参の段 弐 『目覚める明日夢』 | 仮面ライダー響鬼・異伝=明日への夢=

参の段 弐 『目覚める明日夢』

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ぽこり

 ぽこり
 
  ぽこり……

 奇妙な浮遊感が明日夢を包み込んでいく。

 ひどく現実味がない。まるで水の中に浮いているような、そんな感覚。
 どちらが上でどちらが下かさえ分らない。
 それにここはとても暗かった。

(もしかして……俺、死んだのか?)

 ぼんやりとした思考の中で、明日夢はそんな事を考えていた。

 あれからどれくらい時間が経ったのだろう。
 皆は無事だったのだろうか。

 ──そもそも、自分はあれからどうなった?

『天狗』に襲われ、がむしゃらに抵抗し、そして『あの剣』を手にとってからの記憶が無い。
 ただ、どうしようもない倦怠感と睡魔が身を包む。

 そんな時をどれくらい過ごしたのだろう。
 遠く、かすかに誰かが自分を呼ぶ声が聞こえたような気がした。

『……す、む』

 眠い。だがその呼び声に明日夢は、徐々に現実に戻されるかのような感覚を覚えた。

『あす、む……』

 誰だろう? なにか懐かしい声のように思える。

「明日夢!」

 そして自分を呼ぶ声に、明日夢は現実へと帰還した。




「明日夢っ、明日夢っ!」

「かあ、さん?」

 目を開くと、そこには白い天井と、心配げに自分の顔を覗き込んでいる母の顔があった。

「ああ、よかった……っ。あきらちゃんからアンタが倒れたって聞いて、母さん驚いて……っ」

 そういう母の目は涙で潤んでいた。

「……ここは?」

「病院よ。もう、連絡受けてびっくりしたわよ。下校中にいきなり倒れたって聞いたから。しかも原因が栄養失調だなんて」

「……? 栄養失調??」

 その時、チクリと右腕に痛みを感じて見ると、生理食塩水とブドウ糖の点滴が刺されている。

「あんた、ちゃんとご飯食べてたわよね? なんで栄養失調なんてなってるの?」

「そう言われても……」

 責めるような、怪訝そうな母の顔を見やって、明日夢は考え込んだ。
 確かに運動は欠かしていないし、それに見合ったバランスの良い食事を心がけてはいる。カロリーも充分摂っているはずだ。

 そこでふと、あることを思い出した。

『鬼』達は総じて大食漢である。それは『鬼』として人外じみた能力の代償に、人並み以上のカロリーを消費するからだ。
 あの時、『天狗』と戦った時、明日夢の腕は『鬼』と化してした。
 その後『あの剣』に手を伸ばした時に感じた、爆発的な力の奔流を考えると──

 そこまで考えて、明日夢の背筋が凍りついた。

(じゃぁ……、俺、あの後まさか『鬼』にでもなったのか?)

 まさか、そんな。
 自分は『鬼』に成れるほど『鍛えて』はいない。
 だが──『鬼』の腕と化した自分の腕を見てしまった後では、自分が『鬼』になったことを、『なってしまった事』を否定する事が出来なかった。
 今でも思い出せる。『あの剣』を手に取った時に感じた、己の中から溢れるような『力』の奔流を。
 獰猛(どうもう)な破壊をもたらす力の激流を。

「ちょっと、明日夢。アンタ、大丈夫?」

 心配そうに覗き込む母の顔を見て、明日夢は一旦考えるのを止めた。

「あ、うん。大丈夫だよ」

「本当に?」

 訝しげ(いぶかしげ)な視線を送る母に向かって、明日夢は空元気を見せた。

「大丈夫だって。多分……うん、受験で疲れてたんだと思うからさ。ほら、頭使うとカロリー消費するから。多分そのせいだよ、きっと」

 自分でも無茶な論理だと思うが、母は難しい顔をして納得しようとしたらしい。

「ならいいけどねぇ。ともかく2~3日は入院ってことだから、しっかり治しなさいよ」

「分ってるって」

 母はふぅ……とため息をついて、席を立った。

「そう言えばさ」

「? 何」

「ひとみちゃんも倒れてこの病院に運ばれたらしいわよ。なんでも重度の貧血だって」

「え?」

 その言葉を聞いて、なぜかあきらが必死で懇願(こんがん)する姿を幻視した。

「仲がいいのは良いけれど、何もこんなことまで二人仲良く病院行きになることないでしょうに」

「持田が……?」

 その時、明日夢の背中を冷たいものが走った。
 そう──大事な、とても大事な何かを忘れているような。

「痛……っ」

 その瞬間ズキリと頭痛が起きたが、それも一瞬のことだった。
 病室から出ようとした母が、半ば驚いたように声を上げたからだ。

「あらぁ! ヒビキさん!? どうしてここに? なんかケガしているみたいですけれど、大丈夫なんですか?」

「いや~ ちょっと車で事故りましてねぇ。明日夢はまだ寝てます?」

「あらあらまぁ。 ちょうど今、目を覚ましたトコですよ。 明日夢~ヒビキさんがいらしたわよ」

 キィコキィコと車がきしむような音と共に、ヒビキが病室に入ってきた。
 ただし、車椅子に乗り点滴をうちながら、胸に包帯を巻いてという姿であったが。
 しかもその表情はいつもの飄々(ひょうひょう)とした笑顔が、青ざめた顔色の悪いものであったことが、明日夢を驚かせた。

「ひ、ヒビキさん!? どうしたんですか、一体!!」

「まぁ、その話しはおいおいとな。とりあえず今日から同室となるんでよろしく!」

 そう言って、ヒビキはいつもの敬礼をしてみせた。


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