■今日のショートストーリーを読まれる前に。。。■
主人公の海人(カイト)は就職を控えた大学4年生。
自宅近くのシガーバーでバーテンダーのアルバイトをしているが、今宵はバーのお客が早くひけてしまった。
母親の奈津実の体調が悪いということで、オーナーのヒロさんに「帰ってもいいよ」と言われたその時に
お客としてバーに入ってきた山口。
山口は奈津実の紹介で知り合った男性。
山口と海人の亡くなった父親の話になり。。。
山口さんは俺に笑顔を向けた。
この人の笑顔は本当にいい。
この前も感じたけれど、いや味がない。
それは、会話の中でも感じることができる。
今の会話の中でも親父のことを批判されても嫌だと感じなかった。
それは、彼にいや味なものを感じないからだ。
親父を1人の男性として見識のある物の見方、考え方ではっきり言った。
俺の親父だからって、奈津実の伴侶だからって見解で言わない。
時としては、相手を傷つけることもあるかもしれないが、俺は大丈夫。
どちらかというと俺も山口さんに似たような性格だからだ。
俺は人の感情や行動を分析するのが好きだし、分析する時は贔屓なしだ。
ただ、奈津実だけは違った。
奈津実贔屓な俺だから。
「山口さん、ちょっと聞いていいですか?」
「何だい?」
「僕、マザコンじゃないんですけど母親贔屓なんです」
「あはは。それは当たり前だよ」
「いえ、何と言っていいのか。誰でも母親は好きだと思うんですが、そういった単純なものではなく・・・」
「うんうん・・・」
「この前も思ったんです。『何でこんなに贔屓するんだろう』って。昔からでした。父が蛍光灯を割って怒る以前、いえ、もっともっと前からずっとです。どうしてだと思います?子供の頃からずっとそうだったんです。母が心配で支えてあげないと気が済まないというか・・・子供の僕がなぜだろう?っていつも不思議な気持ちでした」
「奈津実さんは特にそうかもしれないね。危なっかしくて見ていて不安になることは僕もあるよ」
「母のキャラのせいでしょうかね?いや、それだけではないと僕は思います。さっき山口さんは母親は自分の勝手で叱っても許される関係なんだよって言いましたが、僕もそう思うんです。でもそれだけでこんなに母親を贔屓できるものなのか?って思います。父は父なりに将来の僕を考えて愛情を持って僕を叱ってくれていたのかもしれないけれど、そんな父の気持ちがわかっていてもどうして僕は靴下の裏が汚いと叱る母が好きだったんでしょう?・・・えっと・・・あ!そうそう、糸電話!」
「糸電話?」
「はい、贔屓する直接の理由になるかどうかわからないんですが、僕と母は糸電話で繋がっているっていつも思うんです」
「ほう」
「普段は糸が緩んでいるんですけど、緩んでいる糸がいきなりピンと張って自分が考えていたことと同じ事を母が言い出すことがあって」
「なるほどね。君と奈津実さんは心が繋がっているってことかな?」
「すいません、へんなこと言って。でも最近そういったことがとみに多くなって」
「そうか、あれだ」
「なんでしょう?」
「ソウルメイトなんだと思うよ。カイくんと奈津実さんは」
「ソウルメイト?」
「魂の伴侶だよ。人は生まれながらにして魂の半分を持っていて、その半分の魂とピッタリと合わさる伴侶がこの世の何処かに必ずいると言われているんだ。君と奈津実さんはその半分ずつの魂を持って出会ったソウルメイトなのだと僕は思うよ」
「でも僕たち親子ですよ?」
「あるんだ。ソウルメイトは恋愛だけでなく、兄弟だったり親子だったりっていうのもある」
「うーん」
「納得できないかな?」
「すいません。僕、目に見えるものしか信じない男なので、魂の話とかわからないんです」
「まあ、とにかく、君と奈津実さんは親子という関係以外にも強い絆で結ばれているってことだよ」
