「皆さん 悲しいお話です。 妹が犬に噛み千切られました。そんな真夜中の物語です。」

三日月の晩、僕は眠れなかった。僕の頭の上に、孔雀が羽を落とし飛んで行く。僕の布団は汗でぐっしょりだ。
僕は眠れずトイレへと向かった。廊下は線香と昨日の雨で土が湿り気持ち悪くなりそうな匂いを放っていた。
すると廊下に花柄のワンピースを着た妹が1人、三日月を見つめ、かもめを歌っていた。

「何時まで起きてるんだよ 寝ろよ。」

「嫌よ!!この障子紙の向こうでパパとママが何しているかわかる?」

妹は何時ものように、笑顔で話す。

「わからないよ。」

「じゃあ覗いて御覧なさい。」

そう言うと妹はヌクっと立ち上がり、障子紙に穴を開けた。
障子紙の向こうから、母の笑い声と父が何かで何かを叩く音が聞こえた。
その音が聞こえる度妹はほほほほと三日月を見つめ笑った。


僕は障子紙から向こうを見ると、父と母が姉の腹を裂き、臓物を解体している所だった。
僕は言葉も出ず、見たくは無いのに体は動かず、姉の死を見つめていた。

「お姉ちゃんが両親に…」


「真っ白な肌に真っ赤な血の花
咲き乱れ
開く口元 声は出ず
両親微笑む三日月の晩」


妹は僕に言った。

「次は私達の番よ。あのねお兄ちゃんそこにいる女の人、ママじゃないは、ママは死んだは」

妹は笑顔で話す。

「えっ…」

「お父さんの再婚相手にご飯作ってもらってたのよ。だからねお姉ちゃんは邪魔者だったのよ。
あの人の事、なんだかんだうるさかったでしょ?お姉ちゃんは嫌だったの。お父さんを恨み、あの人を恨んで死んだのよ。」


僕の頭の中に、黄色と赤の渦巻きがぐるぐる回っている。
時に孔雀がやって来て、渦巻きの中に羽を広げる。そこへ甲虫がやって来て、僕の脳味噌を少し噛む。
僕は兄弟から騙され、本当の母じゃないと言う事も知った。
僕は唾を飲み、妹に言った。


「勉強になりました…」


「感謝しなよ。お兄ちゃんはもう一人前の大人なんだからさ。」


僕はトイレに行き、覚えたての煙草をふかした。マルボロメンソールは川のように、喉を流れ冷たさを残す。それが癖になるんだ。


「悲しき夜明け
一本の煙草を吸う僕は
絶望少年と呼ぶのだろう」


時計は朝の7時を差していた。
妹は小学校へ、僕は小説を書いていた。家には誰もいなく、テーブルの上の夏目漱石の本が夏風に吹かれ、ページがめくれている。
僕の独りっきりの時間は早く進み夜を迎える。
時計の針は夜の19時を差していた。
妹はまだ帰って来ない。
僕は心配になり、外へ出た。


家の近くの鳥居が三日月と重なり鴉達の休憩所となっていた。

「最近やけに三日月が続くな。」
僕の言葉に反応したのか、鴉達が一生に山へ帰っていった。
だが妹は帰って来ない。
僕は近くの池や墓地を探したが、見つからない。
今頃家では、父が知らない女を連れ込み、切り刻んでいるのだと考えてしまうと帰りたくない。

丘に登り、ボブディランの歌でも歌いたい気分だ。
そんな事を考えていると、心が温かくなり、足元に水色の花が咲き出した。花は月の光に照らされ、青く水に浮かんでいるように見えた。恐怖、絶望、癒やし、この微妙な感情が僕の心を柔らかくしていく。

そんな時、柿の木辺りから、叫び声が聞こえた。間違いなく妹の声だった。色とりどりに花が光る農道を走った。

すると、妹は5人男達に遊ばれ、体に幾つもの傷が付き、ひゃひゃひゃひゃと笑う男達に抱きしめられながら、亀やミミズ、蛇や芋虫達を入れられ、失神していた。

僕は助ける事は出来ず、走って家へ帰り、障子紙に血液が飛び散った跡を何度も見ながら、僕は自分のバナナをこすった。
バナナをこすればぬるぬると溢れる僕の愛。
パンツに染みつく妹の裸。
黄色い染みを見てしまった僕は、真夜中の悪人だ。
その時父の笑い声と妹と遊ぶ男達の声が「ヒャハハハハハ」と響いた。


「煙草のように消える命
明日は見えるか見えないか
夏の夜空に照らされて
妹射手座を探してる
闇に包まれる僕の自身
夏に眠れない絶望少年」

明日なき少年
完