関東地方は、まだ梅雨入りしていないのに、グレーの空が続いていた。
週末となると天気が崩れ、週末のパーティーに着ていく予定のドレスはやむなく変更された。
グレーの空は、私の下降気味の気分をさらに加速をつけて下げていった。
ある月曜日。
週の始めだというのに、引き続き気分は最悪で、何もする気もおこらず、自分を否定し続け、家に篭っていた。
一日、底に近いくらい落ちてしまい、こんな日は、暗い部屋で膝小僧抱えて泣くしかない。
でも、大丈夫!きっと、朝になれば、気分は晴れるだろう。
だって、いつもそうだもの。
朝起きたら生まれたてのような新しい自分だから。
そう信じて眠りにつき、火曜日の朝を迎えたのに・・・
心はまだどんより曇っていた。
でも、寝室のカーテンを開けると、まぶしい朝!
私の心の空と反比例して、外の日差しはどんどん強くなってきた。
外を見ていたら、私の中の空の雲の合間から、ちらちらと光が入ってきた。
そうだ!海に行こう!
そう思ったら、ビキニを着ていた。
ハワイで買った、ブラウンのビキニの上に、タンクトップとジーンズで、海行きの電車に飛び乗った。
思い立って・・・
思い立って、海へ来てしまった・・・・
「そういえば、電車で移動中に、キッシーから電話の着信があったっけ」
キッシーこと、岸氏は、インテリゲンチャなボーイフレンド。
頭脳フル回転でいつも仕事をしている。
多忙な人だから、こうして私が波の音に癒されている今、都内でカリカリと仕事をしているに違いない。
すぐ折り返し連絡できればよかったのだけど、着信時間からかなり時間がたっている。
今電話しても留守番電話のアナウンスが流れるだろう。
私は、ビーチで寝そべり、「海に癒されに来ちゃった」とキッシーにメールを送る。
ノンキな私を「仕事は?さぼって大丈夫なの?」と非難するかしら、とちょっぴり心配したけれど、
すぐにきた返信は
「もっと早くわかっていたら、逗子まで迎えに行ったのに!
今日は、オフィスに出たら天気がいいし、サボりたくなって連絡したんだ。
この時間では、僕が海に着くころ、君は潮風に吹かれるのに飽き飽きしてしまう頃だろうから、こうしよう。
君は、予定通り、電車に乗って都心に向かって。
そして、品川あたりで途中下車してくれるかな」
意外だった。
一日中、カタイ打ち合わせばかりで、緊張の解けない時間を過ごしているはずなのに。
休日明けのタイトスケジュールから抜け出したくなったのかしら。
というわけで、思い立って来た海で、思いがけない誘いを受け、私は日が傾くだいぶ前にビーチを後にした。
キッシーとのドライブを楽しむために。
駅に向かう商店街のガラスに映る私は、髪の毛が乱れていた。
乱れているというか、潮風でべたついた髪の毛は、キッシーとの待ち合わせをちょっぴり憂鬱にさせた。
「今日は突然のお誘いだから、適当な格好だし、潮風で髪が乱れているの」
とるに足りない私のメールの、キッシーの返事はこんな・・・
「大丈夫。車の屋根を開ければ、どうせ髪は乱れるよ」
海の香りが残る私が降りた駅は、品川の少し手前の駅。
キッシーと駅前のロータリーで落ち合い、ちょっとしたドライブを楽しんだ。
キッシーの言う通り、オープンカーの助手席の私の髪はさらに乱れた。
信号で車が停まると、乱れた私の髪から潮の香りがほのかにする。
海の余韻は、まだ残っていて、私は自分に残るその小さな安心感みたいなものを維持したいと思った。
だから、少し日焼けした私を乗せたオープンカーが、品川近辺を走っているのがうれしかった。
品川は私にとって、都心でも海を近くに感じる街だから。
2年前、このあたりに住んでいたとき、窓から見える飛行機を見てなぜか海を思い出した。
羽田空港と海は何となく海で繋がっているような気がしたから。
首都高の「海岸線」という名前が、そう思えたのかもしれないし、私の中では、飛行機は海を渡る、というイメージなのだろう。
「どこに行くの?」とキッシーに聞くと、
「あそこにいこう。運河沿いのあのレストラン。前、君がこのあたりに住んでいた時、お食事に行ったよね」と、キッシー。
キッシー、ナイスアイデア!
