やたら駅の世話がやけるぞ

夕方五時、古びた駅のホームに、ひとりの老人が立っていた。

毎日、同じ時間。
同じベンチに座り、同じ線路を眺めている。

駅員が不思議そうに尋ねた。

「おじいさん、今日も誰かを待っているんですか?」

老人は笑って答えた。

「いやあ……待っているというより、駅の世話をしているんですよ」

「駅の世話?」

老人はうなずいた。

「この駅はね、昔からやたら手がかかるんです」

ホームの時計が少し遅れている。
ベンチには落ち葉が一枚。
古い蛍光灯が、チカチカと点滅している。

老人は時計を直し、落ち葉を拾い、蛍光灯を見上げた。

そして、小さな声で言った。

「まったく……やたら駅の世話がやけるぞ」

その言葉を聞いて、駅員は笑った。

ところが、ある雨の日。

老人は来なかった。

次の日も、その次の日も。

一週間が過ぎた。

駅員は気になって、老人がいつも座っていたベンチの下を掃除した。

すると、一枚の古い写真が落ちていた。

写真には、若い頃の老人と、ひとりの女性が写っていた。

二人の後ろには、今と同じ駅があった。

写真の裏には、こう書かれていた。

「この駅で、君を待っています。
もし先にいなくなっても、毎日ここへ来るからね」

駅員は写真を握りしめた。

その瞬間、ホームに電車が入ってきた。

ドアが開く。

誰も乗っていないはずの最後尾の車両に、駅員は一瞬だけ、老人と若い女性が並んで座っているような気がした。

電車が走り去る。

静かになったホームで、古い時計がカチリと音を立てた。

それまで少し遅れていた時計が、いつの間にか正確な時刻を刻んでいた。

駅員は笑ってつぶやいた。

「……もう、駅の世話はしなくていいんですね」

夕焼けのホームに、風が吹いた。

そして誰もいないベンチの上に、桜の花びらが一枚だけ舞い降りた。