からオペアンプの歪率に触れたいと思います。
オーディオで使用する時に、非反転入力と反転入力の抵抗値は通常同じではありません。
特に音量調整やトーン調整のような可変抵抗を用いる場合はその抵抗値が変動します。
そういう場合に歪率が悪化する可能性が有るのかを実験により確認します。
非反転増幅の場合の実験用回路です。
入力からオペアンプの出力端子までの利得は、10倍 出力電圧8Vrmsで歪測定
入力側・帰還側共にオペアンプの入力直列抵抗は、【低抵抗は909Ω】【高抵抗は90.9kΩ】
WaveSpectra のFFTは[131072sample] 信号が-6.5dB附近となるようPC-1eで調整
非反転増幅時の歪率測定結果(THD:高調波のみ)
入力側・帰還側の抵抗値が揃っていれば低歪になります。
入力側・帰還側の抵抗値が大きく違えば歪が数倍に増加します。
入力がバイポーラ・トランジスタでもFETでも概ね同じような傾向となりました。
歪の多かったNJM2043とM5238は出力電圧を半分に下げると歪も半分に下がりました。
NJM3404は抵抗値が違っても歪は変化しませんが、元々歪が多いのが残念です。
高次の成分が盛大に出ており、恐らく出力段に起因するゼロクロス歪が原因と思います。
歪が変化しない理由は、入力トランジスタのコレクタが負電源に接続されているからです。
(後で内部等価回路に触れています。)
NJM4560の歪が少ないのは、多分入力トランジスタのCB間の容量が少ない為でしょう。
NJM5532の歪が少ないのは、多分入力トランジスタの負荷抵抗が小さい為と思います。
(後で内部等価回路に触れています。)
OPA1652の歪が少ないのは、これも入力トランジスタの負荷抵抗が小さい為と思います。
(後で内部等価回路に触れています。)
反転増幅の場合の実験用回路です。
条件等は非反転増幅の場合と同じです。
反転増幅時の歪率測定結果(THD:高調波のみ)
一部を除き、入力側・接地側の抵抗値が違っても歪はあまり増加しません。
これは、オペアンプの入力端子が、ほぼGND電位に固定されている為と考えます。
NJM3404の歪が多いのは、非反転増幅の場合と多分同じ理由です。
実験回路の姿です。
使用したオペアンプです。
OPA1652はSOPパッケージなので、変換基板を使用しています。
多くのオペアンプの回路構成は同系統で、それを代表してTL072の内部等価回路です。
初段でなるべく利得を得る為に、カレントミラー回路が使われています。
特に非反転入力側のコレクタ部分は高抵抗・高利得となっています。
その結果、CB間の容量で局部帰還が掛かり歪の増加を招きます。
(CB間の容量は掛かっている電圧が変化すると容量値が変化するので、歪を招く)
反転入力側のコレクタ部分は、ダイオード+抵抗で、非反転入力側より影響が小さい。
(非反転増幅の歪測定で、入力側・帰還側の抵抗値の組合せで歪の違いが判ります。)
他のものと異なり、特徴有る入力部分の内部等価回路です。
NJM3404は入力差動がダーリントンで、入力トランジスタのコレクタは負電源接続です。
NJM5532の入力トランジスタは抵抗負荷で、多分、低抵抗・低利得と思います。
OPA1652の入力FETの負荷は定電流回路なので、一見高利得に見えます。
定電流回路と接続しているのは、2段目FETのソースなので、実は低抵抗・低利得です。
こんな風に実験すると、オペアンプの品種選定の参考になります。
実は、直流的な動作安定度(漏洩電圧の少なさ)では当然ながらFET入力が良好です。
その中でも、OPA1652はダントツで優秀でした。
非反転増幅時の出力直流電圧測定結果
OPA1652は歪も少ないので、総合的に一番となりました。