その洋館に入って部屋を見回すと小さな話し声と共にあちこちで輪が描かれていた。
私は一人、クラシックな柄の壁の前に立ち、それらの輪から少し離れたところである想いに耽っていた。
時々、その輪に、花が咲いたように「わっ」と小さな歓声があがったり、小鳥がさえずるようにかわいい笑い声が広がる。
そんな瞬間があっても、私は、ただただ思慕に夢中だった。
そう、あなたとの思慕に耽っていたのだ。
例えばこんな。
「見せて」
とあなたが狭いエレベーターの中で私の肩に手を乗せる。
「え?」
と私が振り向くとあなたの目線は私の顔でなく首の下、デコルテあたりに集中している。
「やっぱり」
とあなた。
「やっぱり?」
と私が聞くと、
「ああ。やっぱり似合っている」
とあなたは満足そうな顔をして微笑んでいる。
そして、私の首にかかるネックレスを指でなぞりながら言う。
「ゴールドにするかシルバーにするか迷ったんだ。君はゴールドだと思った」
薄暗い部屋のアンティーク調の鏡に自分の上半身が映っている。
意識を現実に戻して、鏡の中の自分に見入る。
かなり照明が落としてあるその部屋の鏡に映る自分は、その琥珀色の部屋の色と同化しているかのようだった。
小麦色の私は、部屋の色と混ざりあっていると思った。
でも華奢なゴールドのネックレスだけが光っていた。
冬だというのに私の肌は小麦色。
だから、ゴールドが肌にとけこむようにマッチする。
今日はデコルテがきれいに見える胸元の開いたドレスだったから大振りなアクセサリーをつけるとゴージャスに見えてよかったかもしれない。
でも、今日の私は私の胸元で小さく光る華奢なゴールドのネックレスの方が大振りなものより際立って見えると思った。
鏡の中の自分から目線を少しはずすと、自分の後ろに白いシャツを着た男性がフルートグラスを2つ持って立っているのが見えた。
その男性と鏡の中で目が合ったので、私は振り向き、彼を見た。
すると、その男性がクランベリーの入ったシャンパンのフルートグラスを「どうぞ」と私に差し出した。
「ありがとう」と私は彼からグラスを受け取った。
「素敵な装いですね。日に焼けた肌に似合っています」
と、男性は微笑んだ。
「ありがとう。あなたも今日のパーティーでは男性陣の中でとても目立っているわ。
あなたの日に焼けた肌とその真っ白なシャツがとてもマッチしています」
と私も微笑んだ。
「僕たち、冬なのに肌が黒いですね」
と彼は笑った。
「そうね、私たちだけだわ」
「南の方に行かれていたんですか?」
「ええ、一昨日帰国しました。クリスマスを南の方で過ごしたのだけれど、年越しはこちらがいいと思って」
「僕は沖縄に仕事で10日間ほど行ってました。一週間前に帰ってきてクリスマスは東京で過ごしました。
南のクリスマスってどんなんでしょう?僕は一度も経験がないから」
男性はそういうと、シャンパンを飲み干した。
「クリスマスはやっぱり寒いほうがいいと思います。暖かいと何だかクリスマスって感じがしないの。
長いこと日本でクリスマスをお祝いしていたからかしら」
私がそういうと男性は「ちょっと失礼、ここで待っていてください。すぐ戻りますから」と言ってどこかに姿を消した。
男性はシャンパンの瓶を持って戻ってきた。
そして、少し減った私のグラスにそれを注ぐと、自分のグラスにも注いだ。
「さあ、2人の肌が褐色な理由がわかったので、乾杯しましょう」
と笑った。
私も思わず笑ってしまった。
「へんな乾杯だわ」
「年越しの乾杯はまた後ほど。
これは、あなたと出会ったお祝いの乾杯と肌の色が似ている喜びの乾杯ということで」
と私のグラスに自分のグラスを小さくつけた。
私は、年越しのパーティーに一人で来ていた。
クリスマスの4日前に南の島に家を構え、南国でクリスマスを過ごしたが、年越しは東京で迎えようと思った。
そして、戻ってきたところにタイミングよく知人からパーティーの誘いのメールが入ったのだ。
私は男性に聞いた。
「お一人なの?」
「いえ、仲間があっちで飲んでます。そちらはお友達とご一緒ですか?」
