毎週火曜日の午後三時。
私は必ず東急ストアへ行く。
目的は牛乳でも、卵でもない。
レジ嬢に会うためだ。
彼女のレジに並ぶためなら、買い物など何でもいい。
ある日は、バナナ一本。
ある日は、豆腐一丁。
そしてある日は、なぜか大根を二本。
「大根、二本も何に使うんですか?」
妻のような質問をしてくるわけではない。
レジ嬢は淡々と、
「238円です」
と言うだけだ。
それでも私は、その声を聞くたびに胸が高鳴った。
ある火曜日、私は意を決した。
「……あの」
「はい?」
「いつも、ありがとうございます」
「……?」
彼女は少し首をかしげた。
私は慌てて付け加えた。
「いや、商品じゃなくて……あなたに……」
言ってしまった。
しまった。
店内の空気が一瞬止まった気がした。
すると彼女はニッコリ笑って、
「ポイントカード、お持ちですか?」
私は思った。
恋は、ポイントにはならないらしい。
それでも私は翌週も東急ストアへ行った。
そして彼女のレジに並んだ。
買ったものは――
牛乳一本。
卵一パック。
そして、必要もない大根二本。
レジ嬢は私を見るなり、
「大根、お好きなんですね」
私は胸を張って答えた。
「ええ……あなたほどではありませんけど」
彼女は一瞬黙った。
そして、
「……お会計、438円です」
私は悟った。
どうやら私の恋は、
まだ見切り品にもなっていない。
それでも火曜日の午後三時。
私は今日も東急ストアへ向かう。
恋というものは、賞味期限が切れるまで、
なかなか諦められないものなのだ。
