去年の夏、拙著『夢をあきらめないで――68歳で性別適合手術』の著者校正を終えて、残るはカバーのデザインだけになったときのこと。出版社から「どんなデザインにしましょうか」との相談がありました。「社内では『このイラストレーターにでもお願いしてみたら』という意見が出ているのですが」として、添付ファイルで送られてきた画像をみて、わたしは「これはどうもなあ……」と、閉口してしまいました。
提案した人は本の内容はまだ読んでおらず、テーマとタイトルと概要だけを聞いて、意見を言ったのだそうですが、推奨されてきたイラストというのは、「仮面の裏に潜む真のわたし」とか、「性別二元論の抑圧的構造を告発する」とか、「演技を通じて日常性を逆照射する」とかいった言葉が今にも喉から出てきそうな、エグいイラスト。推奨した人自身が、トランスジェンダーMTFというものを、ドラァグ・クイーンの写真でもみた時の印象から、イメージしているんではないかと思えるものでした。
出版後に、社内で拙著の読書会を開いてくれたとかいうので、その人も、内容を読んだあとにはたぶん、ああ、自分の思い描いていたイメージとは違うと、納得してくれたでしょうけれども、世の中に流布しているステレオタイプというのは、困ったものです。
結局、わたしと話し合った結果、内容を読んでいる編集部の人が決めてくれたカバーのイラストは、できあがった本をみていただけばわかる通りの、ごくあっさりした、普通の女性のシルエットを図案化したものに落ち着きました。
夢をあきらめないで 68歳で性別適合手術 | 三土 明笑 |本 | 通販 | Amazon
ちゃんと相談したうえでデザインを決めてもらってよかったです。もしそうでなかったなら……。