アッシジの聖フランチェスコが、まだイタリアの文章語はラテン語のみだった1200年前後(ダンテに先立つこと100年)に、当時のウンブリア方言の口語で「Cantico delle Creature(被造物の賛歌)」という詩を書き、それによって「イタリア文学の先駆者」と讃えられていることは、このごろでは比較的多くの人に知られています。近年、ローマ教皇の回勅に、「回勅の題名と本文はラテン語」という伝統を破って、「被造物の賛歌」からとられた「Laudato Si'」という題がつけられ、日本語訳も「ラウダ-ト・シ」となっていることは、カトリック教徒ならばよく知っています。
この「被造物の賛歌」の原文は、西本晃二著『新講・現代のイタリヤ語』(三省堂、1977年)
の第27章に載せられていますが、なるほど、古風な語形や言い回しを含んではいるものの、ラテン語とは一線を画したまぎれもない「イタリア語」であることがわかり、現代イタリア語の学習書で学んでいるわれわれでも、多少の解説を補ってもらいさえすれば、さほどの困難はなく理解できるものになっています。
ところで、この、「古風なイタリア語」の詩を平易な現代イタリア語へと置き換え、冗句を少し削ってスリムにし、一番から七番で構成される歌曲に編成し直し、どの番も同じメロディーに載せて歌えるように音節数の調整をほどこしたものが、You Tube 動画になっていることを、昨日初めて知りました。
以下にその歌詞を書き写し、私訳を添えておきましょう。
Cantico delle Creature
di Angelo Branduardi
A te solo Buon Signore
Si confanno gloria e onore
A Te ogni laude et benedizione
A Te solo si confanno
Che' l'altissimo Tu sei
E null'omo degno e'
Te mentovare
Si laudato Mio Signore
Con le Tue creature
Specialmente Frate Sole
E la sua luce
Tu ci illumini di lui
Che e' bellezza e splendore
Di Te Altissimo Signore
Porta il segno
Si laudato Mio Signore
Per sorelle Luna e Stelle
Che Tu in cielo le hai formate
Chiare e belle
Si laudato per Frate Vento
Aria, nuvole e maltempo
Che alle Tue creature
dan sostentamento
Si laudato Mio Signore
Per sorella nostra Acqua
Ella e' casta, molto utile
E preziosa
Si laudato per Frate Foco
Che ci illumina la notte
Ed e' bello, giocondo
E robusto e forte
Si laudato Mio Signore
Per la nostra Madre Terra
Ella e' che ci sostenta
E ci governa
Si laudato Mio Signore
Vari frutti lei produce
Molti fiori coloriti
E verde l'erba
Si laudato per coloro
Che perdonano per il Tuo amore
Sopportando infermita'
E tribolazione
E beati sian coloro
Che cammineranno in pace
Che da Te Buon Signore
Avran corona
Si laudato Mio Signore
Per la Morte Corporale
Che' da lei nessun che vive
Puo' scappare
E beati saran quelli
nella Tua volonta'
che Sorella Morte
non gli fara' male
被造物の賛歌
アンジェロ・ブランドゥアルディ
善き主よ あなたにだけ
栄光も名誉も
あらゆる賛美も祝福も ふさわしい
あなたにだけふさわしい
なぜなら あなたはいと高き者であり
なんぴともあなたの名を挙げるに値しないから
わが主よ 讃えられよ
あなたのお創りになったものらとともに
とりわけ兄弟なる太陽と
その光とともに
あなたはそれによってわれらを照らす
いと高き主なるあなたの
美と輝きである太陽
それがあなたの徴をもたらす
わが主よ 讃えられよ
姉妹なる月と星のゆえに
あなたはそれらを明るく美しく
天に形作られたから
わが主よ 讃えられよ 兄弟なる風のゆえに
空気と雲と さらには険しい天候のゆえにも
それらがあなたのお創りになったものらを
支え養うがゆえに
わが主よ 讃えられよ
われらの姉妹なる水のゆえに
それは慎ましくしくありながら 益するところ多く
貴重であるがゆえに
わが主よ 讃えられよ 兄弟なる火のゆえに
それは夜を照らし
美しく 陽気で
逞しく 力あるがゆえに
わが主よ 讃えられよ
われらの母なる大地のゆえに
それはわれらを支え
養うがゆえに
わが主よ 讃えられよ
大地が生み出すさまざまな果実と
色とりどりの花と
緑の草のゆえに
わが主よ 讃えられよ
あなたを愛すればこそ
病をも苦しみをも忍び
他者を赦す者たちのゆえに
そして祝福されよ
平和のうちに歩む者らは
かれらは善き主であるあなたから
冠を授かるであろうから
わが主よ 讃えられよ
肉体の死のゆえに
なぜなら 生きとし生けるものはすべて
それから逃れられないがゆえに
そして祝福されよ
あなたのみ旨により
姉妹なる死が
何らの害をも与えない者たちは
(追記:このカンツォーネのメロディー構成について)
歌詞は14の連からなっていますが、2連ごとをまとめて「1番、2番、……」と呼ぶことにします。すると全体は1番から7番までとなります。1番と2番を歌っているメロディーと、3番と4番を歌っているメロディーは、似ているようで少し違います。前者をA、後者をBとすると、この曲の全体は「A、A、B、B、A、B、B」というメロディー構成で歌われています。歌詞の冒頭をインデントなしにしてある連はメロディーAで歌われており、インデントをつけてある連はメロディーBで歌われています。