■ #3006 by 戦士1
久しぶりにあなたといっしょに朝を迎えた。
ここは#3006。
カーテンから入る朝の日がまぶしくて、外の光に目が慣れるのに時間がかかる。
真っ白な光がホテルの部屋に入ると、清々しい反面、なぜか気恥ずかしくなる。
ホテルのルームウェアの裾下のあなたのひき締まった脚が、とてもたくましく、朝の光を通して見ると、昨夜その足に自分の足を絡めて同じベッドで寝たことがいけないことのように感じて、何となくきまりが悪い。
朝の光と、あなたが羽織るルームウェアの白と、シーツの香りに、ちょっとだけ照れくさい気分がミックスされる。
このミックスされた朝の気分がいい。
二人で迎える朝もいいけれど、でも、私は、あなたと眠りにつくまでの時間が好きだったりする。
あっという間に、朝になってしまうことがわかっているので、あなたと過ごす夜の短い時間が愛しく感じる。
夜が更けてもとまらないあなたとのおしゃべり
ふわふわに揺れるための小道具、シャンパン
新しいシーツのにおい
バスタブにお湯をはる音
テレビの深夜番組
二人でいっしょに飲むミネラルウォーターのボトル
ここは#3006。
■ #3006 by 戦士2
目を覚ますと隣にやわらかな気配を感じる。
首を傾けてそのふんわりした何かを確認して僕は「おや」と驚いてしまった。
そうか、ここは家ではなかったのか。
僕はいつもと違うベッドリネンに包まり、半分寝た状態でその心地よい空気を楽しんでいた。
現実の世界の割合が僕の多くを占め始めると、ふんわりしたものがだんだん自分の感覚に馴染んできた。
きっとそのうち、その隣のやわらかい何かが媒体を通して僕に入り込んでくるのだろう。
それは会話だったり香りだったり。
そう、僕にとってのなごむやわらかいものは君だった。
昨日の慌しかった時間など忘れて僕は穏やかな風に吹かれて昼寝をしているかのような気分になれた。
昨夜、夜中に君とこの部屋#3006で落ち合った。
落ち合うというか、その前に僕らはワインを飲みながら温野菜とウナギのオードブルだの、白金豚のグリルだの食べていたんだが。
急に入った会議でワインと食事を中断せざるを得ない状況になったので、改めて君との時間を作った。
その改めて、の空間がこの#3006。
君は、ここ#3006で「バスタブにお湯をはる音が好き」と言った。
テレビの深夜番組を見ながら。
「でも、あなたと一緒にその音を聞くのが好きなの」と付け加えた。
僕が「シャンパン。あとワインクーラーとフルートグラスを」とルームサービスにオーダーすると、テレビを見ていた君は目を輝かせて僕を見た。
「さっき、中断してしまったからね。もう一度やり直し」と僕は笑った。
部屋に入ったのが深夜だったから君と過ごす時間は本当にわずかだった。
昨日はすごい展開で一日が過ぎたからな。
「明日のために睡眠をとらないとね」と君が言った。
それなので、シャンパンを残したまま僕らはベッドに横になった。
そう。
明日は勝負なんだ。
■ #3006 by 戦士1
#3006でのあなたとの時間を記すのに、これだけでは中途半端だと思った。
なので、また繰り返し私が登場しよう。
話がここで終わったら、密室で2人で過ごす恋人同士のただの日常だ。
実は、この話の中には、いろいろな思いが凝縮されているというのに。
この話には続きがあるのだ。
でも、この先は昨日の出来事を話さなくてはならない。
リアルに起こったその前夜のことは、あなたとのストーリーのバランスが崩れるかもね。
でも、2人で交互に記すことでバランスよくまとまるかもしれないから、まずは私から。
