9月の夜は思ったよりも寒い。

ポケットに手を入れて小銭を探る。自販機で缶コーヒーを買い、煙草に火を点けた。

道端に痰を吐くと、うずくまっていた野良猫がこちらに気付いて、気だるそうに振り向いた。

「何見てんだよ」

そう声に出してみたが、人に慣れた都会の猫はこちらを見つめたまま動かない。

火の点いた煙草を投げつけてみると、しなやかな動きでそれを交わして逃げ出した。

家まで残り80mの地点で途端に足が動かなくなった。

通り魔に刺された人間が今際の際に口にするのは、殺人鬼への恨みの言葉でも、人生を全うすることの出来なかった無念でもなく、その状況に達した因果関係への疑問なのだそうだ。

死そのものよりも、理由のわからない死に人は恐怖する。

たとえ真実でなくともその理由を欲するのだ。だからワイドショーのコメンテーターは一定の地位を築ける。

俺の身体を今、理由のわからない恐怖と倦怠感が包んでいたが、原因解明よりも一刻も早く俺の身体がそれらから解放されることを切に願った。

原因はなんだってよかった。

たとえ幽霊であっても。


BGM.Its All About Right Then - Ghosts And Vodka