切れない糸 | 家具 通販 赤や 竹田のブログ

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坂木司さんの「切れない糸」を読みました。


切れない糸 坂木司

坂木作品を読むのは「先生と僕」に次いで2作品目。
著者の読みやすい文章と人物描写がとても気に入った。

周囲が新しい門出に沸く春、思いがけず家業のクリーニング店を継ぐことになった大学卒業間近の新井和也。
不慣れな集荷作業で預かった衣類から、数々の謎が生まれていく。
同じ商店街の喫茶店・ロッキーで働く沢田直之、アイロン職人・シゲさんなど
周囲の人に助けられながら失敗を重ねつつ成長していく…。

あらすじは上記の通り。

主人公の和也のキャラが愛すべき人物造形でとても良い。
困っている人、困っている動物を見るとほっておけないという心優しい性格がとても和む。
かといって、馬鹿正直で愚直ないかにも良い人という人物像でもなく、
若者らしい、周りへのちょっとした妬みや、将来の不安を持ち合わせた、
実在したら友人になりたい!と思わせるようなサジ加減の善人キャラ。

連作の短篇集なので、毎回和也は全てを見透かしたような推理力を持つ友人の沢田とともに謎を解き明かす。
この沢田の人物像がちょっと現実離れした捉えどころのない印象だが、
探偵役らしからぬ、謎解き後も次はどうするかを考えられる心の優しい若者。

先日読んだ坂木作品の「先生と僕」も、同じく二人の若者が日常の謎を解くスタイルだったが、
謎自体が結構毒気があって、青春ミステリとしては少し情がもの足りない印象。
この作品は心にしみる温かみのある話が多く、
何より、家を継いだ和也が社会に出て、クリーニング屋としても人間としても成長していく様がとても清々しい。
そして全てを達観した体で傍観者を決め込んでいた沢田もまた和也との交流で、
人間的に変化していく様子も、読んでいて胸が熱くなる。

設定的にはクリーニング屋のよもや話が興味深い。
一人暮らし生活の長かった私は、よくクリーニング屋にお世話になったが、
こんなに奥深く、繊細な仕事とは思ってもみなかった。
これから服をクリーニングに出す度にもっとクリーニング屋さんに感謝しようと思った。

舞台になる商店街も良い。
シャッター通りが多い昨今、こうした生きた人がたくさんいる商店街の下町の人情話は心にしみる。

毎回解決する謎に古い映画の小ネタが挟まれるのも、映画ファンの自分的にはストライク。
文末の解説にもあったが、フレンチトーストのくだりで、
シゲさんが湯のみを差し出して「こういう器で卵液を作ろうとして失敗した奴を知っている」
「クレーム客がクレイマーになった」と言うシーンなんかは、
映画を観た人にはこの謎がすぐにわかってしまうが、やっぱりニヤリとしてしまった。

余談だが、この話で沢田が旨いフレンチトーストの作り方を伝授するが、
最近たまたまネットで同じように美味しいフレンチトーストの作り方を見たのも相まって、
自分の中でフレンチトースト熱が上がった。今度チャレンジしようと思う!