あとすこし | 矛盾SPIRAL

あとすこし

毎日毎日こんなふうに
あなたを見送らなければならないのだったら
きっとわたしは耐えられないだろうな

別に意地悪ではないけれど
そんな言葉が口をつく

あなたは笑って
でも少しばつ悪そうに背中をまるめて
入ってくる電車に目をそらした

昼間の灼熱を忘れさせる
ほのかに涼しい風
出逢ったあの頃に似ているけれど
これから訪れるのは秋

何時間か後には
この愛しい存在は
わたしの知らない地へと届けられる

きょうだけなんだから
あとすこしなんだから

隠れようとする笑顔を引きずり出して
あなたが電車に乗り込むのを見つめる

あとすこし
あとすこし
唱えるように・・・

身を裂かれるような乾いたレールの音
何かを忘れていく低い枕木の響き
わたしから遠ざかる冷たい鉄の塊

あなたを乗せた電車がすっかり見えなくなって
いくつの電車を見送ったのだろう

重い足取りでふらふらと駅を出る
縦横無尽に行き交う人々
ひしめき合う車
わたしを責める尖った三日月
夜に押しつぶされそうなビルの群
疲れと汚れに満たされ立ちこめる排気ガス

きらびやかなネオンの下
何一つ照らし出せない都会の暗夜に
ただひとり取り残されたわたし

いつかはこんな日がくる
後少しの笑顔なんかじゃ
あの人の胸にすら刻まれない
そんなときがくる・・・

あの人には帰る場所がある
いつか必ず帰らなければならない場所がある
わたしにはない
あの人しかない