そう、昨日は私にとってもあなたにとっても大きな変化が起こった日だった。
私は、深い傷を受けた。
何かに癒されないとその場にいられないくらいで、まるで心に大きな矢が刺さっているかのようだった。
いいタイミングであなたと食事の約束ができていてよかったと心から感謝した。
あなたに会えずに家に帰ったら、真っ暗な寝室の自分のベッドの中で傷を癒すために小さくまるくなるしか術がなかったから。
思いっきり甘えるつもりであなたとの約束の時間を待ち構えていた私だったが、夕方あなたから送られてきたメールを見て愕然とした。
あなたは深い傷を受けるというか、人生の転機に近いような大きなことが起こっていた。
私はそれを知ったときに「今日の約束はキャンセルになるかも」と心配になった。
ところが、あなたは少し遅刻する程度で約束のお店の前に現れた。
「中で待ち合わせればよかったね」とすまなそうに言うあなたは、忙しそうで緊張した面持ちだった。
私は「ううん。大丈夫。あなたに会えてよかった」と安堵の顔で言うと、エレベーターのボタンを押した。
■ #3006 by 戦士2
僕らは、カウンター席がメインのフレンチレストランの前で待ち合わせをしていた。
僕が指定した店だ。
君のテリトリーでありながら、君はまったく気づいていなかったらしいが。
まあ、目立つ看板もなく、知っている人だけがワインと食事を楽しみに来るような内緒にしたくなるお店だから君は知らなくても当然かもしれないね。
その内緒にしたくなるようなお店は、週末でないのに満席に近い状態で賑わっていた。
それなので、僕らは賑わっているカウンター席から離れたテーブル席を選んで席についた。
何だか落ち着かなかった。
というのは、僕の勤める会社が転換期を迎えるにあたって予想のつかない大きな波がきそうだったからだ。
僕のポジションはその波を受けるのはかなり衝撃的で、本当ならここで食事などしている場合ではなかったかもしれない。
それなので、席に座って給仕におしぼりを差し出された時は、何だかほっとした気持ちになった。
ほっとできたのは、君が手前に座っていたからかもしれないが、逆に君と一緒にいると少し焦った気持ちにもなった。
会社から呼び出しの連絡がくるかも、と思うとそわそわして気が気でなかった。
案の定、メインディッシュが運ばれた時、携帯電話が光った。
■ #3006 by 戦士1
あなたはさっきから焦っているような感じだった。
相変わらず私の心には大きな矢が深く刺さっていたけれど、その胸の痛みを忘れるくらいあなたが心配な私だった。
にこりともせず、オードブルの料理を口に運ぶあなたにあわせて私もちょっとだけ気持ちが落ち着かなかった。
だって、あなたはテーブルに置いた携帯電話ばかり気にしている。
そして、やはり、といった感じであなたの携帯電話が光った。
あなたは「失礼」と言って席を立ち、店の外に出た。
私も何だか顔をこわばらせて、あなたのいないテーブル席であなたが戻ってくるのを待っていた。
手持ち無沙汰で何度もワイングラスを口元に運びながら。
しばらくして席に戻ってきたあなたは、「会社に戻らなくてはいけない」と、メインディッシュの料理を早々と口に運んだ。
そして、「これから緊急会議だ。そして会議の後、都内のホテルに泊まることになりそうだ」と言った。
あなたは、ちょっと困った感じだったけれど、私の顔はみるみるうちに明るくなった。
私はにっこり笑って言った。
「あなたと朝までいっしょにいてもいい?」
あなたは、一瞬目をまるくしたけれど、微笑んで「うん、そうしよう」と言った。
いきなり空から降ってきたようなギフト!
