観客の期待をつねに上回ること。
自分の中の固定観念と戦い、お約束や公式からはみ出し続けること。
2015年のスタート以来、
「HiGH & LOW」シリーズのアクションが
邦画限界の常識を更新し続けてきた原動力は、
まさにそこにあると言える。
上記は、マスコミ試写後にいただいた、
『HiGH&LOW THE WORST X(クロス)』のPRESSに記されていた言葉。
ストンと腑に落ちた。
©2022「HiGH&LOW THE WORST X」製作委員会 ©髙橋ヒロシ(秋田書店) HI-AX
「不良高校生たちの喧嘩映画でしょ…」
と、侮るなかれ。
観もしないうちから「疲れた大人」の眼鏡で、
作品のカラーや良し悪しを決めつけるのは、良くない。
本作も、映画館の巨大スクリーンと音響でぜひ、体感してもらいたい傑作だ。
実をいうと私、血みどろ…殴り合い…が、決して得意な方(好み)ではない…。
優しくてやわらかくて、あたたかい世界が、好きだ。
そんな私が、気が付くと、拳を握りしめながら画面に食い入るように見入り
そして、涙を流していた。
©2022「HiGH&LOW THE WORST X」製作委員会 ©髙橋ヒロシ(秋田書店) HI-AX
前作『HiGH&LOW THE WORST』に続き、
累計発行部数8000万部の『クローズ』『WORST』(原作・髙橋ヒロシ/『WORST』は、
『クローズ』の正当な続編)とのクロスオーバー映画となる本作。
天真爛漫で好奇心旺盛、誰とでもすぐに打ち解け、
するりと相手の懐に入り込み、周りの人間を自然と惹きつける
不思議な魅力をもつ主人公・花岡楓士雄を演じるのは、
「THE RAMPAGE from EXILE TRIBE」の川村壱馬。
前作でも感じさせられたが、
人懐っこい仔犬のような表情を浮かべ、
人の心をくすぐるかと思えば、瞬時に強い眼差しを見せ、
そんな人を惹きつける魅力に心を掴まれる。
彼の身体能力の高さも、観る者を惹きつける
武闘派アクションに説得力を持たせている要因のひとつであることは間違い。
そして、楓士雄を支える冷静な頭脳派、
熱い思いを内に秘める親友・高城司役の吉野北人も、続投。
川村壱馬と同じLDH所属のダンス&ボーカルグループ
「THE RAMPAGE from EXILE TRIBE」のメンバーである彼は、
今夏放送のドラマ『魔法のリノベ』にも出演し、
俳優としてのステップをも着実に昇り進める若手の注目株の一人だ。
ほかにも、6歳から子役としても活躍し、
現在NHK連続テレビ小説『ちむどんどん』にも出演し注目を集めている俳優の前田公輝や、
出演作が続き表現力の豊かさに唸らされる若手の注目株・神尾楓珠、
ミステリアスな雰囲気を醸し、演じる役のふり幅の広さを称える声も多い・塩野瑛久ら、
鬼邪(おや)高校、鳳仙学園のメインキャストも続投。
さらに、今回は、えんじ色の学ランをまとい、
“血の門”の呼び名で恐れられる瀬ノ門工業高校という新たな敵が、
ともに鬼邪高の首を狙う鎌坂高校と江罵羅商業高校を傘下に加え
「三校連合」を築き、その勢力を拡大しながら虎視眈々と「鬼邪高狩り」を画策する。
鬼邪高狩りへの執念を燃やす瀬ノ門工業高校の頭に君臨する
最悪の男・天下井公平を演じるのは、
8月31日にファーストアルバム『BE:1』をリリースしたばかり、
話題沸騰中の7人組ダンス&ボーカルグループ
「BE:FIRST(ビーファースト)」のRYOKI(三山凌輝)。
そして、天下井に献身的に寄り添う
“瀬ノ門工業高校最強の男”と恐れられる須嵜亮を、
世界で活躍し多くのファンを虜にする男性ダンス&ボーカルグループ
「NCT127」のYUTA(中本悠太)が演じている。
この、楓士雄や司ら鬼邪高の前に立ちはだかる圧倒的“悪(ワル)”の、
瀬ノ門高校の2人の表現力にもぜひ、注目してもらいたい。
YUTA演じる須嵜のなんともいえない
“哀しみ”“憂い”を含んだ表情からなぜだか目が離せなかった。
内に秘めている思いの丈を想像しては、
物語の展開が気になって仕方なくなる。
そして、RYOKIのすさまじいまでの眼力。
