患者さんに質問されます。

 

『食事でいちばん気をつけなくてはならないことはなんでしょうか?』

 

「傾腸」(けいちょう)という言葉をこれまでたくさんの著書で提唱してきました。

 

傾聴とは、人の話に耳を傾け、よく聴くことです。

「傾腸」とは、自分の「腸」から発する声によく耳を傾けることです。

「傾腸」とは、私が作った造語です。

 

過敏性腸症候群」という病気があります。

ストレスがかかると下痢したり、腹痛が出て、日常の生活がいちじるしく障害される病気です。

この病気には、効果がある食事法があります。

「低FODMAP食」(てい ふぉどまっぷ しょく)という食事法です。

 

 

 

この食事法は、食べるとお腹の調子を崩す種類の糖質を避ける食事法です。

 

この食事法で、「食べたいものが食べられない」という自己コントロールの悩みがでてきます。

 

そのときによく注意してほしいことがあります。

 

それは、「それを食べたい」と考えるとき、「それは本当に自分の体のなかから出た声なのかどうか」ということです。

 

世の中はたくさんの広告、CM、宣伝にあふれています。

テレビCMでもそうですし、テレビの番組のなかにも、視聴者の食欲をかきたて、あおりたてる描写が山のようにでてきます。テレビでいちばん反響があるのが、ラーメン、スイーツ、食いだおれの番組だそうです。

 

街にでてコーヒーを買うために店に入れば、レジの横にはおいしそうに見えるディスプレイに糖質にまみれた食品が、お客さんの食欲をあおります。

街を歩けば、「果糖」という「腸のもれやすさ」(粘膜透過性の亢進)をすすめてしまう「果糖ブドウ糖液糖」の入った甘いジュースが自動販売機で売られています。これらはビジネスから私たちに届く誘惑です。そして、惰性でたくさん食べてしまう。

 

こういうものに影響されると、本当はお腹も空いていないし、本当は食べたいと思っていなかったのに、「食べたい」のだと脳が錯覚するのです。

これは自分の腸のなかから出たものではなく、他人や外界に影響されて脳から出ている「欲望」です。

 

それに対し、自分の体が空腹を実感し、お腹がぐーっと鳴って(胃が空腹時強収縮を起こした状態)、自然に食べたいと思うのは、自分の体から出た「欲求」で、他人に左右されない本能から出るものです。

 

「欲望」と「欲求」は違うのです。

 

わたしたちが健康のために忠実になるべきは、自分本来の、自然な「欲求」です。

 

たとえば、ヨーグルトを食べると、お腹がゴロゴロして、下痢になるのがわかっている人がいます。

「乳糖不耐症」の人です。全員がヨーグルトや牛乳などの乳糖が合うわけではないのです。

 

ヨーグルトには善玉菌が入っている商品が多いですが、同時に「乳糖(にゅうとう)」という日本人の腸には消化の難しい糖質が入っています。そのため、乳糖をうまく消化できない人がヨーグルトを食べると下痢したり、ガスが増えたり、腹痛が出たりします。

 

自分の体は、本当は「自分の腸にはヨーグルトは合わない。できれば食べないで」と思っています。

でも、「ヨーグルトは健康にいいとCMが言っている。友だちも食べている。みんなが食べているから私も食べなければ」という外界からの「欲望」にかりたてられて食べてしまう。

自分の腸からの声を「傾腸」できていない。

自分の腸からの真の「欲求」の声が、かき消されてしまっているのです。

 

自分が食べると本当に健康になる食物を、まわりの雑音にまどわされず、選ぶ。

「あの人」に合っている食品が、かならずしも、自分の腸にとって合うとは限らないのです。

それは腸内細菌は非常に多様であり、指紋と同じようにひとりひとり違うからです。

 

食物を作っている生産者の方たちだって、「それを食べて、本当に健康になる人に届いて欲しい」と思って作っているはずです。

 

自分のことを第一に優先して、大切にしましょう。

自分を大切にできなくては、健康になって他人を真の意味で幸せにすることはできないのです。

 

自分の腸が、なにを真に求めているのか、それを第一に考え、優先しましょう。

 

さまざまな情報や他人の意見ではなく、自分の体からの「欲求」によく耳をすませて、忠実になりましょう

 

そうすれば、自然と、自分の腸にいいもの、合ったものを食べたいと思うようになるのです。たとえ合わないものを「食べたい」と思っても、惰性で食べ続けるわけではなく、一切れや、一口〜二口味わって、頭でわかったうえで、止められるようになります。これが身についた状態が、自己コントロールされた状態です。

 

健康のために、その食欲が、他人にあおられた「欲望」なのか、自分の体から自然に出た「欲求」なのかを考えてみよう。

そうすれば、自然と道はひらけていくものです。

 

医療法人社団信証会 江田クリニック 院長 江田証