わたくしは龍子さんの中に存在する不思議な生き物。
目に見えない生き物ってへんだけど、一応生きているから生き物よ。
私は龍子さんを客観的に見て、彼女が時々心を研ぎ澄ませている時に様々なヒントを与える役目をしているの。
寄生している存在って感じだけど、龍子さんはわたくしに気づいていないみたい。
わたくし、龍子さんに寄生できてよかったと思ってる。
だって、龍子さんってとても感受性が豊かでおもしろいんですもの。
さあ、今日はホワイトデー。
感受性が豊かな龍子さんの素敵な一日を龍子さんの感情とともにお話しましょうね。
龍子さんのホワイトデーの一日の始まりは、目を開けるといきなり目覚まし時計と目が合ってた。
そして、短針の位置を見てびっくりしていた。
夜なの?朝なの?って目をぱちくりさせていたわ。
慌てて飛び起きるようなスケジュールは入っていなかったけれど、かなり驚いた様子だった。
そうよ、だって、太陽が一日で一番高い位置にある時間からすでに1時間経過していたんですもの。
ああ、そうだったってつぶやく龍子さん。
昨夜は5軒の店を移動して帰宅したのは太陽が東の空にとっくにのぼっている時間帯だったのに気づいたのね。
そして、「だから短針がこの位置なのだわ」と納得してまた目をつぶってしまった。
からだが痛い・・・頭も少しだけ痛い・・・とわたくしに龍子さんの声が響く。
そして、「二日酔いだわ・・・」とひとりごと。
龍子さんの声が次々にわたくしに響いてきたわ。
>熱いお風呂に入って、何か食べたい。
>トマト味の濃いパスタが食べたい。
>トマト缶が確かストックしてあったっけ。
>バジルはないけれどセージがあるからシンプルに具なしのトマトパスタを作ろうか。
>セロリのスープもいいかも。
>でもその前に水が飲みたい。
>ミネラルウォーターをコップ一杯に満たして一気に飲んだら、そのコップに今度は氷をたくさん入れてレモンをしぼったぺリエを飲みたい。
>それにグレープフルーツも食べたいし。
龍子さんの欲求はいくらでもある模様(笑)
でも体が動かなくて、その欲求を解消することができなくて、とりあえず、龍子さん、ベッドの中であれこれ記憶を呼び起こし始めたわ。
昨夜は1軒目でワインを飲みすぎた上に、2軒目でおごっていただいたシャンパンで一時的に記憶が封じ込められた模様。
作りかけのパズルのピースがだんだんうまって形になっていくように、その一時的に封じ込められたものが少しずつ映像となって龍子さんの脳裏に現れる。
あのロゼのシャンパン、どなたにおごっていただいたのかしら。
お礼は言えたのかしら。
など、心配事が龍子さんの中で渦を巻き出したかと思ったら、急に圭吾さんの顔が頭に浮かんだ。
「そういえば、圭吾さんにメールの返信したかしら」と龍子さんは言って枕元に置いてあった携帯電話を手に取り、ベッドに横になりながらメール送信履歴を見ていた。
「圭吾さん」というフォルダーの一番新しい送信済みメールを開けると
>うれしい
>明日会えるのね
>じゃあ、久しぶりに西麻布近辺に行ってみる?
>お店探しておくわね
>今日は美樹子たちと夜の蝶々
とうったメッセージが表示された。
「よかった。まともに返信しているわ」
龍子さんは、自分がかなり酔っていた時のメールとわかっているのでくすっと笑っていた。
昨日、2軒目でシャンパンを飲んでいるときに圭吾さんからのメールが届いたのよね。
いつも2週間に一度くらいしか会えない圭吾さんなのに、急な誘いのメッセージだったわね。
だから素直に「うれしい」と書いたのだけど、うれしい理由はあと1つあるのをわたくし知っている。
わたくし、一週間前の龍子さんと圭吾さんのイタリアンディナーを思い出した。
あの日、一週間が始まったばかりというのにそのイタリアンレストランの1階席は満席だった。
奥様たちのお食事会といった感じのテーブルもあった。
「いらっしゃいませ」と迎えてくれた給仕に龍子さんは名前を告げた。
龍子さんは予約の際に「地下の半個室のテーブルをお願い」と頼んであり、2人は希望通りの地下の一番奥の角のテーブルに通された。
「君がそちらの席につきなさい」
と圭吾さんに促され、龍子さんはその席についた。
龍子さんは席につくとますます圭吾さんが好きになってしまった。
(ほらね、こういう彼女の感情の起伏がおもしろくてわたくし龍子さんが好きなのよ(笑))
圭吾さんは店がよく見える位置の席を勧めてくれたの。
龍子さんは何度も来ているお店なので圭吾さんがここに座るべきなのに、と思っていたみたいだけど、圭吾さんの気遣いをうれしく感じていたわ。
圭吾さんはわざとらしい、それとわかる気遣いはしない方だ。
何気なくスマートにそれをやってみせる。
「ここ、落ち着くね」
