10年近く前に書いた童話です
もし 興味を持っていただけたなら 読んでくださいね
ケケケのケ
ぼく、アマガエルの子ども。
ニンゲンたちは、ぼくを見つけると、
「わぁー、かわいい!」と言う。それは、アカガエルやトノサマガエルより体が小さいうえに、若葉みたいにきれいな黄緑色をしているからだ。
でも、声は正直言って、好きじゃない。だって、『かえるのうた』の、ケロケロとかクワックワッは、かえるらしい。ムォームォー。太くて低いウシガエルの声なんて、かっこいい。あこがれてしまう。ぼくなんて、ケケケだもん、かっこわるいよなあ。
あっ、この家のおばあさんが、ピーマンを植えたプランターをかかえて近づいてくる。あのアジサイの葉っぱのかげにかくれよっ。
おばあさん、何か言ってる……。
「やっと白い花がさいたわ。日あたりのいいところに置いてあげないと」。
ママとおばあさんのところへ遊びにきていた小さな女の子が言ってた。
「あたし、ピーマンたべれるようになった」。
そうか。だから育てはじめたんだ。
両手を大きく開いて、ゆっくり運んでくる。
あっ
おばあさんが、たおれた!
思わず出たぼくの声は、
「ケケケ」
だった。
「あれ、だれか 笑った?」
キョロキョロしているおばあさん。
…ごめん、おばあさん。ぼく、笑ってないよ。「だいじょうぶ?」って聞いているつもりなんだ…
おばあさんは
「へへへ」
てれ笑いしながら、ゆっくり立ち上がった。そうして、ピーマンがぶじか、たしかめた。
「ああー、よかった。1本も折れてない」。
ぼくもほっとした。おばあさんもピーマンもけがなしで。
でもこのときから、人の失敗を笑っているような、自分の声がもっといやになった。もう雨ふり前になったって、鳴くもんか。
いいお天気つづきが応援してくれる。
ピーマンが、緑色の小さな実をつけ始めた。毎日お天気がつづくので、夕方になると、おばあさんは、庭いっぱいの花に水やりを始める。
「今日も1日、上天気だったわ。あれ、ピーマン、かわいい。アマガエルかと思った」。
びくっ。
今、ぼくが住んでいる、1本のアジサイの木の近くに置いたプランターを見て笑っている。
ちょっとうれしくて、「ケケケ」と鳴きそうになるのを、ぐっとこらえ、アジサイの葉っぱのなかで思った。
(ここでケロケロと鳴けたらいいのにな)
ホースの水が、だんだん近づいてくる。
(おばあさん、お願いだから、こっちはやめてね)
だって、水しぶきがかかったら、きっとぼく、がまんできずに鳴いてしまうもの。
「あっ、よかった。とまった」。
おばあさんがアジサイの木に寄ってきた。
「今年は、いくつ咲くかしら。1つ、2つ、3つ、……。あら、6つも!」
すっごくうれしそうだ。
「まだ、こちらにもあるかも」。
そう言って、ホースをかた手に水やりをしながら、葉っぱを1枚1枚よけていく。
ぼくは、気持ちよい水をせなかにあびて、ついに鳴いてしまった。
「ケケケ」。
おばあさんは、くすっと笑った。
「見いつけた。アマガエル!」
かくれんぼみたい。ぼくは今度は楽しくなって、さっきより高い声で
「ケケケケ」
と鳴いた。
「あっら、いい声。あしたは雨かしら。きっとアジサイがよろこんで、いい色になるわ」。
ぼくは、自信たっぷりにまた鳴いた。
「ケケケケケ」。
ずっとここにいたいな。
アジサイの花が咲く梅雨が来て、おばあさんがあんまり庭に出られなくなっていら、「ケケケ」って鳴こう。いっしょに笑ってくれるといいな。
ーおわりー
おしまいまで読んでくださり ありがとうございます