[技あり関西]須恵器にX線、産地を推定 大谷女子大学教授・三辻利一さん67

2003.05.06 大阪夕刊 3頁 写有 (全2,501字) 












《すそ野からの挑戦》



大谷女子大学教授、奈良教育大学名誉教授・三辻利一さん67



◆指紋元素から古代復元



モノを通じ歴史を再現する考古学で、モノがどこで作られたかは、大きな意味を持つ。例えば、有力者が葬られた古墳の副葬品が何百キロも離れた地で製品にされ、運ばれていたとすれば、そこから当時の政治や社会が復元できる可能性もある。



三辻さんがそれに挑戦し始めて四半世紀。各地の遺跡で普通に発掘され、その生産跡が確かめられるような遺物こそ歴史の語り手になると選んだのが「須恵器」だった。古墳時代の五世紀に朝鮮半島から技法が伝わり、各地の古墳などから出土する硬質の土器。産地の推定は、その破片を粉末にし「蛍光X線分析装置」で行う。鉄鋼メーカーなどが品質管理に使う装置が応用できるとわかり、十数万点の須恵器の分析から産地ごとに異なる「指紋」を見つけた。最大の窯跡群で、大王権につながるという「陶邑(すえむら)」(大阪府堺市南郊)産の須恵器が全国に配られていたことを突き止めた。須恵器から古代社会が少しずつ見えてきた。






<談>  物質を透過するX線と考古学は意外に縁が深いんです。ドイツの物理学者レントゲンがX線を発見した翌一八九六年に早速、エジプトの考古学者フリンダース・ピートリが、包帯にくるまったミイラのX線透視写真を撮っています。



そのX線にはもう一つ、特定の元素に照射するとその元素に固有の波長を持つ蛍光X線が発生するという特徴があります。その原理を基にしたのが「蛍光X線分析法」です。粘土が素材の土器には様々な鉱物の元素が含まれており、それらの蛍光X線を発生させれば、知りたい元素を複数であっても同時に分析し測定出来ます。



「粘土のもとになる岩石は地域ごとに成り立ちが異なり、その鉱物の元素の特徴から土器の産地もわかるのでは」という発想は考古学者から出されてました。一九六八年に赴任した当時の奈良教育大では、出土遺物の年代測定法を開発するなど、自然科学の方法を考古学に役立てる研究が進められていました。私は海水中の微量元素などを分析していたことから土器の産地推定に挑戦したんです。



そこで見つけられた「須恵器の指紋」とは、どんなものですか。



◆地域により量異なる



<談>  九州の大宰府近くに営まれた牛頚(うしくび)窯跡群をはじめ西日本から関東・東北までの須恵器片が次々に持ち込まれ、元素を調べました。そのうち、素材の粘土には、共通して含まれながら地域によりその量が一定の割合で異なる指紋のような元素があることに気付いたんです。カリウム鉱物に含まれるルビジウムなどの四つの元素です。



裏付けようと、地質の異なる海浜の砂を調べました。私の郷里の福井県の敦賀半島と対岸の越前岬の砂浜を選びました。構成する岩石の違いから予想通り四つの指紋元素が地域差を示しました。



指紋元素が各地域で異なる特徴を示すのは、花崗(かこう)岩の中の長石類の違いに由来することも突き止めました。その長石類が微粒子になり須恵器の粘土に残るのです。それがわかった時はパッと視野が開けたような感動を覚えました。試料を提供して下さった多くの人に何とか応えられ、やれやれという思いでした。が、まだ大きな問題が残っていたんです。



産地推定を普及させるため、いかに方法論を固めるか、ですね。



◆給先との関係追跡



<談>  いくら科学的なデータを出しても、産地(窯跡)と供給先(古墳など)を年代的に整理しておかないと、考古学に役立てられない。そこで、窯跡の須恵器の膨大なデータを基に統計学の方法を取り入れ産地推定法を立ち上げました。



例えば、五世紀代の須恵器の窯は地方には限られた地域に一、二基の窯しかないのに、陶邑で百基以上見つかっている。陶邑でこの時期に大量生産されていた。そこで地方窯周辺の古墳出土の須恵器が地元の製品か、陶邑からの搬入品か、統計学的に問いました。福岡県甘木市の朝倉窯跡群周辺の古墳出土須恵器を調べると、地元産も検出されたが、四百五十キロ以上離れた陶邑産も相当数ある。



同様に当時の須恵器はほぼ全国の古墳に供給されていたとわかりました。古代史では、陶邑は畿内の大王権と深くつながっていたとされる。すると、五世紀の倭の五王の一人・雄略天皇が中国の宋に送った上表文に王権の支配を全国に広げたとあることとも関係します。自然科学からそれが提起できたのは大きな成果と言えます。



この推定法は私が開発したということで、他の研究者が入り込みづらく、依頼も私に集中しています。私が自主的に調べた試料も含め、年間四、五千点に上る年が続きました。今後、土器以外でも、埴輪(はにわ)の窯跡で見つかる破片と近くの古墳で出土する埴輪の指紋元素を調べて産地と供給先の関係を追跡し、当時の王権の政治力を復元したい。大阪府高槻市の新池窯群と継体天皇陵とされる今城塚古墳、羽曳野市の古市窯群と応神天皇陵古墳などを調べたいですね。



