『気を付けてね』


毎朝、仕事に行く私の後ろで母の声がする。


この優しい言葉が嫌味にしか聞こえない。


母、以外の人から言われたら「ありがとうございます」と即答しているのに。


《話の尺度は聞く人にある》


この言葉を耳にしたのは15年程前です。


その頃、駅のお土産物屋さんでバイトをしていました。


「話の尺度ってな。話す人や無くて話を聞く人にあるねんで」


店長さん(55才女性)がなんの脈略も無く唐突に、さも得意げに言って来ました。


《この人。東北生まれなのに、なぜか大きな声で関西弁を話し『なんでやねん』と『アホちゃうか』が口癖の人でした。》


何故、この様な話をするのかと不思議に思っていると。

隣のお店の人が教えてくれました。


この前日の閉店後。

店長さんは、駅ビルの管理職の人に関西弁を注意されていたそうです。


『ここは関西では無い。観光客の玄関口である駅で関西弁は止めて欲しい』と言った様な事を言われていたそうです。

そして「《話の尺度は聞く人にある》のですよ」とその駅ビルの管理職の人が言っていたそうです。


なるほど。


受け売りだったのです。


しかし。


店長さんは関西弁を止めませんでした。


《話の尺度は聞く人にある》


管理職さんのお小言は店長さんには伝わらなかった様です。

伝わらない時は伝わらないのです。


周りの誰もが店長さんの関西弁に違和感を感じていました。

しかし、そこは大人。

《触らぬ神に祟りなし》で、過ごしていました。


この店長さんは駅ビルから他店に移動になったと、風の噂で聞きました。

関西弁全開で、今も元気に働いているのでしょうか。



素直になりきれずジレンマの渦の中で出口を探す。


今日この頃です。