あそこは、海を感じることができるお店。
2年前に、もっと都心に引っ越してからご無沙汰しているが、リピートしたくなるお店のひとつ。
キッシーは、私の考えていることが通じるボーイフレンドだ。
私の思いは、いつもキッシーに届いている。
不思議なことに、言葉は交わさなくても、私の考えていることを察することができるキッシー。
古い倉庫を改造したという、このレストランの天高は14m。
アメリカ西海岸のブルワリーレストラン(醸造所に併設されたレストラン)をモデルに作られた。
テラス席は開放感があって、私のお気に入りだった。
私たちが到着した時は、まだ日が傾き出したころ。
ディナーには、早い時間だった。
ディナータイムが始まるまで、バーのテラス席で、私はビールを飲みながら、お酒の飲めないキッシーはジンジャエールを飲みながら、二人できらめく運河の水面の輝きを見ていた。
「運河って海なの?それとも川?」
と、私が問うと
「運河は川と海をつなぐもの。だから海だと思うよ。塩水らしいからね」
と、キッシー。
運河を屋形船が通る。
のどかな日暮れ方だ。
穏やかな風が吹いている。
運河の輝く水の色がだんだん深くなってきた。
同時に、空の色も。
「いい時間帯に、ここに来たみたいね。空と水面の色がかわっていくのを見られるなんて」
「そうだね、今の時間がとてもいい。ここは、ゆったりとした時間を感じられる空間だね」
と、キッシーは目をつぶった。
私は、キッシーがリラックスしているのがわかった。
「めずらしいわよね。あなたがお仕事をさぼるなんて。
思い立って行った海で、思いがけずあなたからおサボりのお誘いを受けて、意外だったわ。
でも、あなたは、こうして時々息抜きしないと病気になっちゃうから、これからもおサボりのおつきあいするわよ」
「僕にとって、君と会えることが息抜きの時間かもしれない。君と会っていると時間がゆっくりになるんだ。
でも、現実に戻されると、またすごいスピードで時間が過ぎていく。
君と過ごしていると、まるで竜宮城にいるようだよ」
「私は乙姫さま?」
「ああ。君と別れて一晩寝て翌朝になると、また現実に引き戻される」
「まるで玉手箱を開けた浦島太郎みたいだわ」
と、私が笑うと、
「こちらの乙姫さまは、浦島太郎に玉手箱を持たせてくれるのかな?」
と、キッシー。
「うふふ、そうね、どんな玉手箱かしら。帰りにお渡しするわ」
テラス前の水上ラウンジでパーティーの準備に追われるスタッフたち。
運河の向こう岸の小さなグランドでサッカーの練習をしている子供たち。
静かに流れる時間。
私は、きらめく水面を見ながら、玉手箱の中身を考えていた。
THE END Written by 鈴乃@Akeming
【 思い立って&思いがけず(後編) 後記 】
お話に出てくるレストラン・・・
なつかしい
2年前に住んでいたところから車で5分のところにありまして
あるBFに連れてきてもらったのが最初
その後もAkemingのお気に入りのお店として、たくさんのBFを連れて行きました!
冬でもテラス席を希望したっけ
今回は、夜ごはんは姫と食べることになっていたところの思いがけずのお誘いだったので、
軽くお食事、ということで、あとはピッツァとお肉料理(これが軽いお食事?食べすぎ??)
夕方からのテラス席でのお食事って空の色がだんだんかわってくるので、なぜだかうれしくなっちゃってお酒がすすみます(笑)
飲むつもりはなかったのだけど~
白と赤、両方いっちゃいました!
この日は、朝まで凹んでいたのが信じられないくらい!
活動的!
だって、海行って、ドライブして、運河沿いのお店でご飯食べて・・・姫のご飯作って・・・
それだけで終わらなかったの
夜は、仲良しのお友達と約束していて・・・(アフロヘアのかわいこちゃんはダンサーです)
つらい時、それを乗り越えるために自分が努力すれば、神さまが楽しい時間を用意してくれるのかな
今まで何度もそういうことがあった
乗り越えるためのヘルプ?!
上の写真の私、凹んでいる人に見える?
いつの間にか、心の雲はすっかりなくなって、スッキリとした私でした
