私はそのギフトをありがたく戴くことにした。
■ #3006 by 戦士2
食事を慌しく終わらせると、僕らは一旦別れた。
そして、僕は会社に戻り、君は自宅に戻った。
会議は日付がかわっても続き、僕は戦士と化して仕事をやり遂げた。
そして、ホテルのレセプションで#3006のカードキーを受け取ると君にメールを送った。
「#3006で待ってるよ」と。
君はきっと僕からの連絡を待ちわびていたのだろうな。
部屋に入ると、君の笑顔を思い描きながら僕はスーツのジャケットを脱いだ。
■ #3006 by 戦士1
数時間後、待ちに待ったあなたからのメールが届いた。
「#3006で待ってるよ」と。
やっと、あなたと過ごすための鍵を手に入れた私は、深夜のタクシーに乗り込み、#3006へと向かった。
会えなかったらどうしよう、と少し不安になりながら、部屋のチャイムをならす。
すると、あなたは部屋のドアを開け私を迎え入れてくれた。
途端に緊張していた私の顔がほころんだ。
また会えたのね。
慌しい時間を越え、また近くにあなたがいる。
なんて、ドラマティックなんだろう。
私にとっては、あなたと過ごすドラマティックな時間は、一瞬に近い。
そして、貴重な時間。
今宵の貴重な時間、イコールいっしょに過ごせる朝まで、あと数時間しかない。
でも、私は、ここで焦らないし、がっかりもしない。
朝までの短い時間を大切にしようと思った。
あなたが疲れて先に寝てしまっても、あなたの背中の温かみを目で感じよう。
あなたの寝息を私の子守唄にしよう。
あなたの胸元に香る、オーデコロンの残り香を楽しもう。
寝ているあなたの指に、自分の指を絡めて、いっしょにいることを確かめよう。
お互いが忙しいゆえ、いっしょにいられる時間がほとんどない私たち。
だからこそ、いっしょにいられるときは、一分、一秒がドラマチックに展開される。
会える時間が少ないからこそ、いっしょにいるときは時間が凝縮されて、濃い時間と変化する。
■ #3006 by 戦士2
真っ白なルームウェアを羽織り、バスルームにお湯をはる。
すると、チャイムが鳴った。
君だ。
僕は、ドアの鍵を開け君を迎え入れると君の不安そうな顔が現れた。
僕が笑うと君の顔は花が咲くような笑顔にかわり、僕の腰に手を巻きつけ「また会えたのね」と言った。
君はロマンティックな女性だ。
きっと僕の腰を抱きながらいろいろと思いをめぐらせていたのだろう。
腕をほどいて目を合わせるとうっとりとした眼差しで僕を見ていたからね。
今日はどんなドラマを展開させようとしているのかな?
でも時間は短い。
この短い時間、君の好きなように過ごせばいい。
僕は明日のことで遠くを見つめることもあるかもしれないが、君ならそんな僕に順応してくれるだろう。
君は僕から離れると、窓際へ行き外の夜景を見つめていた。
さあ、ここにおいで。
ドラマはもう中盤だ。
そろそろ大きく展開を始めないとね。
まずは再会のお祝いだ。
■ #3006 by 戦士1
#3006で濃い時間を過ごした私たち。
きらめく朝がやってきた。
別れる時間が刻々と迫っているということだ。
あなたは前夜の会議のことで頭がいっぱいだったのだろう。
だんだん、#3006の空気がかわってきた。
私が#3006を出た途端、あなたは戦闘モードに入るのだろう。
忙しい人ね。
私は、あなたをきゅっと抱きしめて「大丈夫よ」と言った。
見詰め合って、もう一度言った。
「大丈夫だから」
私を見るあなたの目が、小さな子供のように思えた。
私は、母親のような気持ちで見つめ返した。
あなたを抱きしめて、離したくない、と思った。
でも、行かなきゃね。
素敵な戦士を見送るように、あなたをもう一度抱きしめて言った。
「がんばってね」
そして、ドアに向かってゆっくり歩き、振り向きたい衝動を抑えて、ドアノブに手をかけた。
あなたより先に#3006を出るために。
■ #3006 by 戦士2
朝起きて、やわらかい君を心で感じながら、頭はビジネスモードにかわっていく自分だった。
このままほっとした中で過ごせたらどんなにいいだろう。
