「これが俺の兄貴の話。すごいっしょ。」


試すように恭子の顔を覗いてみる。


彼女は憐れむような悲しむような、なんと言ったらいいのかわからない、といったような表情でただ一言、「つらいね。」と言った。


本当のことを言えば全く辛くなど無かった。


幼少の俺はほとんど顔を合わせたことの無い兄貴が死んだことよりも、数日の間両親の注目を浴びることが出来なかったことの方が辛かった。


しかし、その後唯一生き残っただけで両親から手厚く甘やかされて育てられたことを兄貴には感謝したいくらいだ。


だからこの話において欲しかった反応は、俺が勝手に脚色した「死ぬ間際の人間がOasisのLive Foreverを聴きながら、インフィニティー・ピースを吸っていた」というドラマについてである。


俺は心底落胆した素振りを見せて、「うん、ありがとう」と言った。


彼女はそんな俺のことを、トラウマを抱える青年が自分にだけそのトラウマを打ち明けて克服するといったありきたりなドラマの方を想像したのかもしれないが、帰り際に「がんばってね」と言った。


しかし、俺が落胆したのは彼女の方にである。


つくづく頭の悪い女だ。



BGM.matt pond PA - So Much Trouble