ヒマワリの花の季節ですね。
ヒマワリの花といえば、その中心部の「熟すと種になるひとつひとつのカタマリ(何と呼ぶのか知りませんが)」の並び方が独特であることに、多くの人は気づいていると思います。それは、中心部から外に向かって螺旋状の渦のようなものが、右巻きと左巻きに湧いて出て、いたるところで交差している、というものです。
Helianthus whorl - ヒマワリ - Wikipedia
人工物でそれに近い姿をしているものとしては、東京四谷の聖イグナチオ教会の天井があります。
「イグナチオ教会 天井」の検索結果 - Yahoo!検索(画像)
それで思い出すのですが、テレビの科学啓発番組や素人向けの科学啓発ウェブサイトで、しばしば出くわす話として、
①「フィボナッチ数列→ヒマワリの花の中にみられる螺旋の数(右回りの螺旋の本数と左回りの螺旋の本数がフィボナッチ数列の隣接2項の整数値になっている)」という話と
②「フィボナッチ数列→黄金比→等角螺旋→オウムガイ(あるいは巻貝一般)」という話とがあります。
黄金比をフィボナッチ数列から求めよう - デザインで人も企業も成長する|株式会社BOTAO
ひまわりに隠されたフィボナッチ数列と黄金比 – ひまわりは黄金の花? | 数学の面白いこと・役に立つことをまとめたサイト (analytics-notty.tech)
【色鉛筆画】フィボナッチ数列に基づいてヒマワリを描いたらやっぱり美しかった - YouTube
これらは通常、ひとまとまりの話として語られます。そのどちらにも「螺旋」が出てくるので、ざっと聞いたかぎりでは、同じ話の二側面と受け止められるのですが、よくよく考えてみると、ほんとに一貫性のある話なのか、疑問がわいてきます。
フィボナッチ数列とは、1、1、2、3、5、8、13、21、34、55、……という、先立つ2項の和が次の項になるという簡単な法則で生成される数列のことですが、その隣接2項間の比がかなり急速に一定値へと収束し、その収束先は黄金比と呼ばれる古来有名な数値、
すなわち、
(1+√5)/2 ≒1.618
であるということで、美的にも注目を引く数列です。
そのフィボナッチ数列の各項の値を一辺の長さとするような正方形を、ある手順にのっとって次々に(それまでの図に追加するしかたで)描き加えてゆくと、そこに興味深い螺旋が出現するという話は、比較的わかりやすい話なので、多くのサイトに図解入りの入門的な解説があります。先の「黄金比をフィボナッチ数列から求めよう」というサイトはそのひとつです。
そこに出現する螺旋が黄金比螺旋、すなわち、90度回転するごとに渦巻きの中心からの距離が黄金比倍、つまり約 1.618 倍に等比的に拡大してゆくような螺旋ですが、これは等角螺旋と呼ばれる一群の図形の一特殊例です。
そして、等角螺旋(別名「対数螺旋」)とは、その曲線と、渦巻きの中心から放射状に引いた半直線とのなす角がいたるところで一定値である螺旋のことで、その角の余角のことをその螺旋のピッチと言います。
黄金比螺旋は、等角螺旋の中の、ピッチが特定の値をとる特殊例にすぎませんので、等角螺旋の一般的な性質を論じるときに、それを黄金比から(さらにさかのぼればフィボナッチ数列から)演繹されて出てくる性質であるかのように言うのは、誤りです。
言い換えれば、自然界に等角螺旋をなす現象が多くみられるという法則性を、即、フィボナッチ数列の特質の顕現であるかのように言うのはおかしいということです。
だから仮に、ヒマワリの花の、中心から右巻きと左巻きに湧いて出る多くの渦のようなものがいたるところで交差している不思議な縞々模様の、縞ごとの曲線が完全に等角螺旋であったとしても、そのことからただちに、あの図形がフィボナッチ数列と必然的な結びつきをもつと断言する根拠にはなりません。
しかも、あの縞々のひとすじひとすじは、等角螺旋と似てはいても、よくよく眺めてみるとズレています。
誤差の範囲でズレているのではなく、本質的にズレています。
まず第一に「右巻き渦と左巻き渦が交差してできている個々の小さな菱形のようなものの、輻射方向の対角線と円周方向の対角線の長さの比」が、場所によって異なり、したがって曲線群は「ピッチが至る所で一定値をとる」という規則に従ってはおりませんし、さらに第二に、渦巻きの湧出の中心とみなせる場所は、花全体の同心円の中心と思われる場所に唯一個存在するのではなく、そこから微妙にズレた数か所にわたって存在しています。
ひまわりの種の並び方はフィボナッチ数列。数学ってすごい! |そそっかしい主婦きういのブログ (sakuramomo8787.com)
どうやら、通俗的科学啓発サイトにある①と②を一緒くたにした話は、本来系列の異なる二つの話を、中途を省略してくっつけ合わせたもののようです。それゆえに、全体として、「わかったようでわからない」話になっているのではないでしょうか。
(追記)
↓このサイトの説明はかなり専門的。これを勉強すればかなりのレベルまで謎が解けそう。ただし、わたしのオツムでわかるかな?
フィボナッチらせんの謎<解決編> (fbs-osaka-kondolabo.net)