07 計画された中止命令 | あるハラスメントの告発

あるハラスメントの告発

ある市役所内で実際に起こった「係長の乱」に着想を得て執筆したもので、いわゆるバブル世代の市役所の管理職(バブル時代に市役所にしか就職できなかった人たち)と、一人の中堅市役所職員との壮絶な職場内バトルを綴ったものです。

 副市長へのプレゼン、いわゆる副市長協議は研究機関から内定の連絡があった翌日に越智の調整によりセットされた。

 研究機関への申請の時点ですでに企画提案書ができていたため、新たな資料を作成する必要はなかったが、越智の反応と指示された内容を部下の2人に伝えたところ、率直な疑問が返ってきた。

 まず、粟林から「副市長の判断というのはどういう事なんでしょうか?申請の決裁の際に係長が部長に聞いた時に、越智部長が決めるという話でしたよね。決裁書に部長のハンコも押してありますし。」

 続いて、澤田から「この内定の段階で副市長が廃案にする可能性があるのでしょうか?」特に研究機関への申請窓口となっている澤田は不安げな表情を見せた。

 「部長の言う通り、国の機関も関係してくるから重要な案件ということは間違いない。そう考えると、そもそもの段階で副市長、いや市長の判断が必要だったともいえる。今さらだが、そこはもう少し詰める必要があったかもしれないな。副市長は厚生労働省から派遣されている官僚さんだけど、普通に考えれば反対されて廃案にされるような案件ではないから、心配はないだろう。」と部下の2人に根拠のない安心を少し与えた。

 そして、副市長協議が始まり、30分ほどプレゼンを行ったところ、副市長から「なかなかいい提案だね。市内に私立高校ができれば街のにぎわいにも繋がるし、その調査研究に市の予算を使わなくて済むというところも願ったり叶ったりだね。」という肯定的な反応が返ってきた。

 その反応に喜び部下2人と目を見合わせていると、突然、同席していた越智部長から声が上がった。

 「どうなんですかね、副市長!こういうことをやって何か意味があるんですかね。普通はこんな提案はないと思うんですよね。どうしてこんな提案をするのか甚だ疑問です。」と、とんでもない反対意見を大声で述べ始めた。

 越智の発言を聞いた副市長は「ん?部門内で十分に協議されていない案件なんですか?そうであれば、私の判断云々というより、しっかりと事前に整理されてから私のところにくるべきでしょう。」と、至極真っ当な反応を示した。

 それを聞いた越智は「そうですか。そうですよね。これはおかしな提案だと思っていましたので、廃案にするということでよろしいですね。」と畳み掛けたところ、副市長からは「まあ、そういうことであれば、現段階ではそうなんでしょうね。」と相槌のような返答があり、そのまま副市長協議を終えられてしまった。

 この瞬間にはっきりと分かった。このプロジェクト案を初めに伝えた時の越智の何かを企んでいるように見えた表情の意味が。

 初めから潰す気だったのだ。



つづきます