08 反撃のスイッチ | あるハラスメントの告発

あるハラスメントの告発

ある市役所内で実際に起こった「係長の乱」に着想を得て執筆したもので、いわゆるバブル世代の市役所の管理職(バブル時代に市役所にしか就職できなかった人たち)と、一人の中堅市役所職員との壮絶な職場内バトルを綴ったものです。

 副市長協議を終え、事務室に戻ると部下の2人は明らかに事態が飲み込めないといった表情で私に思いの丈をぶつけてきた。

 「一体どういうことなんでしょうか?一度許可した仕事を、なぜあんな形で潰すんでしょうか。越智部長の目的は何なのでしょうか?」と粟林が悔しさをにじませながら私に問いかけると、澤田が「研究機関には何と伝えればよいのでしょうか?申請をしておいてやっぱりやめますとはとても言えません。」と素直な気持ちを漏らした。

 そうこうしていると、越智の嫌味な足音が我々にデスクに近づいてきた。

 「いやぁ、残念だったなぁ。あんなに副市長に反対されてしまっては、このプロジェクトは廃案にするしかないな。3人とも頑張っていた様だが、本当に残念だったな。研究機関には事情をしっかりと伝えて、事後処理をしておきなさい。」と涼し気な顔で話すと自分のデスクに戻っていった。

 部下の2人には「私が研究機関と話をするから心配するな。2人には頑張ってもらったのに、こんな結果になって残念だ。」と越智と同じようなセリフを伝えたが、全く意味合いが違うことを2人には気づいて欲しいと思った。

 研究機関に申請を取り下げることを伝えると、担当者からは残念であるという趣旨の言葉とともに、市役所内部の意思決定のプロセスについて注意を促される結果となってしまった。

 これまでの職務において国の機関に対してこの様な不始末をした経験はなく、こちらの市役所の信頼性が損なわれたことは間違いなく、今後このような手続きにおいて何らかのペナルティが課されることは容易に想像できた。

 研究機関への申請取り下げの連絡を終えると、越智に対する怒りが沸々と込み上げると同時に、部下を持つチームリーダーとして、このままではいけない、この職場環境を何とかしなければならないと、自分の中で何かのスイッチが入った音がした。

 まずは、一体なぜ越智は私に対してこのような行動を取るようになったのかを調べるところから始める必要があった。



つづきます