長沢 樹さんの「消失グラデーション」を読みました。
消失グラデーション 長沢 樹
年末の「このミス」にもランクインしていて、本の帯も有名作家さんの賛辞の嵐だったので、
これは読んでみよう!と流されやすい自分は早速手に取りました。
しかしネタバレを書かずして感想を書くのが非常に難しい本だ…。
高校が舞台。主人公は男子バス部の部員。部活を中心にクラスメイトや先生達が主たる登場人物。
ということで、甘酸っぱい青春ミステリなんだろうな…と想像していたのですが。
えーっとこれって何てギャルゲ?いやエロゲ?
直接的な描写は無いものの、フラグさえ間違えなければハーレムエンドに突入できそうな、
手当たり次第に女性に手を出す主人公を中心にした人間関係は、まるでギャルゲーのような設定環境。
ツンデレな後輩やしっかりものの女子マネ、リストカットを繰り返す女子バスケ部のエースやら、
伝説化された女子プレイヤーの先輩、主人公に求愛してくる男子バスケ部のキャプテン、
主人公を誘惑する大人の女性顧問コーチ等々…。
ひとつ間違えたら漫画やゲームの世界になってしまいそうな世界観。
しかし、そうはならないのはこのラノベっぽい設定を吹き飛ばすような
迫力あるバスケの試合や練習の細かい情景描写や、
この世代特有の壊れそうな危うい心理描写が巧みに描かれているところにあると感じた。
そして何よりこの小説の骨格をなすトリックが見事。
アンフェアかといえばそうでもない。
グレーゾーンなトリックに自分はコロッと騙された。
斬新なトリックとは言いがたいが、
そこに至るまでの物語の積み重ねをよく考えたものだと感心した。
これ系の他の作品を例えに出すこともままならないが、
名作と言われる作品と遜色ない面白さだった。
この小説はよくよく考えられた一発ネタみたいなトリックだったので、
作者の次作に是非注目したい。