れーらの気侭小説 -5ページ目

れーらの気侭小説

フィクション小説を書いていましたが、醒めてしまい休止中です。


∮前回までのあらすじ


ゴールを目指していた前田たちの行く手を空から降ってきた何者かが阻んだ。

三人を残して一人奮闘する前田だったが、戻ってきた高城と共に応戦する。

一方、ゴールを目の前に躊躇う菊地の足を誰かが前へと進めた。

ゴール寸前で菊地が目にしたものとは一体……。


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前田と高城が闘っている場所の西側には、ここにも山を登るメンバーたちがいた。

玲奈たち五人だ。

「やっぱり玲奈さんの言った通りでしたね!」

山内が笑顔で山を駆け上る。


時間は少しだけ遡る。

カルジオらの追手から逃れて山小屋に逃げ込んでいた時のことだ。

山のふもとを溶岩に囲まれたのが幸いし、その追手はやがて森へと消えていった。

そのときルイマリーらの出現に兵士たちが騒いでいたことを、彼女たちも小屋の中から見ていた。

そして見たのだ。

空を飛ぶ三人が火山へ飛び込む瞬間を。

そしてその直後のペットの通知で確信を得た。

「あそこがゴールみたいですね」

横山と永尾はすでに笑みを隠しきれない様子だ。

それでも玲奈だけは笑顔を見せなかった。


それから程なくして彼女たちは小屋を出た。

ふもとには兵士の姿は一人としてなく、代わりに森や火山の周辺で争いの声が聞こえた。

「皆、ゴールするまで気を抜かずにね」

落ち着いた声音で言う玲奈の言葉で、笑っていた者の顔から笑顔が消える。

ふもとに溜まった溶岩は永尾の能力で体を浮かせて渡った。

そこからは争いに捲き込まれないよう、極力森の中を進んだ。

そのおかげで彼女たちの手足には擦り傷が多くできたが、特に気にするものはなかった。

というより、火山に近づくにつれて恐怖という感情が芽生え始めたため、多少の痛みなど気にならなくなっていたのだ。


そして現在に至る。

「やれやれ……」

一時は玲奈の言葉と周辺の騒ぎによる緊張感から笑みを無くしていた研究生たち。

だが危険も離れた今となってはその自制も利かなくなったらしい。

山内、横山、永尾の三人は、玲奈と大矢を追い越して上っていく。

玲奈も定期的に超音波を使って周りの状況を探っているが、特別気にかかることはない。

それでも油断は禁物だ。

今また地鳴りと共に、空から火の粉が降ってきた。

「ほらー、皆気をつけてよ~」

「わかってますって~!」

山内たちはひょいひょいと跳ねるようにしてその火の粉を避ける。

しかし、その火の粉はただの火の粉ではなかった。


「伏せて!!」

地に着いた火の粉は膨張してむくりと起き上がり、人の姿へと変わった。

そして目の前の三人に向けて光る球を放った。

背後からの不意打ちに三人とも対応できず、被弾し悲鳴をあげる。

「っ!」

それを防ごうと向かった玲奈たちの前にも、五人の男が立ちふさがった。

そのうち一人は今玲奈が突っ込んだときに倒したが、それでもまだ四人いる。

すぐに助けに行くなんてとてもできそうにない。

大矢がそう思った矢先、男たちは次々と倒れていった。

(あれ?……うぅ……気持ち悪い……)

大矢もまた得体の知れない何かに体の自由を奪われ、体を抱えるようにして地面に伏せた。

そしてどこからか、「ごめん!」とだけ声が聞こえた。


玲奈が駆けつけると、山内たちはやっと四人いるうちの二人を倒したところだった。

山内と横山がペアになって一人を引きつけ、もう一人を永尾が相手している。

「二人とも伏せて!」

今度は指示が伝わり、山内らは伏せた。

その上を玲奈が飛び越え、男に向かって手を開き、男がうずくまったところでその体を燃やした。

燃やしたと言っても、玲奈の能力は〝氷火〟。

熱さに苦しみ悶える男も、やがて全身が凍りつき動かなくなった。

(よし、あと一人!)

最後の一人の姿は宙にあった。

玲奈が標的に向かって手を掲げると、やはりその男も同様に苦しみだし、動くこともままならなくなった。


ブーン。

『第3ステージ生存者45名中、残り31名。脱出者11名』


(鳥?もしかして……)

目の前の敵に気を取られてはっきりとは見ていなかったが、今男の向こう側を大きな鳥のようなものが通り過ぎ、火山に飛び込んでいった。

そしてその背中には人が一人乗っていたような気がした。

(とりあえず)

一先ずは先ほどと同様、男を凍らせて身動きを封じた。

その後で先に倒した五人と山内たちが倒した男たちも凍らせた。


「真那、ごめんね。大丈夫?」

玲奈はうずくまる大矢のもとに駆け寄って、彼女の背中を擦る。

「う~、まだ少し気持ち悪い」

(もうちょっと上手くならないと。誰かが近くにいる時は危険だな……)

玲奈は自身の能力の新たな可能性を見出したのと同時に、その危険も感じた。

便利な能力も使いどきを間違えば惨事につながると。

それからあともう一つ、彼女にはやらなければいけないことがある。

「ね?だからゴールまで気を抜かないでって言ったでしょ?」

三人への説教。

それは彼女にとって決して得意なことではなかったが、なんだか言わなければならないような気がした。

三人は素直に謝り、再び気を引き締めた。


大矢の回復を待って出発した一行は間もなく火口にたどり着いた。

上ってきたのとは反対の方から何か争いの声が聞こえるが、そこに向かおうとする者はいない。

「ゴールだね」

熱のこみ上げる火口を覗き込んで玲奈がいう。

恐怖からか、ゴクリと喉を鳴らした山内ら三人は手をつないでいた。

それを察した大矢は玲奈と横山と手をつなぎ、五人全員が手をつないだ形になった。

「いろいろあったけど、これで解散か」

大矢がそう呟くと、山内は目に涙を浮かべた。

「そんなこと言わないで下さいよ~」

「……寂しくなりますね」

「ありがとうございました!」

横山と永尾もそれぞれ思いを言葉にする。


(優子さん。私、このイベントの目的がよく分からなくなってきました)

「お祭りなんだよ?楽しまなきゃ!」

そう言っていた大島の言葉がどこかに引っかかっていた。

その言葉に乗って好まない争いを起こしたり、その倒した相手を助けたり。

玲奈は自分でも自身の取る行動について正しいのかそうでないかの判断ができなかった。

(でもきっと、きっとこの先に答えがあるんだろうって思います)


「行くよ?」

せーのという掛け声で、五人一緒に火口に飛び込んでいった。


(優子さんは今、楽しんでいますか?)


ブーン。

『第3ステージ生存者45名中、残り26名。脱出者16名』




to be continued...