上天気です

鳥の声もいちだんと晴れやかです






                               夏川草介・著
                               水鈴社
            




                        
                            (  裏表紙の絵)





帯から引きます

雄町哲郎は京都の町中の地域病院で働く内科医である。
三十代の後半に差し掛かろうとした頃、最愛の妹が若くしてこの世を去り、一人残された甥の龍之介と暮らすためにその職を得たが、かつては大学病院で数々の難手術を成功させ、将来を嘱望された凄腕医師だった。




哲郎は  マチ先生と呼ばれています
彼は   スピノザの哲学を学んでいて  治療の根本  というか  人生観の根本に置いて生きているようです




スピノザについての文を抜いてみます




「スピノザは不思議な人物でしてね。…(略)…結局、哲学の表舞台に出ることはありませんでしたが、亡くなる直前まで執筆は続いていたようです。民家の片隅で、レンズ磨きの仕事をしながらね



「スピノザの磨いたレンズは、曇りひとつかない見事なものだってそうです」




マチ先生もそうだと  大学病院から来た葛城という教授は  甥の龍之介に話します





マチ先生に診てもらう患者や家族はみな先生の治療だけでなく  含蓄あるひと言に感謝します
医療と哲学を大切にしながらの  先生の活躍ぶりは  心温まるものでいっぱいです




最後になり  ようやく  先生の根本にある考えが書かれています




それは  自分の妹が余命を知りながら  最後まで輝き続けていたことや彼女の死を通して  医療を越えた人の生き方を身を持って知ったことにあります




マチ先生は最後で大学病院から来た南という助手に話します


(抜粋)

「人間はどうしようもなく儚い生き物で、世界はどこまでも無慈悲で冷酷だと妹の死から学んだけれど、  無力感にとらわれてはいけない
世界にはどうにもならないことが山のようにあふれているけれど、それでもできることはあるんだ
人は無力な存在だから、互いに手を取り合えば  少しだけ景色は変わる。
真っ暗闇の中のつかの間、小さな明かりがともるんだ
その明かりは、きっと同じように暗闇で震えている誰かを勇気づけてくれる。
そんな風にして生み出されたささやかな勇気と安心のことを、人は『幸せ』と呼ぶんじゃないだろうか」




自分たち医療者は  



『暗闇で凍える隣人に、外套をかけてあげることなんだよ』




文中で出会った何人かの病気をしている人や家族への  マチ先生の言葉の深さをしみじみ感じたひと言です




「すべてが決まっているのなら、努力なんて意味がないはずなのに、彼は言うんだ。“だからこそ“努力が必要だと」



彼とはスピノザのことです



静かな勇気をくれる一冊でした



マチ先生は
「疲れたときは甘いものを食べるんだ」
そう言って
しょっちゅう京都の美味しい和菓子を食べています
矢来餅   長五郎餅   小丸松露   焼栗の金平糖   ……



また
格好いい!!
と思う人に出会いました



亡くなる前に
「おおきに  先生」なんて言われるくらいなのですから……




まとまらない読書記録を読んでくださり最後までありがとうございます





私事です



夏川草介氏は 2010年に『神様のカルテ』で本屋大賞2位でした
私はまだこの頃   夫を見送って5年くらいだったので  医療関係の本を読めませんでした
特に 癌について書かれた本は




今回  あるブロガーさんの紹介があり 本屋で何度か立ち読みをしてから  読みました
最後まで読めてよかったです




もう17年も経った日々のことを思い出しています



担当医とは8年余の付き合いでした
その凛々しい顔を思い出しながら  滅多に私情を口にされなかった医師の言葉や仕草を思い出したのです




「奥さん  本当に強くなったね」




「付き添いの家族にさせてはいけない!」

これは看護師への言葉

夜中ずっと点滴を外そうとする夫の手を精一杯の力で押さえていた翌朝のことです



外来診察があるなか  病院を去るときに  私の車が見えなくなるまで  ずっとお辞儀をしていてくださったことです




マチ先生に出会え  無口だけど温かかった医師を思い出せてよかったです





道端の蓬の柔き白眩し
                            アマンバ







ヒヤシンス
いい香りです
和みます😌