これは、40年位前の話です。
私が設計したプリメイン・アンプが技術部門の試作での問題点を解消した後の事です。
工場では、正規の大量生産(量産)に先立ち、量産試作(量試)を行います。
手順書に基づき、少量(数十台)の生産を生産部門が行うものです。
*プリント基板に自動挿入機で部品を装着(当時の技術試作は技術者が手挿入)
*半田槽で半田付け
*外装部品に全ての部品・組品を取り付け
*動作検査
という風に行うのですが、検査時に担当者が鉄板製のキャビネットをそこら中叩くのです。
これは、何処かに接触不良が有れば信号が途切れる症状が出るからなのです。
技術試作時には、そういう事はしません。(試作品には接触不良は無いのが前提なので)
量試の検査中、叩いている時に、PHONO入力で「鉄板の音が出る!」症状が出ました。
(無入力でノイズだけ出ている状況で、それに交じって「鉄板の音」が聴こえたのです。)
設計者の私は生産部に呼び出され「さっさと直せ!」と言われてしまいました。
「マイクなんて無いのに、どこで拾っているんだろう?」と頭を捻って各部を調べました。
入力端子からフォノ・イコライザの初段FETまでは問題ありませんでした。
負帰還回路(CRで構成している、RIAA特性を得る為のもの)にも問題はありません。
初段FETのドレインからイコライザ出力までは帰還ループの中にあるので問題無い筈でした。
この問題無い筈の帰還ループの中に犯人が居るのに気が付かなかったのでした。
犯人は何と、初段FETの負荷抵抗(普通にカーボン抵抗を指定していました。)なのでした!
この負荷抵抗にはFETの動作電流が流れており、抵抗には直流電圧が掛かっていました。
鉄板キャビネットを叩いた事で、その振動が抵抗を叩き、抵抗値を変化させていたのでした。
その部分の抵抗を金属皮膜に交換すると見事に問題は解決しました。
初段FETのゲートとGNDの間にはカーボン抵抗が存在するのですが、これは問題無しです。
直流電圧が掛かってなければ無問題です。(但し、振幅変調は掛かるかもしれません。)
この現象を簡単な実験で再現させようと試みましたが、うまくいきませんでした。
(カナル型イヤホンを密着させて音圧を掛け、スペクトラムを確認する方法)
≪カーボン抵抗に直流電圧が掛かる場合は注意が必要≫というお話でした。