昨日の新聞で  詩人新川和江さんの訃報を知りました



ずっと好きだった詩があります

書きうつしながら

ご冥福をお祈りしたいと思います





わたしを束ねないで



わたしを束ねないで

あらせいとうの花のように

白い葱のように

束ねないでください   私は稲穂

秋   大地が胸を焦がす

見渡すかぎりの金色の稲穂



わたしを止めないで

標本箱の昆虫のように

高原からきた絵葉書のように

止めないでください   わたしは羽撃き

こやみなく空のひろさをかいさぐっている

目には見えないつばさの音



わたしを注がないで

日常性に薄められた牛乳のように

ぬるい酒のように

注がないでください   わたしは海

夜   とほうもなく満ちてくる

苦い潮   ふちのない水



わたしを名付けないで

娘という名   妻という名

重々しい母という名でしつらえた座に

坐りきりにさせないでください   わたしは風

りんごの木と

泉のありかを知っている風



わたしを区切らないで

,  や  ・   いくつかの段落

そしておしまいに「さようなら」があったりする手紙のようには

こまめにけりをつけないでください   私は終わりのない文章

川と同じに

はてしなく流れていく   拡がっていく

一行の詩






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初めてこの詩に出会ったのは

息子が中3の時でした

高校受験の国語の試験問題に出されてしたのです

帰宅するなり

「この詩が」

と教えてくれました

何を思ったのでしょう



以来私は

子育てや仕事に行き詰まると  心のなかで

タイトルだけを呟きました



それは

応援であったり…

自戒であったり…




「わたしを束ねないで」




すてきな言葉です