「はあ・・・」
「いつか自分で噛み砕いて考えてみて。違うと思ったらそれでいいし、そうだと思ったらまたそれでよし」
山口さんは俺の顔をみてにこにこ笑っていた。
時々シガーの煙を燻らせ、カルバドスを啜りながら。
大人だな。
自分の意見を無理に強いることをしないし、この包み込むようなオーラは誰にだって出せるようなものではない。
奈津実が彼にひかれるのも無理ないと思った。
俺ってけっこう直感が鋭いかもしれない。
はじめて会った日に彼の笑顔を見ただけで感じた。
奈津実も同じく感じたのだろうと。
あの時俺と奈津実の糸電話の糸はきっとぴんと張っていたに違いない。
「素敵な人」って2人で感じていたんだろうな。
糸電話はこういうときにも活躍するもんなんだな。
だとすると、俺の好きになる女の子はきっと奈津実も好きだろう。
適当につきあう女の子は家に連れて行くのはやめよう。
本当に心から守りたいと思える好きな女の子が俺にできたら奈津実に会わせよう。
そして、試してみる。
糸電話の糸が張るかどうか。
もしかして、糸電話をもつ相手のことがソウルメイトっていうのかな。
魂がどうとかこうとかそういったことはわからないが、俺と奈津実は確かに糸電話を持っている。
すると、奈津実の顔が思い浮かんで、なぜか俺は急に奈津実が心配になってきた。
もしかしたら、何か足りないものを買ってきてほしいのかもしれないし、具合が悪くなって1人で家で寝ているのが心細くなっているかも・・・
帰る時に電話かメールをすべきか・・・いや、この時間だからぐっすり寝ているはずだ、と思ったときにヒロさんが俺に携帯電話を差し出して言った。
「カイくん、奈津実さんから」
山口さんが微笑んでいる。
「あ、はい。すいません」
俺は何だか決まりが悪いって顔で電話に出たが、やっぱり糸電話だってちょっと驚いた。
俺が奈津実を心配した途端に連絡があったからだ。
きっと奈津実も俺のことを考えていたに違いない。
「どうしたの?もしかして体調が悪くなった?」
「お仕事中ごめんなさい。唾を飲むのにストレスを感じるくらい喉が痛いの。本当に何も入らない。でも水分は摂らないといけないから喉に負担のかからないミネラルウォーターを買ってきてほしい」
「それならアルカリ飲料水がいいんじゃないの?」
「いいえ、それも痛くて飲めないわ。ミネラルウォーターでいいわ。お願いします」
「わかった」
俺は必要最小限の会話で終わらせヒロさんに携帯電話を返して「すみません」とまた言った。
「カイくんが携帯電話に出ないってわかっていたから僕んとこにかけてきたみたいです。奈津実さん寝込んでいるみたいで」と、ヒロさんが山口さんに説明した。
「奈津実さん、どうしたの?」と山口さん。
「はい、風邪と思いますが、喉にきちゃったみたいで」
「ああ、先週かなり無理していたみたいだものね。僕とも会ってくれなかった」
と山口さんは笑った。
「何をやっているんだかわかりませんが、遊びすぎですよね。これに懲りておとなしくしていてほしいもんです」
と俺も笑ったが、奈津実が少し心配だった。
扁桃腺が腫れるって体質じゃないし、喉の病気じゃないだろうな?なんて。
「カイくん、今日はもういいよ」とヒロさん。
「あ・・でも」と、俺が小さい声で言うと
「さて、葉巻も終わったし、僕は帰るよ。チェックして」と山口さん。
「はい、ありがとうございました」と、金額が書かれた紙を差し出すと、
「さあ一緒に帰ろう、カイくん」と山口さんはクロコの長財布から紙幣を出しながら言った。
俺が躊躇していると、山口さんは続けて言った。
「糸電話の糸がまたピンと張る前に帰ってあげなよ。心細いんだよ、奈津実さん」
ヒロさんもうなずいている。
「はい、ありがとうございます。ヒロさん、いつもすいません」俺は頭をぺこりと下げた。
