夫や妻を亡くす人が増えています。
団塊の世代が高齢になって、死別のリスクが高まっているからです。
人生のなかで起こるライフイベントのなかで、いちばんのストレスは、「配偶者との死別」(100点)です。
2番目のストレスは、離婚(73点)。
3番目は、別居(65点)。
4番目は、拘留(63点)。
5番目は、親族の死(63点)。
6番目は、個人のけがや病気(53点)と続きます。
(ちなみに、退職は45点、経済状態の悪化は38点;点数はストレスの大きさを示す。心理学者ホームズとレイによるストレス評価法による)
妻や夫を看取ることは、生涯のなかで「トップクラスのストレス」だということがわかります。
配偶者を亡くした悲しみは、他人にははかり知れません。
夫婦の間には、長く時間をともにした人間同士にしかわからない喜びと悲しみ、絆(きずな)があるからです。
夫を看取った妻が、いちばん苦しむのが、「後悔」です。
「手術をしない選択をしたけど、あのとき、手術していたら、もっと長生きしてくれたかもしれない」
「あのとき、夫があれが食べたいと言ったのに、食事制限を守らせようと、だめよ、と言ってしまった。
あのとき、食べさせてあげたかった」
「あの病院に連れて行ったけど、コロナ禍で面会ができなかった。面会できる別の病院に入院させたらよかったかもしれない」
お気持ちは本当によくわかります。
たくさんの患者さんの人生を診てきてわかることは、「後悔のない看取りなど、ありえない」ことです。
Aをやったとしても、「Bをしてあげたほうがよかったのではないか」という後悔が残ります。
Bをやったとしても、「Aをしてあげたほうがよかったのでは」という後悔が残ります。
つまり、どんなことをやっても、「看取りには後悔がつきもの」ということです。
何をしても後悔するのであれば、思いやりの心で精一杯の判断をしたあなたに間違いはなかったのです。
そのとき、その瞬間に、あなたは、あなたなりのことをやったのです。自分を責めることはないのです。
夫婦の看取りに際しては、「どんな選択をしても後悔は残る」とあらかじめ心構えをもっておきましょう。
ならば、自分を信じて、自分なりの決断できるはずです。
それでも残った後悔の量は、きっと亡くなった人の心にも「思いやり」として必ず届いているはずです。
一方、故人との葬式で、まったく悲しんでいるように見えない人もいます。
涙もありません。
でもこのような人を「冷たい人だ」と責めないことです。
生きているときに、「十分にやった」「やることはやった」と感じているときに、涙は意外にないものです。
故人と自分のあいだには、たとえ死んだとしても、いっしょに戦ったという絆が残っていると感じるからです。
医療法人社団信証会 江田クリニック 院長 江田証