彼に関しても、ここまで周りの誰も心から信じられない
孤独な悪(ワル)になってしまったその理由や、胸の内が気になってくる。
『クローズ』『WORST』ファン、シリーズを観てきたという
映画、原作ファンには、通称「カラスの学校」と呼ばれる「鈴蘭男子高校」のメンツの登場にも、
心が湧き立つのではないだろうか。
あの“殺しは鳳仙”の台詞が印象的な
一枚岩で戦う鳳仙学園でさえもできれば事を構えたくないという究極のハグレ者集団。
数々の伝説を持ち、「鈴欄最強の男」と噂される通称“ラオウ”を、
本作が演技初挑戦というプロ格闘家の三上ヘンリー大智が演じているのだが、
劇中で描かれる彼のバックボーンや立ち居振る舞いにも、心を衝き動かされる。
本作で感心させられたことは、
これだけ大勢の男子…
しかも“悪(ワル)”たちがせめぎ合う状況を描いているにも関わらず、
それぞれのキャラがしっかりと立っていること。
SWORDに出現した瀬ノ門『三校連合』が鬼邪高を狙うという
メインプロットと新たなキャラクターの原案は、
髙橋ヒロシ先生により生み出されたもので、
登場人物それぞれの色と物語が見事にリンクし、
たちまちその独特の世界観に観る者を引き込んでいく。
今作の監督を務めるのは、平沼紀久。
『HiGH&LOW』シリーズを最初から牽引し、
その圧倒的迫力とハイクオリティの映像エンタテインメントを世に放ってきた
久保茂昭監督からそのバトンを引き継いだ。
自身も『HiGH&LOW』全シリーズの脚本を手がけており、
今作にかける熱意や覚悟たるや想像に難くない。
久保監督から引き継ぎ、
本編の屋号を背負うプレッシャーはすさまじいものだったに違いない。
・・・が、見事、大役を引き受け、揃いも揃った
クセモノたちの壮絶なバトルを通して、
見事、受け手の心に刺さるメッセージ性をも描いてみせた。
そして、平沼監督や髙橋先生の描く、
『HiGH&LOW』の世界をしっかりと体現し
期待に応えてみせたキャスト陣の健闘ぶりをも称えたい。
昨今、眉目秀麗、一芸に秀でている、
圧倒的な存在感や華を感じさせる俳優やアーティストの数も増え、
彼らは芸能界、さまざまなエンターテイメントの舞台で、まさに日々しのぎを削っている。
主役に限らず、主要な役どころを射当てるのは、
まさに至難の業といっても過言ではないのだ。
その同じ席を狙うライバル
(…しかも、相当な実力、人気、魅力を備えた俳優、アーティスト)
は、四方八方に大勢いるのだから。
彼らの、真剣なまでの役への作品への取り組み具合が、
その熱量が、きっと、そのままこの映画の骨格となり、
メッセージ性に信ぴょう性を持たせるパワーとなって、
観る者の心を強く揺さぶるのかもしれない、と考えさせられるものがあった。
“喧嘩”“頂(てっぺん)を取ること”へのこだわり、
執念が描かれているとはいえ、
ただそれだけでなく、友情や絆、楽しむということ、
大切なものを守るために闘うということ。
劇中で楓士雄が放つ一言「上とか下とか関係なくねぇか?」
…そこに込められた思いとは。
『HiGH&LOW THE WORST CROSS』が
作品を通して投げかける数々のメッセージ、
そして、熱量はきっと、複雑な現代社会を生きる、すべての人の胸にずっしりと響くはず。
冒頭にも少し記したが、彼らの闘いを熱く見守り感じ入るうちに、
いつしか、試写室の片隅で静かに涙を流していた者が、ここに(笑)
そして、もちろん、HiGH&LOWシリーズといえば!
の楽曲の素晴らしさやキレ、奥行き感、
こだわり抜いた映像の力も、この作品の根底となっている。
大きなスクリーンで観て、体感してみてほしい。
「ひとりじゃねえから、闘える」
男たちの、魂をかけた本気のぶつかり合いを前に、
本能を刺激される快さに浸ってほしい。
9 月 9 日(金)大阪ステーションシティシネマ、
なんばパークスシネマ他 全国ロードショー
©2022「HiGH&LOW THE WORST X」製作委員会
©髙橋ヒロシ(秋田書店) HI-AX
(※監督、原作者、キャストの敬称略)