奈津実、いい人を見つけたな。
でも残念だったね、山口さんはすでに伴侶がいる人だ。
でもそれでも突っ走るって奈津実は言っていたっけ。
山口さんとの恋は実らないだろう。
でも実らなくても花をつかせることはできるし、実る前の花のほうが美しくていいものかもしれない。
実になっちゃったらその後に花はもう咲かないからな。
好きにやればいいさ。
奈津実がそれでいいと思うなら俺は陰ながら応援するよ。
奈津実が幸せなのが俺はうれしいから。
そう思っていたら俺のジャケットのポケットに入った携帯電話がなった。
待ち受け画面を見ると奈津実からのメールだった。
慌ててメールを開けると
>ヒロさんに聞いたわ
>山口さんもご一緒なのね
>よろしく伝えておいてね
と短いメール。
俺はタクシー待ちをする山口さんに言った。
「山口さん、糸がまた張りました。母から山口さんによろしくってメールです」
「糸が張った?」
「はい、母が山口さんのことを考えているんだろうなって俺思っていたところなんです」
「ははは、君は勘がいいね。そして君の母君は気遣いが素晴らしい。僕に心配をかけさせないよう君の糸電話を通したね」
「はい、たぶん」
「いいなぁ、僕も奈津実さんと糸電話を持ちたいよ。いいかい?持っても」
「はい、ぜひ」と俺は言った。
きっと山口さんと奈津実は俺らと別の意味の糸電話を持つことができるだろう。
俺にはわかる。
2人の感性は違うけれどうまくブレンドされていいものが生まれそうだ。
タクシーがやっとつかまると、山口さんは俺に振り返り言った。
「では、明日奈津実さんにメールを入れさせてもらうよ。彼女の体調がよくなるまでメールを我慢するなんて僕にはできないから」
「はい、伝えておきます。おやすみなさい」と俺が言うと、山口さんが急に思い出したように言った。
「そうそう、君がカッコいいって褒めてくれたカフス、母君からいただいたプレゼントなんだ。ってことで・・じゃあ」
俺は山口さんの乗るタクシーを見送った。
世間では許されない恋であるにも関わらず、俺は奈津実と山口さんがうまくいくといいなと思っていた。
あのカフスが奈津実の贈り物と聞いてなおさらそう思った。
あれは山口さんがつけるからカッコいいわけで、もしも別の男性がつけたら違って見えただろう。
奈津実のセレクトもいいが、山口さんの醸し出すものも一役かっている。
2人の感性や雰囲気が混ざり合っているから相乗効果があってますますいいのだ。
感覚の合う男女ってそうそういないと思う。彼らなら大人の恋愛ができるはずだ。
未熟な俺には大人の恋愛なんてわからないけれど、何となくそう思った。
2人なら大丈夫って。
そっと見守りたい気持ちだった。
俺、奈津実の息子なのにへんだよな。
でも、きっと俺ら親子の糸電話が何か大切な役割を果たしているんだって思った。
お互いの幸せを願う俺ら。
糸電話は2人の見えない何かを引き出す大切なアイテムなんだって気づいた。
俺は見えないものは信じない男だ。
でも、見えるものだけで物事考えるのは何だか自分の見識を狭めるような気がしてきた。
糸電話、活用してみよう。
このアイテムに気づいたのなら。
THE END Written by 鈴乃@Akeming
【 糸電話 後記 】
みなさんは目に見えないものを信じますか?
それとも信じませんか?
わたしは信じます
わたしは去年自分がどんな役目を持って自分が生まれてきたのかわかりました
これは見えない力がわたしに力を貸してくれたから気づいたこと
心を研ぎ澄ませて自分を信じて愛すればいろいろなことがわかってくるようになります
糸電話もそう
この人と心が繋がっているんじゃないかって驚くことが時々あります
偶然って考えるより深く深く考えることが好きです