聞き手  坪井  恒彦



写真    河村  道浩



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◆太い手首、努力の跡  奈良大学教授・水野正好さん



考古学と自然科学を結ぶ全国組織・文化財科学会の会長を昨年、三辻先生から引き継いだ。土器の産地は、私たちの考古学ではその形状などからしか調べられないが、素材の粘土という最も確かなものから分析されている。しかも、その全国的な分布図、戸籍まで明らかにされたのは、ひたむきな熱意の賜物(たまもの)だ。試料の須恵器片を朝から晩まですりつぶし続ける努力の跡はあの太い手首が証明している。そんな熱意と技術に加え、学者としての倫理観をしっかり確立され、広い視野を兼ね備えておられることが、一連の素晴らしい成果につながっている。



写真=九州から東北までの遺跡出土の膨大な須恵器の試料に三辻教授の目が光る(写真はいずれも大阪府富田林市の大谷女子大学博物館で)



写真=蛍光X線分析装置(左側)から得られたデータを検討する



写真=須恵器の粉末は錠剤状に固めて分析装置にかけられる



写真=持ち込まれた須恵器は一部を削り粉末の試料にする



写真=陶邑の窯跡のひとつ栂(とが)第61号窯の実物大レプリカ(大阪府堺市若松台2で)




読売新聞社



[ひと人抄]大谷女子大文学部教授・阪田宗彦さん 見ずして美術を語れない

2001.04.14 大阪夕刊 9頁 写有 (全348字) 












 奈良国立博物館(奈良市)の学芸課長を最後に今春退職し、大谷女子大(大阪府富田林市)の文学部文化財学科教授として再出発した阪田宗彦さん(61)は、「物を見ずして美術を語ることなかれ」と、学生を寺社や博物館に連れ歩こうと計画している。



 学芸員として約30年、密教美術の研究や、正倉院展の担当などを通じて数々の至宝に触れた。仕事に打ち込み過ぎて、家族から「恋人は、くにたちひろ子(国立博子)さんね」と言われる始末だが、「超一級品に囲まれ、豊かな学芸員人生を送れた」と感謝する。



 名宝から離れる寂しさは隠せないが、これからは吸収してきたことを伝えるのが役目。本物を見る目を養うため、講義は演習にも力を入れるつもりだ。「物を前に学生と対話したい。美術への興味を引き出してみせます」と意気込む。



写真=阪田宗彦さん




読売新聞社



大谷女子大が博物館一般公開 生涯教育の場に期待 ハイテク機器も設置/大阪

1999.10.20 大阪夕刊 15頁 写有 (全863字) 












 大阪府内の大学で初めて十六年前に博物館相当施設に認定された大谷女子大学(富田林市、左藤恵学長)の旧資料館が、五階建ての大学博物館に生まれ変わって開館、一般公開が始まった。来春から新設される文化財学科の教育・研究・調査の拠点的な機能も担う。



 文部省が進めている大学博物館構想に沿って学内の教育施設を博物館に格上げする事業は、一部の国立大学などで実現しつつある。しかし、欧米の大学博物館のように、生涯教育の場として社会に開かれるなどの活動はまだ不十分だ。



 このような中、大谷女子大では旧資料館時代から、春秋の特別展示や公開講座のほか、富田林市・中野遺跡(弥生時代)や和歌山市・砂羅之谷(さらのたに)窯跡群、兵庫県加古川市・札馬(さつま)窯跡群、福岡県大野城市・牛頸(うしくび)窯跡群(いずれも古墳時代など)といったさまざまな遺跡の調査を行ってきた。



 新設された大学博物館もこれらの活動を引き継ぐとともに、新たに蛍光エックス線分析装置や考古地磁気測定装置などのハイテク機器を設置し、より精度の高い調査を手がける。また、AV編集室や映像展示室、恒温恒湿保管庫なども備えている。広さは延べ二千二百八十平方メートル。



 所蔵資料は旧資料館の考古学関係をはじめ、付属図書館の古文書や大谷女子短大生活文化学科の中近世衣料などを加えて数千点になった。現在催されている開館記念展示「東アジアの造形(1)」では、中国の蔓(つる)草花鳥文八稜銀杯(唐)や紅陶馬俑(よう)、加彩人物俑(漢)などが公開されている。



 開館式に出た泉森皎・奈良県立橿原考古学研究所付属博物館長は「大学博物館は、例えば隣の韓国でもいかに充実させるかが大きな課題になっており、将来は日本でも、図書館と並んでその大学の質を問われる中核的な役割を受け持つようになるだろう」と期待を寄せていた。(坪)



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 開館記念展示は十一月十二日まで。日曜・祝日は休館。入館無料。



写真=大谷女子大学博物館の開館記念展示で公開されている「加彩人物俑」




読売新聞社