またまた雨降りです
気持ちよく散歩できる日が待ち遠しいです
そのときには 桜の蕾はぷくぷく いや 一花はほころんでいるのでしょうか
夏川草介・著
小学館文庫
2月に夏川氏の『スピノザの診療室』を読んで以来 ずっと読みたいと思ってきた1冊です
舞台は 松本市
主人公の栗原一止は その町にある本庄病院の内科医です
話は救急外来の夜の凄まじい忙しさから始まります
徹夜での仕事を終えたら 入院患者を診て回り 外来患者の診察に入ります
かなりきつい仕事ですが 栗原はこの病院での仕事を 自分の信念でやり抜いています
ただ信念とはいえ 栗原には信農大学医学部の医局から 常に誘いの声がかかります
医局と町の病院の患者に対する考え方はまるきり違います
町の古い旅館をアパートにした『御嶽荘』に住む栗原は 気の合う住人「学士号」(本名は?)にお酒を飲みながら言われます
栗原をドクトルと呼びます
「ドクトル、私には医局制度の難しいことはよくわかりません。でもこの五年間で多くの多くの患者さんたちと大切な関係を築いてきたのでしょう。そういうものを捨てていくほどの価値が、あの白い巨塔にあるのですか?」
悩む栗原が担当する患者がとうとう亡くなったとき その老人の家族のなかの一人の少年が射貫くような眼で自分を見つめているのに気づきます
お前はなにもしてくれなかったじゃないか
その言葉は 時々忘れたころに自分のもとにやってきては、自分の自信に鉈(なた)を打ち込み、足元を震わせ、感傷という名のなんの建設性もない物思いに時分を引きずり込む。
と書かれています
悲しむのは苦手だ。
とも
そんな折
大学病院で見放された 安曇さんという女性が どうしても本庄病院の栗原に最期まで診てほしいと入院してきます
穏やかな人柄の女性です
周りを温かくする女性です
栗原は 安曇さんの治療に懸命にあたります
でも もう一ヶ月生きることができるかどうかという時
安曇さんの最後の願いを叶えようと決断します
山が見たいという安曇さんを病院の屋上に連れていきます
快晴のなか 安曇野の向こうに連なる北アルプスが、乗鞍、常念、爺ヶ岳、鹿島槍といった名峰がことごとく稜線をあらわしています
おまけに もはや経口は無理な安曇さんが食べたいと言っていた文明堂のカステラを一口…
ご主人との出会いの時に買った赤い毛糸の帽子を被った安曇さん
幸せそうな笑顔が見えます
とうとうその後亡くなるのですが 栗原の心は 何も成せなかったという悲しみより
安曇さんという人を失った悲しみに沈んでいったことでしょう
その夜 栗原は 松本城を歩きます
寒い夜です
凍りつく空気のなか 当地には珍しい雪もちらほら…
でも 傍らには 妻の榛名、ハルちゃんがいます
写真家のハルちゃんは 夜の松本城の月を撮るのが好きです
彼女は栗原の気持ちを十分理解している佳き伴侶です
そのハルちゃんを隣に 栗原は思います
長い人生だ。いずれまた道を見失い戸惑う時も来るであろう。右往左往して駆け回り、瑣事(さじ)にとらわれて懊悩することもあるであろう。そんな時こそ、私は声を張り上げてさけぶのである。
立ち止まり、胸を張って槌を振り上げよ!
足下の土に無心で鑿(のみ)をくわえよ!
慌てずともよい。
答えはいつもそこにある。
一止という名前
一度止まる
だったのですね
凍てついた信州の地に 春が来そうです🌸
文章は 夏川氏が 夏目漱石が好きということで リズムが漱石風になることが多々ありました
『草枕』の一節が何度か登場しました
『神様のカルテ 2』もあるようです
夏川氏の本を読みながら 終末期医療や老後のことについて ふと考えました
栗原のような医師に出会えたらいいなあと思ったりもしました
まとまらない読書記録を最後まで読んでくださり 感謝しています
いろいろな角度からの読み方があることでしょう
これで精一杯の記録です![おねがい](https://stat100.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char3/005.png)
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ミニシクラメン
たくさん咲きました
行儀よく並んで咲きました
菜種梅雨花々の塵洗うよに
アマンバ
花は季語では桜
花々なら オッケーなのでしょうか