とある日の事です。
娘さんが仕事から帰ると部屋中にこげた煮物の臭いがしていました。
「お昼、なに食べたの?」
娘さんがお弁当箱を流し台に出したながら、梅さんに聞きました。
流しの生ゴミの中には煮物にいれたと思しき野菜の皮や切れ端が入っていました。
煮物が焦げたのでしょうか。
煮物その物は捨てられていなかったので、食べたのでしょう。
「何が臭いの?」
「お昼は冷蔵庫の残り物食べたよ」
「煮炊きはして無いよ」
梅さんが動揺気味に答えます。
娘さんが野菜の皮が捨ててあると言うと。
「じゃ、何か作ったんじゃない」
まるで他人事の様な返事をします。
そして。
「何を食べようと良いでしょ」
と、切れ込みに言い出します。
論点がずれて来てます。
「焦げ付きには気をつけてね」
と、言いながら娘さんが乾物などを入れている戸棚を開けると。
開封された生麺の焼きそば3個入り(要冷蔵)の2個がスパゲッティの横に鎮座していました。
「何でこんな所に生麺入れたの?」
娘さんがキツメに聞きました。
「えっ?知らないわよ」
「あんたが入れたんでしょ」
「私は食べて無いわよ」
矢継ぎ早に、梅さんの言い訳が始まりました。
「ひとつ減ってますよ。食べた人がここに入れたんでしょうね」
「この家に居るのは私とお母さんの二人だけですよね」
「私は、食べてません」
「食べていたら、こんな質問はしないです」
娘さんの理詰めの質問に、梅さんはキョトン顔になっていました。
焼きそばの存在を覚えていない様です。そして、食べた事も。
正に「知らない」「わからない」様です。
記憶力の低下がかなり悪化して来ています。
背筋に何か冷たい物を感じる娘さんでした。
トホホ。
後日談として。
娘さんは焼きそばを梅さんに気付かれ無い様に処分しました。
が。
梅さんから焼きそばの行方をたずねられる事はありませんでした。
多分。
忘れたのでしょう。