「主催が知人だけど、私は一人。先日遠いところに引っ越したら、東京のお友達を誘って出かけるのが億劫になってしまったんです。私の東京のお友達は私が今ここにいることを知らないのよ」
と笑った。
「遠くって関西とか?」
「いえ、海外なんです。さっきお話に出た南の方の」
「そうでしたか。ではお正月を過ごされたらまた暑い国に戻るのですね」
「はい。美白を目指す前にまた黒くなってしまいます」
「あはは。でもあなたは真っ黒で元気に飛び回っているのが似合うような気がします」
「実は、私もそう思ったので東京から脱出しました。
自然に身を任せて、太陽や空や風と向き合いたいと思ったんです。
東京は華やかな街で好き。ファッショナブルな男女、きらびやかなパーティーや素敵なレストラン・・・
でも、ある時、自分がいるべきところはここではない、と思ったの」
「なるほど。
最初、あなたを見たときセレブリティな旅行で小麦色の肌を得た方なのかと思いましたが、違うんですね。
ずいぶんと思い切った理由で東京から出ましたね。その行動力は素晴らしい」
「いえいえ、少しかっこつけてしまいましたが実はあと1つ理由があって。
その理由を自分が納得するのに時間がかかったので、脱出するまで時間がかかりました」
「と言うのは?お仕事とか?」
「仕事はどこでもできるから何とかなるけれど・・・」
「ご家族の問題ですか?」
「いいえ、私は一人身のようなものだからそういった問題はなくって・・・」
「ごめんなさい。つい詮索するように矢次に質問してしまいました。
いや、とても素敵な方なのでいろいろと知りたくなってしまって」
男性は、バツ悪そうに笑った。
「言いづらいことではないから大丈夫です」
と私は微笑んでから続けた。
「好きな人がいまして。彼から距離を置くため、というのも海を越えたところに移動する理由の1つだった」
「好きな人と距離を置くため?」
「ええ。彼は家族のいる方なので、これ以上一緒にいると自分が多くを望みそうでこわかったんです」
「なるほど。それが理由であればなかなか吹っ切れませんよね」
「彼とは別々の道を歩むのだなってわかっていたのだけど、できなかった。
それなので、遠くに引っ越すと決心することで自分の背中を押したんです」
「彼は何と?」
「僕もいずれはそっちに住みたいなって」
と私は笑った。
「あなたが好きなんですね」
私は何も言わず、微笑んだ。
男性は、私の胸元に視線を移し、
「そのネックレス、素敵ですね」
と言った。
「ありがとう。今日は、大きなパールのネックレスにするかこれにするか迷ってこれにしました。
クリスマスプレゼントにもらったばかりで」
「クリスマスプレゼント?もしかしてその彼からのですか?」
「当たりです」
「センスのいい方ですね。航空便で?」
「いえ」
「え?まさか南国まであなたに会いに来たとか?」
と男性が笑った。
「はい、そのまさかです」
と私も笑った。
「僕、冗談で言ったんですけど。いや、驚きだな。そんな人がいるんだ」
「私も驚きました。イブの3日前にいきなり連絡があって。
私は一人でイブを過ごす予定だったので大慌てで彼を迎える準備をしました」
「イブのためにわざわざ東京から飛行機に乗って来たってわけですよね?それはすごいや」
男性は感心したような面持ちでうんうんとうなずいていた。
「イブとクリスマスの2日間を私の下で過ごして26日に家族が先に滞在していたロスに発ちました。
今頃ご家族とロスです」
「ロスか。じゃあ、僕らの方が早いカウントダウンですね」
「私が南の島にいたら、私の方が後のはずでしたが。
ここまで話したのなら言ってしまいますが・・・
実は、彼から先に新年の挨拶のメールがくるのがいやだったんです。
家族と過ごしていることを想像すると悲しくなりそうだったので、それでこっちに帰って来たんです」
「そうですか。複雑な思いですね。では、彼より先に乾杯しちゃいましょう。あと10分ほどでここは新しい年だ」
彼は私のグラスにシャンパンを注いだ。
遠くで知人が叫んでいる。
「あと10分であたらしい年ですよー。みなさん、乾杯の準備はいいですか?