と圭吾さんが微笑みながら龍子さんを見たとき、龍子さんは「この人とはどうしてこんなに波長が合うんだろう」と心の中で叫んでいた。
いつだったか龍子さんは圭吾さんに恥ずかしげもなくこんなことを言っていた。
「圭吾さんのどこが好きかって。それはバランスのとれたところよ。
今までおつきあいしてきた男性って『ここはすごく合う』という部分があっても『でもここは合わないわ』というものが必ずあった。
でも圭吾さんは私にとってすべてのバランスがとれているの。私と好きなこと、嫌いなことがほぼ同じだからだと思う」と。
わたくしの方が聞いていて恥ずかしくなってしまったわ(笑)
でも、龍子さんの言うとおり、龍子さんと圭吾さんは心地よいと思えるものが似ていて、嫌いなものもほとんど同じ。
だから、「ここ、落ち着くね」という何気ない発言でも、こうしてうれしく感じるのは波長が合うということなのだわね。
ちょっとしたことでも感じるところが自分と同じというのがとてもうれしいみたい。
話もとい。
彼女がメールに「うれしい」と書いた理由はただ単に会いたいのを我慢する間隔が2週間から1週間に縮まったからだけではないと言った。
あとひとつの理由を説明するのにこのイタリアンディナーの話になるのよ。
あの夜の会話。
アミューズブーシュのチーズのムースに合った辛口のウェルカムシャンパンを飲みながら、龍子さんは最近の出来事を話し出した。
「この前ね、デスクワークをしていたら近所のバーで飲んでいたお友達からお誘いの電話がかかってきたの。
時刻を見たら夜中の1時過ぎだったわ」
「行ったの?」と、圭吾さんは目をまるくして龍子さんに聞いた。
龍子さんは、ムースにスプーンを入れながら「ええ。まだお風呂に入っていなかったし、気分転換したかったから」と言うと圭吾さんはおもしろいことを言った。
「へえ、そうなんだ。じゃあ、僕が『今、六本木で飲んでるけど来る?』って言ったら来るの?
あ、自由が丘だったりしても?」
行くに決まってるじゃない。
ねえ、龍子さん。
六本木は龍子さんの自宅からすぐのところだけど、自由が丘は少し遠い。
龍子さんはその二ヶ所を例に出したことがおかしかったらしく、笑いながら言った。
「行くに決まっているじゃない」
そして付け加えた。
「私、圭吾さんから呼び出されたらお風呂に入った後でも着替えてすぐに駆けつけるわ。
自由が丘でもどこでもね」
「そうなの?本当?」
「当たり前よ。だって大好きな圭吾さんだもの」
圭吾さんったら、どうしてそんなこと言うのかしら、という龍子さんの声が心に響いて、龍子さんはくすくす笑っていた。
そうよねぇ。
龍子さんがこんなに圭吾さんに対する愛情を言葉に表しているのに、圭吾さんっておもしろいとわたくしも思ったわ。
そして、龍子さんは追い討ちをかけるように言った。
「圭吾さんが大好きよ。清潔なオーラ。平和主義なところ。そして、私と波長が合うところ。
あなたを超える気の合う人はなかなかいないわ」
でもわたくし思ったわ。
龍子さんが、愛情の言葉を表しているとはいえ、果たして圭吾さんはその愛の言葉を恋愛の感情を表しているととっているのだろうかって。
大好きといっても友達として好きともとれる言い方だもの。
圭吾さんが親友の女性だとして今の会話を展開させたとしても違和感がないし。
だから、圭吾さん、あんなこと言うんだわってわたくしは思った。
龍子さんが本当に自分を愛しているのかって確信が持てないから言うのよ。
わたしくし、龍子さんにこっそり言ったの。
「きちんと恋愛としての感情ととってもらえるように言った方がいいわよ」って。
龍子さんは相変わらず圭吾さんに見惚れつつ、出された料理をお上品に食べている。
聞こえたのかしら、わたくしの声。
すると、テーブルに、アンティパストが運ばれた。
龍子さんは温かい前菜で牡蠣と茸のソテー、圭吾さんは冷たい前菜でシマアジのカルパッチョ。
龍子さんは言った。
「いつもお料理のセレクトがそれぞれらしいわ。
圭吾さんの好きなもの、わかるし、あなたも私の好きなものがわかっているから楽しい。
それぞれのお皿をシェアするともっと素敵よね」
わたくしはよしよしとうなずきながら、次のアドバイスをささやく。
「そうそう、それを人生に例えて言ってごらん」
龍子さんはわたくしの声に従って続けた。
「残りの人生は無理のない自分で生きたい。心地よい中で過ごしたいわ。
それは環境も大切かもしれないけれど、一番は心の心地よさ。
心の心地よさが同じ人と過ごしたいと思うの。
このお料理のように、私と圭吾さんってそれぞれが違うのだけど、お互いの違いがわかっていて、でも違うものを融合させるともっと素敵になるの。
または、それぞれのそういった部分を確かめて『なるほど』っていう発見も楽しいと思うわ。
嫌いな人だと違うものの融合は苦痛だと思うけれど、大好きな人だから何でも楽しくて心地よいのね。
