参の段 壱 『咲き乱れる桜』 | 仮面ライダー響鬼・異伝=明日への夢=

参の段 壱 『咲き乱れる桜』

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 飄々(ひょうひょう)と風が鳴る
 魔気を(はら)んだ風が

 そんの風の中、眼前に立ち塞がるは、頭部には牛の様な角を。全身には針の毛皮で武装した、二本足で直立する巨大な異形の『モノ』
 

 その『モノ』が風を吹き飛ばすが如き咆哮をあげて、目の前にいる『(もの)』を威嚇した。

 だが、その者は常人なら失神しかねない獰猛(どうもう)咆哮(ほうこう)を、文字通り風のように受け流し、背には剣ともハープとも見える奇妙なものを。そして両の手には(いかずち)をアレンジしたような三つ巴の紋章が刻まれた手のひらに納まるような丸い──まるでヨーヨーの様なものを構えていた。

 ──そう。そのバケモノ『魔化魍』『ヤマアラシ』の前に立つ者も『人』の姿をしていなかった。
 
 身体は八重桜の様な鮮烈な桜色。身体には『弦』の様な胸甲や腕輪を。
 何より特徴的なのが、風になびいたかのように後ろに流れる一本の巨大な『角』があることだった。

『鬼』

 しかしその姿は、女性特有のしなやかな肢体と、若さを感じさせる稜線(りょうせん)を描いている。
 おそらく十人が見れば十人がその異形に『美』を見出すことだろう。

 無論魔化魍たるヤマアラシには、その美はなんら価値を持たない。
 やおらその巨躯を回転させて、その太い尾でその少女の『鬼』に襲い掛かる。

 だが

「はっ! 遅いよっ!!」

 可憐だが気合の入った声を放ち、その『鬼』は手に持ったヨーヨー状の道具を放ち、木の枝に巻きつけると、軽々と宙を舞ってその攻撃をかわした。

「この咲鬼(サキ)さんに当てようなんて、十年早い早い!」

 咲鬼と名乗った少女の鬼は手に持ったヨーヨー状の道具を巧に使い、木々の間を風の如く駆け抜けて行く。
 ヤマアラシはやっきになってその巨大な尾を振り回すが、周囲の木々をなぎ倒すだけで咲鬼には全く当たらない。

 ことここに至ってどちらが追い詰められているかは自明であった。

 ついにヤマアラシが体勢を崩すと、咲鬼はヨーヨー状の武器を両の手から放ち、それをその巨大な角に巻きつけた。
 そしてその弦を手繰る(たぐる)と、ヤマアラシの頭上に降り立った。そしてその弦を腰に固定し、背中に担いでた音撃武器を抜き放ち、ヤマアラシのその脳天に突き刺す。
 
「これで止めだよっ!」

 咲鬼がバックルから音撃弦を外し、音撃武器に装着すると武器の剣先が展開し、ハープともギターとも見えるもの──ハープギターへと変化する。

 咲鬼はピック状になった爪を振り上げ、音撃をかき鳴らした。

「音撃斬!『桜花散華』っ!!」

 山野に激しくも流麗な『音』が響き渡る。その清めの音にヤマアラシが断末魔の悲鳴を上げ、激しく身悶えしながら咲鬼を振り落とさんと暴れるが──

「往生際が悪いよっ あんた!!」

 角に巻きついた弦で身体を固定し、咲鬼はなおも清めの音をかき鳴らす。
 そしてついに。

『──オオオオンン!!』

 ヤマアラシが一際雄叫びを放つと。ピシリ……ピシリっ、とその巨躯がひび割れていき、ついに爆散した。

「はい、これで一丁あがりっと」

 咲鬼は軽々と地に降り立つと、爆散した魔化魍の欠片を面倒くさげに払う。
 すると、その咲鬼に近寄ってくる人影が現れた。

「随分手こずったな。サキ」

「あ、権田(ごんだ)さん」

 権田と呼ばれた30代後半と思しき人物は、ヤマアラシによってなぎ倒された周囲を見渡してため息をついた。

「倒すのはいいが、周囲に被害を出しすぎだぞ、サキ。サポーターやってる俺の身になってくれ」

「うぇー? 人里に入る前に倒したからいいじゃないですか」

 咲鬼の顔が輝くと、そこにはあどけない10代後半の少女の素顔が現れた。
 やや眼差しが鋭い事を除けば美少女と言ってよい。スラリとしたプロポーションは変身したままであることを除いても均整が取れているのが伺える。
 そしてやや細面で筋の通った鼻筋がともすれば鋭利見えるが、小ぶりで桜色の唇と長いまつ毛がどこか小生意気な様でいて、小悪魔的な愛嬌をかもし出していた。それでいながら墨を流したような黒髪をポニーテールにしているためか、清潔感や活発さといった好ましさを印象付けている。

「まぁいい。いつものことだしな」

 権田は短く刈り上げた頭を掻きながら、諦めにも似たため息をつく。

「なんですか、それ。私が壊し屋みたいじゃないですか」

 愛らしくサキは頬を膨らませるが、権田は呆れたような視線でサキを見返す。

「それよりサキ。次の仕事だ」

「はいはい……って、ちょっ、待って下さいよー! この案件片付いたならクリスマス楽しもうって、もう友達と約束しているのにぃ~」

「……それがそうも言ってられなくてな」

 渋い表情を見せる権田の表情を、サキは見逃さなかった。
 その表情が少女から、人々を守る『鬼』のそれに変わっている。

「何が、あったんです?」

「色々だ……そう色々な」

 権田は宙を見上げてポツリと言った。

「響鬼が倒された」

「なっ!?」

「倒した相手は……『鬼』だ、そうだ」

 それを聞いたサキは唖然とした表情をしていた。

「俺にも全部情報が入っているわけじゃない……。天狗の『完全体』が現れたとか、吉野が封印してたってぇヤバイ代物が奪われたとか……情報が錯綜していてな。『祓われた』はずの『鬼』まで出てきたって話もある」

「──それで、私は何をすれば?」

「関東支部に出向して欲しい。今あそこはヒビキが倒れた後、色々きな臭い事件がおきたらしくてな。──つまりは、助っ人というわけだ」

 サキはコクリと頷いて無言の承諾をした。

「つまりは『鬼祓い』をしろと」

「……場合によっては」
 
「分りました」

 そう言って、サキは薄暗い雲に包まれた空を見上げた。

「嫌な空……」

 それは、少女の行く末を予見しているかのようだった


 
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