空のグラスを持たないでくださいね。一緒にカウントダウンしましょう!」
部屋が少しざわつきはじめた。
空のグラスの人が慌ててワイングラスやシャンパンのグラスの並んだテーブルに集まった。
私はテーブルに群がる男女を見ながら考えた。
新しい年。
私はどんな年にしよう。
自立の準備はできた。
前から望んでいた南の島での生活。
誰にも依存せず、自分のすべきことを黙々とこなそう。
男性が言った。
「結果や行き先を考えない恋愛って難しくありませんか?だいたいの人が恋愛に結果を求めますからね。
行き先がない恋愛でもいいんですか?」
「多くを望むとうまくいきませんからそうなる前に対策練りました。
とにかく今の私は彼から離れて自分の確立をしっかりしたい」
「なるほど。では、僕も多くを望まない努力をしよう。というわけで、僕は多くは望まない。
だから、あなたの住んでいる南の島に行きたいとは言わないがせめて東京にいる間にもう一度会いたい」
と、男性が真面目な顔で私に言った。
冗談という感じではなかったので私は言葉を返せず困ってしまった。
「僕は家族は父と母と兄なので、あなたを困惑させるような家族構成ではありません」
と男性は笑った。
「多くを望まないって、簡単なようで難しいものだと思います」
と私は言った。
そう、現に私は、この男性が私に声をかけてくる前は、大好きな人との会話を愛しい思い出として思い出していた。
愛しい思い出が増えるほど、嫉妬心が大きくなり、平静を保とうとすると余計に心はかき乱された。
そろそろ部屋が落ち着かなくなってきた。
「さあ!カウントダウンを始めますよー」
という知人の声が部屋に響いた。
「10、9、8、7・・・・」
みんなも一緒になってカウントしている。
私も男性も、カウントダウンの声にあわせて数字を叫んだ。
「A Happy New Year!!!」
みんなグラスを挙げて乾杯をしている。
私と男性も乾杯をした。
「多くを望まないあなたに本当の幸せがおとずれますように」
と、男性は私の耳元でささやいた。
私は、嫌な気持ちがしなかった。
年越しのカウントダウンと共に新しい恋のカウントダウンがはじまったの?
私は、「5日に出発します。4日でよければ東京でお会いできます」と男性に言った。
THE END Written by 鈴乃@Akeming
【 ホノルルラブ・番外編恋のカウントダウン 後記 】
もうすぐ年が明けますね♪
カウントダウンのパーティーやライブにお出かけかな?
それとも家族で紅白歌合戦を見ているのでしょうか
わたしはせっせとショートストーリーを書いてました(笑)
これからおせち料理を作ります!
今日のお話は先日アップした「ホノルルラブ・貿易風のメリークリスマス」の続きというか番外編となります
よかったらこちらもご覧ください♪
ma*nani通信 → ホノルルラブ・貿易風のメリークリスマス
さて
もうすぐ2009年
今日は今年学んだことをシェアしてブログを〆ようと思いましたが、ショートストーリーになってしまいました
お料理しなきゃいけないことだし(笑)またの機会にしますね~
ではみなさまよいお年をお迎えくださいませ~
あ、
来年の抱負だけ書こうかな
今年を〆る準備をそろそろ始めようとした11月に体調を崩し、いろいろと考えることがありました
高熱にうなされながら、決めたこと!
■ミッションを果たすために飛躍の年としよう!
■ミッションを果たした後の準備もそろそろ始めておこう!
これです・・・
いきなりすごい年になっちゃうけど、目標は大きく!!
いらないものを捨てた分入ってくるものも大きいと見て、がんばります
Akeming ♪ 2008.12.31 もうすぐ2009年だー