でも、僕は戦士だ。
ビジネス社会で戦う戦士。
ここは切り替えないといけない。
君はそんな僕を理解しているのか、少しピリピリした空気の中でも落ち着いた顔で身支度を整えている。
用意が済んだ君は、僕を見つめてから「大丈夫よ」と僕の腰を抱いた。
そして、僕の腰に手を巻いたままもう一度僕を見つめて「大丈夫だから」と言った。
僕は少し驚いて君を見た。
というのは、昨日弱々しく「心に矢が刺さっている」と言っていた弱気な君はまったく感じられなかったからだ。
そういえば、君の悩みはどうしたんだろう。
何だかお互い励ましあう戦士のようだ。
そうか、僕ら、戦士なのかもしれない。
僕も君も日々戦っているからね。
■ #3006 by 戦士1
#3006は、私がいなくなったらやわらかい空気が風で流れて、ビジネスマンの空気と化すのだろう。
ホテルのエントランスでタクシーに乗り込むとき、#3006を出るあなたの姿が頭に浮かんだ。
#3006に残るあなたの香りを想像しながら、私も気持ちを切り替えた。
お互いが戦士だから。
昨夜の#3006は、戦士たちの休息の場だったのかもしれない。
いっしょに眠りについたベッドが、ゆりかごのように思えた。
普段の生活を忘れられる、穏やかで、そして、心地よい揺れ。
何かに守られ、心地よい揺れの中で眠りにつけるような感覚。
タクシードライバーに「これからお仕事ですか?」と聞かれた。
足早に会社に向かう、サラリーマンやOLの姿が車の窓から見える。
私は「はい、そうです」と答え、車中から高層ビルを見上げながら「戦う戦士たちにはゆりかごでの眠りが必要なのよ」と心の中でつぶやいた。
The End ・・・ Written by 鈴乃@Akeming
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【 #3006の戦士たち 後記 】
Akemingのだ~い好きな恋愛と自立がテーマのショートストーリー!
いかがでした?
戦士1は女性、戦士2は男性の語り口で交互に綴ってみました
わたしは戦う人たちの恋愛が好き
(「闘う」のか「戦う」のかどっちの漢字を使おうか迷ったけれど、とりあえず「戦う」でいきました)
今回のお話はビジネス社会で戦うって場面が出てきたけど、仕事だけでなく、みな日々戦っている
つらい気持ちと闘ったりってあるでしょ?
目標に向かって前進するために欲と闘うっていうのもあるでしょ?
わたしが言っている戦士とは、そういった意味の戦う(闘う)人たちなのです
戦士1と戦士2はお互いが戦士であることを認め合って恋をしている
こういう大人の恋って好き!
お互いの居場所をわかっていて、それを認め合って邪魔をすることはない
わたしの好きな言葉にセルフコントロールってあるのだけど、この2人はまさにそれができている男女
お互い多くを望まずに、それぞれが与えられた時間を大いに楽しむ
一緒に楽しむこともできる2人だけど、一人一人が楽しむこともできるっていうのがポイントかな
わたしの理想だな。。。
さて。
写真に使ったお部屋は#3006ではなく、去年北京に行った時のホテルです
去年の4月、オリンピックが開催される前に北京に行ったわたくし
事情があって北京の旅日記はブログに書けませんでしたが。。。
北京エアポートはバブルって感じできれいだったけれど、「大丈夫かな~」というのが私の感想
物質的なものはきらびやかで派手で近代的なのだけど、そこで動く人たちがアナログというか、遅れている?!
追いついていないって感じでした
北京では植樹をしてきました
そして、万里の長城や世界遺産のお寺に行ってきました~
これは万里の長城で撮った写真
階段がきつくてちょっと疲れた顔してます。。。(-ω-)。。。
これは世界遺産のお寺。。。なんて言ったっけ???忘れた。。。笑(わたしらしい。。。)
ここですれ違ったお坊さん、紫色の瞳をしていて、どこかで会ったことがあるって思った
帰りにまたバッタリ会ったので何だかご縁を感じて握手してもらったっけ
あの紫の瞳とどこで会ったんだろう。。。



