1日のうちに、人生が劇的に変わる―そんなことが、あるだろうか。
この秋、スクリーンで、
そんなタイムリミットサスペンスを目撃することができる。
映画『おまえの罪を自白しろ』
原作は、江戸川乱歩賞作家である真保裕一氏の同名小説。
メガホンをとるのは映画『舞妓Haaaan!!!』を手がけた水田伸生監督。
黒い疑惑がうごめく政治スキャンダルの渦中にある、
衆議院議員で内閣府副大臣を務める
宇田清治郎(堤真一)の幼い孫娘が誘拐された。
犯人から届いたメッセージは
「我々の要求は、身代金ではない。
孫娘の命を救いたければ、
明日午後5時までに記者会見を開き、
おまえの罪を自白しろ」
―政治家として犯してきた“罪”の自白を強要するものだった。
それは、決して明かすことの許されない国家を揺るがす機密案件。
権力に固執し、
巨大な政治的しがらみに身を絡めとられ、
口を閉ざす清治郎。
一方、そんな清治郎の政治秘書を務める
次男、晄司(中島健人)は、
大切な家族の命を救うため、
偉大な父親にもひるまずに真っ向から意見し、
前代未聞の難事件に立ち向かうべく、真相究明に奔走する。
国か、家族か―。
緊迫の中、大きな決断を迫られる24時間。
警察×マスコミ×国民を巻き込んで繰り広げられる、
前代未聞のタイムリミットサスペンス。
華やかなステージや、
これまで演じてきたラブストーリーなどでのキラキラ王道スマイルを
今作では見事に封印し、
政治というがんじがらめの世界の中でも、強い意思を持ち、
父親と相反しながら難事件に果敢に挑む若き議員秘書・宇田晄司役を、
中島健人が見事に体現している。
彼の俳優としての新境地を、この秋、心して見届けてほしい。
晄司の父で、政界で数々の黒い疑惑を抱える国会議員・宇田清治郎を演じるのは、
これまで数々の役を演じ、今や日本を代表する名優となった堤真一。
巨大な国家権力の渦に飲み込まれた政界の大物議員であり、
孫娘の命と自らが置かれた立場との板挟みに遭うという難しい役どころだが、
さすがの表現力、説得力に、唸らされる。
初めての母親役で、
それも、娘が突然融解されてしまうという難役に挑んだのは、
池田イライザ。
政治家の娘という特殊な家庭環境に生まれた緒形麻由美という役を演じるにあたり、
その運命(さだめ)も含め、大きく、
また、繊細な感情のふり幅を表現することを求められたと思うが、
見事に演じのけている。
ほかにも、
強い信念と正義感をもって、
この国家を揺るがす難事件に挑む孤高の刑事に、山崎育三郎。
真実を追求するため躊躇なく鋭い質問を浴びせる報道記者役に美波、
宇田一家の長男として生まれ、埼玉県議を務める楊一朗役に中島歩、
選挙支援ボランティアとして
麻由美の夫、緒形恒之(演:浅利陽介)を支える女性、
寺中初美役を尾野真千子。
錚々たる演技派が名を連ねる。
政界、そして、警察組織、さらに家族の物語、
それぞれの立場で奮闘する女性像を描く本作には、
さらに、重厚な演技で魅せてくれる名優が、続々登場する。
演技者たちの、本気の腹のさぐりあい、
見事なまでの化けっぷりにも、ぜひ、注目してもらいたい。
観はじめたら、たちまち、その世界に引き込まれ、
物語の先を必死で追い、心が揺さぶられる100余分。
「……え…これって、1日の物語なんだよね」
驚愕させられるとともに
事件の謎が解き明かされた時に、
深い闇の先に、きっと、観る者それぞれの思いが交錯し、
自分自身に、あるいは、世の中に、何かを強く問いたくなる…はず。
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映画『おまえの罪を自白しろ』
2023年10月20日(FRY)ロードショー。
(記:ライター日下郁子)