ってことは、圭吾さんとはどんなことでも心地よいはずだわ」
圭吾さんは、微笑んでいた。
そう、きっとこの会話が効いたのだわ。
だから、仕事が一番の圭吾さんでも龍子さんにお誘いが早くかかった。
わたくしの勘だけど、今夜のホワイトデーの逢瀬はかなりいい感じになると思う。
さあさあ、龍子さん、二日酔いなんて言っていないでさっさとお水を飲んで熱いお風呂に入ってきれいに飾り立て始めなさい。
あなたは気づいていないみたいだけど、今日ってホワイトデーよ。
そんな日に圭吾さんから急なお誘いなんだから、少しは気がつきなさい。
きっと素敵な贈り物があるはずだから。
龍子さん、わたくしの叫びに気づいたらしく、やっとベッドの毛布をとって起き上がった。
はいはい、早く早く。
で、今日はわたくしが言うスケジュールでいくこと。
龍子さん、今からネイルサロンに行きなさい。
それでね、ホワイトデー仕様にするの。
そのネイルが完成したら写真を撮って圭吾さんに送る。
「狙ってます」って一言そえてね。
これは早ければ早いほどがいいわ。
圭吾さんにお買い物の時間を与えるためにね。
すると龍子さんはわたくしの声が届いた模様でネイルサロンの予約をするために携帯電話をダイヤルし始めた。
彼女の素直なところがわたくし好きだわ。
わたくしの声が通る時はすぐに行動に移すからね。
それがいいのよ。
こうしてわたくしの声を聞き取って行動に移せる龍子さんだから、きっと幸せになるはずよ。
素敵なホワイトデーデートになりますよう。
わたくしも祈っている。
ハッピーホワイトデー、龍子さん。
あ、追記。
みなさん、龍子さんと圭吾さんの今宵の行方を知りたいわよね?
少ーしだけお伝えします。
今、2人はあるフレンチレストランにいるわ。
龍子さんはとてもきれいに着飾ってる。
ネイルはわたしくしの言うとおり、ハートのデザイン。
圭吾さんのポケットにはホワイトデーのプレゼントが入っているのがわたくしにはわかる。
さっき、龍子さんがワインリストを見ているときに圭吾さんがポケットのそれをそっと出して確かめていたのをわたくし見ましたので。
ポケットに入るってことは小さな贈り物。
さあ、このあとの展開はいかに。
わたくしちょっとした予知能力もあるのだけど、以下の会話が繰り広げられることをみなさんにお知らせしするわ。
で、あとは2人をそっとしておきましょ。
「今日君が送ってきた携帯メールのネイルの写真見たけど、ホワイトデー仕様なんだね」
「ハートのね」
「ね、そのかわいいネイルをよく見せて」
「ええ」
と龍子さんが左手を圭吾さんに差し出すと圭吾さんは彼の左手で龍子さんの手をとり、
「きれいな手だ」と微笑む。
うっとりして圭吾さんを見つめる龍子さん。
圭吾さんは、そんな龍子さんと見つめあいながら、右手をポケットに入れキラリと光るものをとり出し、龍子さんの左手の薬指にそれをはめる。
「え?これ・・・」
と驚く龍子さん。
圭吾さんは微笑みながら言う。
「毎日心地よい時間を感じていたいから。君とならそれが可能だ。これはその時間を約束するためのもの」
あ、そろそろ始まるわ。
じゃあ、幕は閉じましょう。
わたくしも少し隠れるわ。
2人のラブシーンのお邪魔にならないように。
ハッピーホワイトデー!!
グッドラック、龍子さん。
The End ・・・ Written by 鈴乃@Akeming
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【 狙ってます 後記 】
ここのところ、記念日にはショートストーリーをアップしてます
クリスマス → ホノルルラブ 貿易風のメリークリスマス
大晦日 → ホノルルラブ 恋のカウントダウン
バレンタインデー バレンタインデーshort story決心のできないオンナ
そして、今日!ホワイトデー
今日のお話は、先日ネイルチェンジした際のブログにいただいた牧野ケンゴさんからのコメントからヒントを得て書きました(ケンゴさん、サンクスです!)
あと、ショートストーリーにあわせて先日お食事に行ったリストランテキオラのお食事写真も披露
キオラのお食事の続きですが。。。
オレキエッテは耳たぶのようなパスタです
パスタ名見てもどんなパスタかわからないでしょ
キオラではこんな手作りのパスタ見本を作ってくれて、お客様に説明してくれるんです
柔らかく煮た岩手産白金豚のキャラメリゼ、 マスタードグリーンと三浦産サラダザーサイ“ミウラーゼ”のピクルス
このワイン!先日のサロンワイン会に登場したワイン!
ワイン会のワインってキオラで飲めるようなワインなのね(宣伝♪)
レストラン情報 !
リストランテキオラ
港区麻布十番3-2-7リゾーム麻布十番1F
TEL 03-5730-0240











