レコーディング事情1929年 | Akira Blake Kikuchi

Akira Blake Kikuchi

SP盤レコードの録音実態を分析・検証・修正を目的とした研究

アコースティック録音というのは、音の振動をラッパにて集音しダイレクトにダイヤフラムへ伝えるというのもですが、1920年初頭までの録音はこの方式であった。
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1920年中期以降は エレクトリック録音と呼ばれる方式であり、これはマイクロフォンにて集音するのであるが当時のカーボンマイクは電圧差を利用する仕組みである。

 

その電気信号を今度は電気式ダイヤフラムへ伝えて 金属板にダイレクトに演奏振動を刻むのだ。
方法は違えど、音質は掛け離れて異なるようなことはないと思います。

 

しかし、残念な事に1920年初頭までの録音風景は写真などの資料を得る事が出来るのだが 1920年中期・後期の録音風景や機材の詳細写真などは未だ入手できずにおります。
無いのでしょうかねぇ?

 

さてさて 1929年のリッチモンド・ジェネットスタジオでの8月のブレイクの録音、その後グラフトンでの録音、これらもエレクトリック録音であるがどうにも音質が違うのです。
1930年のウィリー・ブラウンの録音は 完全な大音響での録音であったと想像しますが、アコースティック・ギター1本に唄で どれほどの大きな音が出るのであろうか?

 

加えてもう一つの謎は、ターンテーブルのスピード調整と動力についての謎である。
1920年30年代の録音回転数には78rpm以外のスピードを採用していた、もしくは正しく設定通り回らなかった事実が残された音からの物的証拠により立証できます。

 

モーター駆動であったことが想像出来ますが、そこで回転誤差が起こった原因として考えたのが不安定な電力供給事情でありました。
アメリカの60サイクルがどこの町でも、どの時間帯でも安定供給されていた保障はありませんでした。

 

ブルース界の出版物やレコードのライナー解説などを探してもその一番大切な時代「ブルース記録の曙」とも言える時代の機材についての資料に私達を満足させるものはありませんでした。

 

パラマウントの世界的研究家達の一つの考察には、ラウドスピーカーなるものを録音に使用していたかもしれないというのです。
それなら 私や研究所所長の見解とも一致する、アンプで増幅しラウドスピーカーで音を出しそれを録音してたということか?

 

そこで私は当時のラジオの資料を検証することにしたのです。
1920年初頭、1925年、1928年、1929年、、年代別に資料を検証しました。

 

その結果、その時代のオーディオ技術は我々の想像を遥かに超えた事実がそこにありました。
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ラウドスピーカーは 1920年初頭には出現しており 1928年にはなんと信じがたいことにスピーカーは今現在私達が使っている見慣れたマグネットにコーンのスタイルが出現しております。
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更には、予想通りバッテリーが存在しバッテリーチャージャー(充電器)も勿論あります。
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これにより、電力事情の良好な常設スタジオでは無くて、フィールド録音と呼ばれる出張録音であってもその動力電力の確保が出来るのです。
整流の逆、直流から交流、つまり逆変換をエンジニアが操作していたならば、調節の仕方で交流周波数は異なり回転数値は異なります。

 

回転誤差の理由はいくつも考えられますがメンテナンスの不備による回転の低下はヒューマン・ミスといえましょう。
これは事実としてあったと思いますが もう一つの考察として録音時間の延長があります。
10インチディスク上のたったの3分数十秒の録音時間を如何に延ばすか?録音時間の確保はメーカーの目標でもありました、その為に33 1/3という低回転が出たわけです。

 

1930年代初頭から中期のポータブル式カッティングマシンには 78rpmと33 1/3rpmの切替モードが付いてます。ある日突然 実用化したりはしないでしょう、それにはある程度の実験や実績があったのでしょう。

 

戦前78rpmの回転数は エンジニアがある程度意図的に回転を落とし録音時間の確保、録音の失敗の無いように保険として行っていた可能性があるのです。

 

実は 多くの78rpm録音を奏法上、聴覚上の判断も合わせて修正を行い実際の回転数値を算出してみますとある一定の数値が複数現れる傾向があります。

 

それよりも、驚くことは1928,1929年には、マイクにアンプリファイヤーそして現在と変わらぬスピーカーがそしてバッテリーまでが 一般向けに市販されていたという事実です。
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立派なキャビネットにラジオとレコードプレーヤー、勿論ボリュームに現在と変わらぬコーンスピーカーが内蔵された商品が続々とカタログに並んでます。
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ピアノとのセッションで演奏時、パラボラマイクで集音した楽器やボーカルの音を増幅させてモニタースピーカーから出力し、更にそのバランス調整した演奏を録音システム用のマイクで収録したのだと想像します。

 

すると残された音からの音質の差異の謎が解けてくるのです。
グラフトンで「当時の録音セッションの音は1ブロック離れた民家まで聞こえていた」という証言が有ることを私は現地の方から聞きました。

 

アコースティック・ギターをいくら掻き鳴らしたってせいぜい2~3軒隣までじゃないかなぁ~?
これがおそらく真実だと思います。
もっとも、全てのセッションが大音響ではないと思いますし、色々試しながらやっていたのでしょう。


 

これらの機材は ラジオの歴史に詳しい方なら誰でも知っている事実でしょう。
ブルースという狭い視野からの考察ではなかなか辿り付く事が出来ませんでしたが、関連するあらゆるものを調べてみようという考え方は遠回りですが自分なりの発見を導いてくれました。

 

実はこれらの検証というは聴いた音からの自らの判断を証明するため、いわば確め算であります。

 

これらの検証により、ブレイクのギターの音質の謎も徐徐にベールを脱ぐのでしょう。。。