「あのお正月の出来事は、忘れたことがないんです」と、一番声の大きな男性が言った。「終戦後、地元へ戻った後も、あの味を思い出して、いつか御礼を言いたいと思っていました。同級生に、その気持ちを話したら、次の同窓会で、訪ねてみようと言うことになりまして、今日、皆で参りました。」
父は泣いていた。あの日、一緒に「関の戸」を食べた疎開児童との再会は、一瞬で、50年の歳月を飛び越え、父の脳裏に、あの日の地蔵院の光景を蘇らせたのだ。
「そうそう、これこれ!同じ味だ。懐かしい…」
「思い出すなぁ。色々なことを…」

父が和菓子会社ではなく、家業としての和菓子屋にこだわっていたのは、きっと、こんな出会いを大切にしていたからだろ。今、14代目を継いだ僕は、あの日と同じ大鍋で、毎朝「関の戸」を作っている。
僕にもいつか、父のようなエピソードに出会える日が来ると信じて。



深川屋物語2018 終わり