製品化が視野に入り始めた「完全な三次元映画」 | MTFのAkemiのblog イタリア児童文学・皆既日食・足摺岬が好き

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私は、イタリア児童文学が大好きで、皆既日食も大好きで、足摺岬も大好きな、団塊の世代に属する元大学教員で、性別はMTFです。季節の話題、お買い物の話題、イタリア語の勉強のしかた、新しく見つけたイタリアの楽しい本の話題などを、気楽に書いていこうと思っています。

最近、新宿駅東口駅前で、つぎのように報道されている3D映像の実物を鑑賞する機会がありました。

 

(以下引用)

クロススペースからの委託で、マイクロアドデジタルサイネージ、ユニカが共同運営する『クロス新宿ビジョン』が7月1日からプレ放映をスタートしました。グランドオープンは7月12日。

場所は新宿区新宿3-23-18 クロス新宿ビル屋上で、大きさは150平方m。4K相当画質の大型街頭ビジョンです。湾曲したフォルムを活用した3D映像が放映可能。3D映像のデモンストレーションとして、通常放映の合間に3Dの巨大三毛猫が登場します。

(引用終わり)

新宿に巨大な3D「三毛猫」現れる Giant 3-D calico cat prowls the Shinjuku skyline in front of station - YouTube

 

 

わたしは昔から3D映像に関心があったため、この三毛猫の姿を五分ほど眺めていて、「たぶんこれの機構はこうなっているはずだ」と了解できました。40年近く前、大越孝敬著『三次元画像工学』(朝倉書店)

を読んで、わたしが理解したかぎりでの知識からの推測です。

 

その知識によると、つぎのようにすることで、二次元のスクリーン上に並べた画素からなる画像であるのに、その画面より飛び出た位置や、ひっこんだ位置にわたって自在に変化する奥行きをもった三次元物体がそこに存在しているかのように感じさせる(錯覚させる)ことができます。

 

その機構は、画素が二段階的に構成されるものです。

 

まず第一次的画素として、ヒトや哺乳類の眼球に類似した小物体をスクリーンにくまなく並べます。その物体の前面が凸レンズ状をなしていることによって固有の焦点距離というものが存在しますが、レンズ面からちょうどその焦点距離だけ奥へ進んだ場所がこの小物体の後面をなしていて、網膜に相当する形状をしています。その場所は光が裏へ突き抜けないように不透明にしてあります。このような物体は〔注〕、瞳孔状をなしている前面に向かって外から光を当てると、どの方向から光を当てた場合でも、もと来た方向にいちばん強く光を反射するという「再帰性反射(retroreflexion)」の性質をもっています。そのことは、夜間にライトを使って照らしながら動物の姿を撮影すると、どの方向から撮影しても眼球のところが強く光って見えることによってもわかります。

 

このような眼球状の物体は、もし、外から光を当てるのではなく、網膜のところに点光源を置いてそれをレンズの前面から観察すると、点光源の置かれた場所ごとに、そこから出た光が平行光線となって突き進んでくる固有の方向というものを持っており、ドンピシャリとその方向から観察した場合、その点光源からの光が瞳孔状のレンズいっぱいに広がって強く光って見えます。そこで、網膜上の位置に応じてさまざまな強さと色彩をもった点光源が分布している状態を作ったうえで、レンズの前面からこれを観察すると、観察する角度ごとに異なる強さと色彩をもった光が観測者の目に飛び込んでくることになります。この、網膜上の一幅の絵を構成する点光源のひとつひとつが、第二次的な画素となります。

 

つまり、眼球状の第一次画素のひとつひとつについて、その裏に、さらにはるかに小さい第二次画素で構成された、デジカメ写真像のような一幅の絵が存在し、眼球ごとにその「絵」が少しずつ異なる姿になっているのです。その全体をスクリーンの前面から観察することにより、ヒトの両眼視差に訴える3D画像が得られます(両眼視差に訴えるだけではなく、鑑賞者が頭の位置を移動させれば、その移動に対応した見え方の変化も忠実に再現してくれます)。そして、そのデジカメ写真像(第一次画素の個数だけ異なるものが存在する)を映画のように時間に沿って変化させることで、全体は3Dの動画になる、ということです。

 

このような機構を用いれば、バーチャルな三次元物体を、観測者の視点から見て、スクリーンより飛び出た位置や、ひっこんだ位置にわたって自在に変化する奥行きをもった三次元物体として見せることができます。無限遠点に存在するように見せることも可能です。

 

このようにして、たとえば「窓に揺れてるレースのカーテンの向こう/夕陽が溶けてく海をみつめる……」といったロマンチックな光景を、

 

 

まさに歌詞のとおりに、「眼前1メートルあたりにカーテンがあって、窓の向こう二~三十メートルから先に引きも切らずに波の打ち寄せる海があり、それがずっと遠くまで続いていて、その果ての無限遠とも思えるほどの彼方に夕陽がある」といったふうに、ありありと見せることが可能となります。

 

わたしが最初にこのような「三次元画像工学」の原理を理解したころ(1980年代)は、この機構を構成する画素の数の膨大さゆえに、これを現実の工業製品として実現することなど、夢のまた夢でした。たとえばスクリーンに並べられるべき眼球状の第一次画素の数が100万(10の6乗)ほど、その各々について裏に用意されるべき小さなデジカメ映像の画素も各100万(10の6乗)ほどとすると、第二次画素は1兆個(10の12乗個)ぐらい用意しなければならないことになり、それを映画のように動かすなど、とても考えられることではありませんでした。でも、少なくとも、あの新宿の三毛猫程度の粗さでよければ、すでに動く三次元映像は実現できるようになっているのですから、もう、「窓に揺れてるレースのカーテンの向こう/夕陽が溶けてく海をみつめる」を歌詞どおりに実現する3D映画は、製品化が時間の問題になってきていると思います。

 

わたくしのような凡人が馬齢を重ねることにも、意義をみいだせる、楽しい話です。

 

なお、再帰性反射については、以下の過去記事もご参照いただけると幸いです。

 

 

 

 

〔注〕ただし、そのあとに書いてある「再帰性反射」が起こるためには、網膜状の物質が不透明であるだけでは不十分で、光を反射する性質を持っていることが必要です。ヒトの目の網膜の場合、来た光をほとんど吸収してしまう性質をもっているため、それとわかるほどの再帰性反射は起こしません。再帰性反射がはっきり観察されるのは、網膜の裏に鏡状のタペタム(輝板)をもつ一部の動物の場合に限られるそうです。

猫の目が暗闇で光る理由は?~タペタム(輝板)の構造と機能・完全ガイド | 子猫のへや (konekono-heya.com)