発明のヒントは案外平易な情報の中にあるかも | MTFのAkemiのblog イタリア児童文学・皆既日食・足摺岬が好き

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私は、イタリア児童文学が大好きで、皆既日食も大好きで、足摺岬も大好きな、団塊の世代に属する元大学教員で、性別はMTFです。季節の話題、お買い物の話題、イタリア語の勉強のしかた、新しく見つけたイタリアの楽しい本の話題などを、気楽に書いていこうと思っています。

最近、とある切れ味のよいハサミをみつける機会があって、購入しました。

 

そのハサミというのは「プラス はさみ フィットカットカーブ スタンダード SC-175S」というもので、刃の形について「特許出願中」だそうです。その「形」とは「刃の根元から刃先までのどこで切るときにも刃の開きの角度が一定」という形だそうです。当の商品ではその角度を約30°に設定することで、最適な切れ味を実現しているのだそうです。

 

 

そのハサミの包装に書いてあった「ベルヌーイカーブ」という言葉を見たとき、わたしは「多分、あれだ!」と見当がつきました。以前にこのブログでかなり詳しく紹介したことのある「対数螺旋(別名:等角螺旋)」です。

 

 

等角螺旋とは、「その曲線が渦巻きの中心から引いた放射状の半直線と交わる角度が随所において一定になる」螺旋のことで、その角度を仮に15°とすると、ある等角螺旋と、それと合同で逆巻きの等角螺旋とを交わらせれば、交わる場所のいかんにかかわらず、交角はつねに30°になるはずです。当のハサミはこの原理を使っているに違いないと、見当がついたのです。

 

上の例で15°と述べた角度の余角のことをその等角螺旋の「ピッチ」と呼びますので、上の場合、ピッチは75°になります。

 

等角螺旋は、ピッチが10°ぐらいの場合には、螺旋の巻き方が密になる(1周目と2周目、2周目と3周目などのあいだの倍率が、3倍ぐらいに収まる)ため、一目で「巻いてるな」とわかる姿になります。巻き貝の貝殻の形は、その程度のピッチの等角螺旋でできています。しかし、上のブログの過去記事の中にリンクしてある「はまぐりの数学」というサイトを見ればわかるように、等角螺旋はピッチが大きくなるにつれて、1周目と2周目、2周目と3周目などのあいだの倍率がぐんぐん大きくなっていくため、ピッチが45°ぐらいになると、とても「巻いている」とは見えない姿になってきます。上のブログの中に書いてあるように、ピッチが45°の等角螺旋は周回の数が1周ふえるごとに前の周からの倍率が535.5になるので、この曲線が「巻いている曲線だ」と気づく人はほとんどいません。そしてこの、「一見、まったく巻いているとは見えない螺旋」の曲がりようを使って貝殻を作っているのがハマグリなどの二枚貝なのです。

 

わたしが今回みつけたハサミの場合は、ピッチが約75°だというのですから、その曲線を延長して1周めぐらせたときの倍率は天文学的な数値になるはずです。そのため、ハサミの刃のような、その形をもし直線でなく曲線にするといっても、わずかに「しなう」程度の曲がり方の範囲に収めなければならない道具に、「螺旋」を応用できるとは、だれも今まで気づかなかったのですね。わたしも気づきませんでした。

 

でも、幸いにして、前もって等角螺旋のことを勉強していたおかげで、「ベルヌーイカーブ」を応用したのだと書いてあるのを見てすぐに「あれだ!」と気づいたわけです。

 

言われてみれば「コロンブスの卵」のような話です。文科系人間のあいだでは、少し趣味的にこの分野を勉強した者でないと知らない知識ですが、理工系の人ならほとんど常識として知っているでしょうし、生物系の人でも貝類について多少関心のある人なら知っている知識です。等角螺旋がこの性質をもっていること自体はすでに300年以上前から解明されていたことなのですから!

 

それなのに、その原理をハサミに応用することについて、300年間だれも気づかなかったとは、まさに「コロンブスの卵」ですね。この発明を知って「なんだ、そんな初歩的な原理に基づく発明なら、バカでもできる!」などと評するのは、恥ずべき負け惜しみです。むしろ、「なるほど。発明のヒントは案外平易な情報の中にあるかもしれないんだね」と言って、教訓とし、自戒とし、励みにもするのが、あるべき態度です。