とある日の事です。


梅さんが台拭きで包丁を拭いていました。


「そんなので拭かないでよ」

驚き顔の娘さんに。


「今更、なに言ってるの。ずっとこれで拭いてるじゃない」

と、梅さんは平然と答えていました。


以前(かなり前)『台拭きは清潔では無いので食器類は拭かないで欲しい』と娘さんが頼んで一時は止めていたのですが、再発した様です。


止めていた事はキレイに忘れている様です。


どうやら、洗ったフライパンや鍋も台拭きで拭いているそうです。


梅さんは台拭きが大好きなのです。


食事中などは、握りしめる様にして片時も手放しません。


そして、調理中の飛びはねを(油も)拭き、食卓の食べこぼしを拭き、指先を拭き、口の周りまで拭いています。


「口の周りを拭くのはやめた方が良いよ」

と娘さんが何度も言いますが、全く聞く耳を持ちません。


ならば、と。


布巾を新しい物に変えると「まだ、使える」からと、使い古しを使い続けます。


つまり。


梅さんの愛して止まない台拭きは、娘さんからすれば決して口の周りを拭く気にはなれない代物なのです。


また、一方で。


梅さんは台所除菌アルコールも大好きです。


しょっちゅうシュシュしています。


勿論。


大事な台拭きにも、シュシュしています。


が。


どこまで除菌出来ているのか不安なものがあります。

現に臭いが取れていません。


が。


梅さんは臭いが全く気にならないらしいのです。


娘さんには素朴な疑問があります。


はて?


梅さんはバイ菌を意識しているのかいないのか?


愛して止まない台拭きにはバイ菌が居ないと信じる根拠は何処に?

除菌アルコールを信じすぎでは?


『理解しがたい』


しかし。


突き詰めても《糠に釘》なのは明らかです。


『お腹も壊して無いし』

『見なかった事にしよう』

『台拭き、漂白しようかなぁ』


《忍耐》

《忍耐》


梅さんの背中をボンヤリ見つめならが、念仏の様な自分に言い聞かせる娘さんでした。


トホホ。